ナデシコの花は万葉集にもうたわれており、かなり古くから日本にあったようだ。大伴家持がこの花を愛したらしく、ナデシコの花を見ると妻が思い出される、といった意味の歌をつくっている。
ナデシコは漢字で「撫子」と書く。それで「撫でるように可愛がっている子」という意味の言葉を語源として説明する向きがあるが、なんか嘘くさい気がする。語源ではなくもともとあった花の名前に「撫で+し+子」を掛詞したと考えるのが自然で、事実そういう説明をしている解説もある。「撫で+し+子」の「し」は過去の助動詞「き」の連体形で「過ぎし日」とか「去りし人」の「し」と同じ。現代語に直訳すると過去形、「撫でた子」であり、これが大人の女性に使われるときは、たぶん寝所を共にした女性に対して、と考えるのが自然な気がする。が、私が見つけたいくつかの大伴家持の歌は、そういう掛詞で「ナデシコ」は使われていない。ナデシコに「撫で+し+子」と当て字し、掛詞にしたのはおそらくもう少し後世の事だろうと思う。
昔からあったといわれるのはカワラナデシコという品種らしいが写真のナデシコは花弁の切れ込みが浅く、その分花弁全体が平たんになっている。種類が少し違うのだろう。下の写真は中国から入って来た品種で、これを区別するために大和ナデシコ、唐ナデシコという名前が生まれたようだ。外来種。別名、石竹。これも平安時代にはあったようだ。
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さて、大和撫子とは、清楚で可憐、容貌もたたずまいも言葉も美しく、男性を立てるような女性を指すらしい。そこに芯の強い女性のイメージが加わったのは明治以降の事と言われている。いずれにしても男の勝手な妄想としか思えない女性像。女子サッカーの「なでしこジャパン」も命名の際には「大和撫子」のイメージと違うという意見もあったらしい。しかし、万葉の時代から日本人に愛されてきた花と思えばナショナルチームの名前としては悪くない。男の妄想なんぞ、ほっとけ! という事でいいと思う。
なでしこジャパン、英国に負けて窮地。どうなるか。