西部の王者とビッグ・アメリカン | 懐古趣味親爺のブログ

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幼少期(1950年代)から成人期(1970年代)までの私の記憶に残っているものを網羅。

西部の英雄バッファロー・ビルの本名はウィリアム・フレデリック・コディ。射撃の名手で、野牛狩りして肉を供給したことからバッファローの異名をとります。騎兵隊の偵察員時代、イエローハンドと決闘。ワイルド・ウエスト・ショウを組織し、西部の魅力を米国民に伝えたのみならず、ヨーロッパにまで巡業して広めました。そんな彼の半生を描いたのが、『西部の王者』(1944年/監督:ウィリアム・A・ウェルマン)です。

チップス軍曹(エドガー・ブキャナン)が護衛する馬車が先住民シャイアン族に襲われ、バッファロー・ビル(ジョエル・マクリー)が救い、馬車に乗っていたルイザ(モーリン・オハラ)と互いに惹かれあいます。ルイザの父フレデリシ議員は実業家のヴァンダーヴァとシャイアンの土地に鉄道を敷こうと計画。シャイアンの酋長の息子イエローハンド(アンソニー・クイン)はそのことに怒り、フレデリシを拉致。ビルは単身シャイアンの部落に乗り込み、フレデリシを救出し、イエローハンドの提案を仲介して、シャイアンとの和平をもたらします。しかし、野牛の毛皮が高値で売れ、それがきっかけとなって“野牛狩り”が大流行。乱獲による野牛の急減はインディアンにとって死活問題で、シャイアン族はスー族と手を握って蜂起。第七騎兵隊がスー族によって全滅し、シャイアン族はスー族との合流を計画。シャイアン族鎮圧のためにビルは騎兵隊の案内にたちますが、ビルと結婚して愛児の生まれたルイザは平和な生活を願って東部へ帰ります。ビルの作戦により、騎兵隊はウォーボンネット谷でシャイアン族を待伏せ。ビルはイエローハンドを決闘で倒し、シャイアン族を鎮圧します。バントライン(トーマス・ミッチェル)がビルのことを小説にし、ビルは東部で大人気。大統領からも勲章をもらいますが、インディアンの蜂起は白人にも責任があり、インディアンの保護を力説したことから逆に嘘つき扱いされ人気は凋落。しかし、バントラインやルイザの助力で“ワイルド・ウエスト・ショウ”を組織し、西部の精神や風俗を紹介し大成功を収めます。

この手の英雄史を描くには普通120分以上の尺数を必要とするのですが、ウェルマンは90分の中で、スペクタクル・シーン(ウォーボンネット谷での騎兵隊とインディアンの激突は圧巻。インディアンのモブ・シーンは後年B級西部劇で何度も使い回しされています)あり、インディアンの悲しみ(原野に散らばる野牛の白骨)あり、ビルの妻への愛情(求婚シーンの盛りあげ方は見事)と愛児を失った悲しみあり、チップス軍曹とのコミカルな関係など詰め込めるだけ詰め込んでいます。ビルに恋心を抱いていたイエローハンドの妹ドーン(リンダ・ダーネル)とビルの絡みなど物足らないところもありますが、場面処理のたくみさで感動をとぎれさせない手腕は見事。考証違いはあっても、これは映画ですからね。評価が分かれるかもしれませんが、私は傑作だと思っています。最近のやたらダラダラ長い映画をみると、この映画の素晴らしさが認識させられま~す。

 

『ミズーリ大平原』(1953年/監督:ジェリー・ホッパー)は、『西部の王者』の前日談的バッファロー・ビルの物語。

ミズーリ州セントジョセフからカリフォルニア州サクラメント間を、馬を乗り継いで速達郵便を届けるポニー・エキスプレス開設にあたり、バッファロー・ビル(チャールトン・ヘストン)が交通路を調査。イエローハンド(パット・ホーガン)率いるインディアンに襲われてビルは馬を失い、通りかかった駅馬車でランス(マイケル・ムーア)とイブリン(ロンダ・フレミング)の兄妹と出会います。彼らは東部との通信事情の悪さを理由にカリフォルニア独立を計画。彼らの仲間のクーパー(ヘンリー・ブランドン)とペムバートン(スチュアート・ランドール)は私利私欲のためにエキスプレスを妨害しようとインディアンにライフルを売ります。ビルの友人ワイルド・ビル・ヒコック(フォレスト・タッカー)、イブリン、デニー(ジャン・スターリング)、それにビルが駅馬車中継所でインディアンに襲われますが、ビルが酋長のイエローハンドと決闘をして窮地を脱出。交通路が完成し、大統領のメッセージを伝えるポニー・エキスプレスの第1便がカリフォルニアに向けて出発しますが……

史実無視の娯楽西部劇です。バッファロー・ビルは当時15歳。ロンダ・フレミングやジャン・スターリングと恋模様を展開するには早すぎます。イエローハンドと決闘するのも、ずっと後のこと。内容さえ面白ければ史実にこだわる必要はないのですが、だらだらした展開で緊迫感がありません。チャールトン・ヘストンのバッファロー・ビルは、やたらカッコつけているだけだし、フォレスト・タッカーもワイルド・ビル・ヒコックのイメージじゃありません。悪役も魅力ないし、イエローハンドも酋長の貫禄なし。実在の人物を揃えればいいってもんじゃないですな。

 

『ビッグ・アメリカン』(1976年/監督:ロバート・アルトマン)は、『西部の王者』の後日談的バッファロー・ビルの物語。

西部開拓時代が終わりをつげ、西部への郷愁をかりたてるバッファロー・ビル(ポール・ニューマン)のワイルド・ウエスト・ショウは人気をはくしていましたが、ビルはいろいろ悩みを抱えています。一つは、一座に居ついて誰かれかまわず自分がビルを売り出したと自慢話を語るネッド・バントライン(バート・ランカスター)の存在。もう一つは、新加入したスー族の酋長シッティング・ブル(フランク・カクィッツ)のあつかましさ。離婚問題も抱え、ビルの身辺はあわただしく……

『西部の王者』のような本格西部劇と思って観たら、完全に肩すかしをくいます。何しろ監督が皮肉たっぷりのロバート・アルトマンですからね。西部劇の英雄を裏側から描いた作品で、見事なまでに文明批評のドラマになっています。クリーブランド大統領の前で射撃名人のアニー・オークレー(ジェラルディン・チャップリン)が腕前を披露するのですが、亭主のフランクの口にくわえたタバコを撃ちそこね、肩を撃たれて痛がる亭主と笑顔で退場するシーンは、まさにアルトマン芸術。正統派西部劇が姿を消していく70年代後半のヒネクレ西部劇で~す。