やさしく愛してと燃える平原児 | 懐古趣味親爺のブログ

懐古趣味親爺のブログ

幼少期(1950年代)から成人期(1970年代)までの私の記憶に残っているものを網羅。

エルヴィス・プレスリーといえば、キング・オブ・ロックンロールと称される大歌手ですが、歌手として有名になり始めた頃、西部劇『やさしく愛して』(1956年/監督:ロバート・D・ウェッブ)で映画デビュー。陸軍入隊前の58年までに4本の映画に出演し、映画挿入歌を収めたアルバムが大好評。除隊すると、西部劇『燃える平原児』(1960年/監督:ドン・シーゲル)に出演。以後は、挿入歌をアルバムに収めるというビジネス形態で、69年までに1年に3本のベースで27本もの主演映画が作られます。その殆どが駄作・凡作ね。そして、挿入歌のない『殺し屋の烙印』(1969年/監督:チャールズ・マークィス・ウォーレン)という西部劇が日本で公開されたプレスリーの最後の映画(ドキュメンタリーは除く)となりました。

『やさしく愛して』

南北戦争が終結した日、それとは知らずに南軍将校のヴァンス(リチャード・イーガン)は弟や部下たちと北軍の金を奪います。敗残兵から終戦を知ったヴァンスは金を山分けして弟たち(ウィリアム・キャンベルとジェームズ・ドルーリー)と4年振りに故郷に帰ります。ヴァンスの戦死が伝えられていたため、恋人のキャシー(デブラ・パジェット)は末弟のクリント(エルヴィス・プレスリー)と結婚しており、ヴァンスは諦めて家を出る決意。探偵シリンゴ(ロバート・ミドルトン)とキンケイド少佐(ブルース・ベネット)がヴァンスを公金横領のかどで逮捕。奪った金を返せば許すという条件をシリンゴが出しますが、クリントがヴァンスを訪ねてきた部下たち(ネヴィル・ブランド、ケン・クラーク、L・Q・ジョーンズ)とヴァンスを救い出します。ヴァンスは金を返すことを決めますが、部下たちは不承知。金の返却をめぐってキャシーがヴァンスに力を貸したためにクリントが誤解し、兄弟が射ち合うことになり……

プレスリーの映画デビュー作で、主題歌の他に3曲歌っています。残念ながら、この西部劇に歌がマッチしていません。パーティーで歌うプレスリーの腰振りは青春映画の乗りね。デブラ・パジェットの態度が曖昧で、プレスリーがイーガンとパジェットの幸福を祈りながら死んでいくラストに全然感動なし。プレスリー人気で興行的にはヒットしたようですが、凡作で〜す。

 

『燃える平原児』は、インディアンを妻にした一家の悲劇の物語。

ペイサー(エルヴィス・プレスリー)は、白人の父(ジョン・マッキンタイア)と後妻であるカイオワ・インディアンの母(ドロレス・デル・リオ)との間に生まれた子で、先妻の白人女性との間で生まれた兄クリント(スティーブ・フォレスト)がいます。カイオワ族の酋長が代わり、新酋長のバッファロー・ホーン(ロドルフォ・アコスタ)が蜂起したことから一家に災難がふりかかるんです。町民はクリントに一緒に戦えと脅すし、バッファロー・ホーンはペイサーに仲間になれと誘いにきます。一家はどちらとも戦いたくなく、平和を望んでいましたが、母が白人に殺され、父がインディアンに殺されたことから……

インディアンと白人の間にはさまった一家の苦悩を描いた異色作。最後まで兄弟愛が貫かれており、悲劇ではあるものの清々しさを感じます。この作品では何といってもプレスリーの自然体の演技がグッド。プレスリー自身、インディアン(母方)の血が流れており(1/8とのこと)、混血ぶりがピッタシです。プレスリーは、主題歌「Flaming Star」と、冒頭のパーティー場面での「A Cane and A High Starched Collar」と、2曲歌っていますが、プレスリーについて詳しい湯川れい子によると、公開時にカットされた「Britches」と「Summer Kisses,Winter Tears」という挿入歌があったとのこと。プレスリーの歌を売りにしなかったことで、引き締まった作品になりましたね。

プレスリーが歌う主題歌レコードには、「A Cane and A High Starched Collar」は収録されておらず、「Summer Kisses,Winter Tears」が収録されていました。

 

『殺し屋の烙印』は、紹介するのがはばかられるような酷い作品。

堅気の生活をしているプレスリーが昔の仲間に呼び出され、首筋に焼印を押されます。彼らはメキシコで黄金の大砲を強奪し、犯人のひとりが首筋に傷を負っていると手配書に書かれていたのでプレスリーを犯人にしようとしたんですな。マカロニチックな曲(音楽はウーゴ・モンテネグロ、主題歌をプレスリーが歌っています)が流れ、髭面のプレスリーが登場した時は期待できる西部劇と思ったのですが、恋人の住んでいる町に来て保安官に事情を説明すると、保安官は「手配書はきているが、君を信用する」だってさ。焼印は何だったんだ。犯人に間違われて役人から追われ、濡れ衣をはらすために悪党たちを追跡するという展開を予想したんですけどね。

偶然その町に悪党のボスの弟がやってきて、プレスリーがそいつを捕まえます。保安官はプレスリーを保安官助手に任命。悪党たちがボスの弟を取り返すために町の各所をダイナマイト攻撃しても、プレスリーは手をこまねいているばかり。保安官がダイナマイトで破壊された家の下敷きになって死亡し、恋人が悪党の人質になってから、やっと悪党退治ね。サスペンスもなく、派手なガンプレイもなく、盛り下がる一方の物語展開に出るは溜息ばかり。恋人役のアイナ・バリンも魅力なく、できの悪いマカロニ西部劇より酷いトホホ西部劇で~す。