此村大吉と五人のあばれ者 | 懐古趣味親爺のブログ

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幼少期(1950年代)から成人期(1970年代)までの私の記憶に残っているものを網羅。

歌舞伎“仮名手本忠臣蔵5段目”の斧定九郎の黒羽二重の着流しの尻をからげ、朱鞘の落し差し、破れ傘を持ったスタイルは、江戸時代の人気歌舞伎役者・中村仲蔵が考案したものですが、その造形のモデルとなったのが此村大吉。講釈師によって此村大吉は講談の主人公になり、戦前に3本(無声映画)、戦後に3本映画化されています。戦後の3本は、『朱鞘罷り通る』『此村大吉』『五人のあばれ者』です。画像は、中村勘九郎の斧定九郎。

 

『此村大吉』(1954年・大映/監督:マキノ雅弘)

旗本・鬼神組の松平帯刀(徳大寺伸)は、学者・太田鉄斎の娘・お市(三田登喜子)に横恋慕し、幕政を批判する鉄斎を役人に召し捕らせようとしますが、お市の恋人・此村大吉(鶴田浩二)の計らいで姿を隠します。大吉は仲間の大河内(河津清三郎)、横井(田中春男)、座光寺(田崎潤)と鉄斎を逃がすことを計画。大吉に好意を持っている将軍の息女・蓮月院(久慈麻美)の助力を求めに行く途中で大吉は鬼神組に襲われます。斧定九郎の役作りに苦悩していた中村仲蔵(南悠子)がそれを目撃。黒羽二重の着流しに傘を背負って立ち止まった大吉の姿に仲蔵は狂喜。仲蔵の定九郎は大評判となり、それが面白くない帯刀は五段目を中止させようとします。大河内たちがそれに対抗して舞台を開かせたために鬼神組が舞台を襲撃。そのとき花道を飛び出したのは仲蔵の定九郎でなく、大吉で……

鶴田浩二の二枚目チャンバラは見るに耐えないのですが、男にはわからない魅力があるみたいですね。一緒に見ていたカミさんによると、愁いのある含羞みが女性心をくすぐるんだってさ。

 

『五人のあばれ者』(1963年・東映/監督:小沢茂弘)

学者・太田鉄斎が幕政批判で役人に捕まり、娘のお市(富士真奈美)が鬼神組に絡まれているところを此村大吉(片岡千恵蔵)が助けます。斧定九郎の役作りに苦悩していた中村仲蔵(高田浩吉)は、お市から破れ傘を借りて雨の中を駆け出す大吉の姿を見て新趣向の型を考案。仲蔵の定九郎は絶賛を浴び、大吉も人気者となります。それが面白くないのが大身旗本・松平帯刀(原田甲子郎)を頭領とする無頼の旗本集団・鬼神組。鬼神組の水野(青木義朗)たちが仲蔵に難くせをつけますが、大吉が鉄拳制裁。大吉は仲間の飯塚(山形勲)・大河内(大坂志郎)・横井(千秋実)、それに妻に先だたれ赤ん坊を抱えた座光寺(里見浩太朗)と共同生活をしており、助けたお市が赤ん坊の面倒をみています。大吉に好意を持っている蓮月院(岸田今日子)から、鉄斎が江戸所払いになり故郷の信州へ帰ったことを知らされた大吉は、鬼神組に狙われているお市を信州に逃がそうと計画。蓮月院から金を借りますが、蓮月院が用意した金は百両。その金を元手に鬼神組の向こうを張って賭場を開こうとしたことから、鬼神組は五人組に果たし状をつきつけます。しかし、それは鬼神組の罠で、五人組が屋敷を出た隙にお市と赤ん坊が鬼神組の人質に取られ……

里見浩太朗がもて役。山形・大坂・千秋は斬り死にし、里見は赤ん坊を抱いて富士真奈美と信州へ逃れます。千恵蔵は斬って、斬って、斬りまくって鬼神組を皆殺し。鶴田の『此村大吉』と違って、千恵蔵御大はお咎めもなく、三人の墓標の前で黙祷してエンドという東映型通りの時代劇です。

 

『朱鞘罷り通る』は未見なのですが、大吉の仲間の座光寺源三郎を主人公にした『御存知東男』(1939年・東宝/監督:滝沢英輔)も同じような内容。

貧乏旗本・座光寺源三郎(長谷川一夫)は、飲み屋の娘・お市(霧立のぼる)と愛しあっていますが、大身旗本・松平帯刀(鳥羽陽之助)がお市に横恋慕。ヤクザを使ってお市を拉致します。権力を笠にきた帯刀のやり方に日頃から鬱憤を持っていた貧乏旗本仲間の此村大吉(岡譲二)が座光寺に手を貸して悪旗本退治です。中村仲蔵は登場しませ~ん。