書架再生

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20140901失くした1000冊を取り戻す




宮部みゆき 『いつも二人で

イラスト/杉田比呂美

デザイン/大久保明子

解説/北上次郎

出版社/文春文庫

 
■本文より■

彼女は、真夜中の二時十四分にやって来た。

名前はものの本質を左右する。トラは、「トラ」と名づけられるまでは、密林を支配し夜の闇を跳梁する悪魔的猛獣だった。それがひとたび名づけられ、分類されると、鉄砲であっけなく額を射抜かれるただの肉食獣になり下がってしまったのだ。

真琴はその写真に、ひっそり小さなキスを落とした。


「木の芽時」という言葉を知る。

星新一だったらどう書くだろうかと想像する。


とり残されて (文春文庫)


騙し絵の牙 (2021年/日本)


監督吉田大八

原作塩田武士

脚本楠野一郎 吉田大八

撮影町田博


出演/大泉洋

   松岡茉優 宮沢氷魚 中村倫也

   リリー・フランキー 塚本晋也
   木村佳乃 小林聡美 佐藤浩市 


■映画.comより■

塩田武士が大泉洋をイメージして「あてがき」した小説を、大泉で映画化。出版不況の波にもまれる大手出版社「薫風社」では、創業一族の社長が急逝し、次期社長の座をめぐって権力争いが勃発。そんな中、専務の東松が進める大改革によって、売れない雑誌は次々と廃刊のピンチに陥る。カルチャー誌「トリニティ」の変わり者編集長・速水も、無理難題を押し付けられて窮地に立たされるが……。


夜中に弟と二人、『水曜どうでしょう』にコロコロ笑っていたのはもう、四半世紀も前。恐ろしや。その頃は洋ちゃんを、俳優さんだなんて思って見ていなかった。
大泉洋、宮沢氷魚、小林聡美。楽しかった。

騙し絵の牙



海街diary』 (2015年/日本)

 

監督 脚本/是枝裕和

原作/吉田秋生
撮影/瀧本幹也
美術/
三ツ松けいこ

 

出演/

綾瀬はるか 長澤まさみ 夏帆 広瀬すず 

加瀬亮 鈴木亮平 池田貴史 坂口健太郎 

キムラ緑子 樹木希林 リリー・フランキー 
風吹ジュン 堤真一 大竹しのぶ 中村優子 
 
■公式サイトより■

鎌倉に暮らす長女・幸、次女・佳乃、三女・千佳の香田家3姉妹のもとに、15年前に家を出ていった父の訃報が届く。葬儀に出席するため山形へ赴いた3人は、そこで異母妹となる14歳の少女すずと対面。身寄りのいなくなってしまったすずだが、葬儀の場でも毅然と立ち振る舞い、そんな姿を見た幸は、すずに一緒に暮らそうと提案する。すずは、香田家の四女として、鎌倉で新たな生活を始める。
 
「これは大人の仕事です」の言葉に見せた、子役であるところの「すず」の表情。これがあるから、その後の展開に、その場での「行きます」に、無理を感じなかったのだと思う。
好きな作品。素直に素直に、ただ素敵な役者らを楽しく観ていられる。
 
海街diary



宮部みゆき 『囁く

イラスト/杉田比呂美

デザイン/大久保明子

解説/北上次郎

出版社/文春文庫

 
■本文より■

「ねえ、ほんとにバカみたいな話なのよね。

「だけど、気の毒ね」雅子と二人でいるにしてはめずらしく、風の吹き抜けるような沈黙が落ちた。

今出川氏は走っていく。その顔に期待がみなぎっている。身動きできずにそれを見送った僕が、彼の商売と、彼を取り囲んで囁きかけていたものが何であったかを、〈やつら〉が彼にどうしろとそそのかしていたのかを悟ったその瞬間、雅子の勤める銀行の方向で、鋭い銃声が一発轟いた。


正直なところ、囁き云々については特段興味を持てず。ただ「幼なじみの間柄で」「二十年のつきあいになる」という「僕」と「雅子」の空気感が、「今出川氏」の人となりの描きようが、宮部みゆき節というのだろうか、面白い。


とり残されて (文春文庫)



宮部みゆき 『私の死んだ後に

イラスト/杉田比呂美

デザイン/大久保明子

解説/北上次郎

出版社/文春文庫

 
■本文より■

スポーツ紙の一面にかかげられた一枚の写真。

彼を通り抜けた。それはなんとも言えない嫌な気分だった。段差のきつい道路を高速で飛ばしているときのような、エレベーターで四十階から急降下したときのような、もっとも身近なでも忘れかけている経験にたとえれば、満塁でリリーフに出て初球をスタンドにもっていかれたときのような、あの胃袋が宙に漂い出ていくような感じ。

「孤独」はただの、粒子の荒い新聞写真に戻った。そして、頬に微風を感じた。それが百合子の最後の挨拶で、お別れにそっと撫でていってくれたかのようだった。


登場人物の名前について。星新一氏の、アルファベットの絶妙な匿名性だとか(アール氏、エヌ氏…)、阿刀田高氏だったかしら、東西南北を入れ替えての引っ掛かり過ぎない丁度良さだとか(西野→南野、北原→東原…)。そして宮部みゆき氏の場合は、その音感が人物像と合う印象があって。「実に」興味深い。けれど今作のこれはないんじゃないかしら。「みのる」は良いけど「実」はないわ。毎度「じつは」と読んでしまうのよ。


とり残されて (文春文庫)


護られなかった者たちへ
 (2021年/日本)


監督瀬々敬久

原作中山七里

脚本林民夫 瀬々敬久

撮影鍋島淳裕

主題歌/桑田佳祐


出演/佐藤健 阿部寛

   清原果耶 林遣都 永山瑛太

   緒形直人 吉岡秀隆 倍賞美津子


■映画.comより■

東日本大震災から9年後、宮城県内の都市部で…縛られたまま…餓死させられるという凄惨な連続殺人事件が発生した。被害者はいずれも善人、人格者と言われていた男たち…。…県警捜査一課の笘篠誠一郎は…ある共通項を見つけ出す。そんな中、利根泰久が容疑者として捜査線上に浮かび上がる。利根は…放火、傷害事件を起こし…、刑期を終えて出所したばかり…だった。…決定的な確証がつかめない中、第3の事件が…


裏切らない俳優陣。

序盤との対比も効いて、終盤の、殺された2人の死にゆく時の眼が、特に印象に残る。まだ生きて意志を持つその表情に、それぞれの物語があるのだと感じる。


護られなかった者たちへ


ベイビー・ブローカー

 (2022年/韓国


監督 脚本 編集/是枝裕和

撮影/ホン・ギョンピョ

音楽/チョン・ジェイル


出演/
ソン・ガンホ

   カン・ドンウォン

   ペ・ドゥナ


■映画.comより■

借金に追われるサンヒョンと、赤ちゃんポストのある施設で働くドンスには、「ベイビー・ブローカー」という裏稼業があった。ある晩、2人は若い女ソヨンが赤ちゃんポストに預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。しかし、翌日戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ないことに気づいて通報しようとしたため仕方なく白状する。…成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。一方尾行を続けていた刑事は


大きなソン・ガンホが背中を丸めて、古い足踏ミシンを扱うシーンが良かった。他にも何かしらあったのだろうけれど、思い出せない。終盤の「捨てたのではなく守った」に鼻白んでしまって。反語でもなさそうだし。だいたい出産直後の母親が、全然リアルじゃないし。亡くした子の代わりを買う夫婦を、喜んで母乳を与える女を、会うなの会えの言うのを、まるで善人のように描いているのも気持ち悪く、好きになれない。


ベイビー・ブローカー(字幕版)


CUBE』 (1997年/カナダ

監督/ビンチェンゾ・ナタリ

脚本/アンドレ・ビジェリク

   ビンチェンゾ・ナタリ

   グレーム・マンソン

撮影/デレク・ロジャース

   スコット・スミス

美術/ヤスナ・ステファノビック

音楽/マーク・コーベン


出演モーリス・ディーン・ウィン

   ニコール・デ・ボア

   ニッキー・グァダーニ

   デビッド・ヒューレット

   アンドリュー・ミラー

   ジュリアン・リッチングス

   ウェイン・ロブソン   


■映画.comより■

謎の立方体に閉じ込められた6人の脱出劇をスリリングに描き、低予算ながら世界的ヒットを記録したシチュエーションスリラー。ある日突然、無機質な立方体の部屋で目を覚ました6人の男女。部屋には6つのハッチがあり、それぞれ別の立方体に繋がっている。理由も方法もわからないまま、出口を求めて移動を続ける彼らだったが、中には殺人トラップの仕掛けられた部屋もあるようだ。やがて彼らは


久々の再観。それでも怖い怖い。初っ端から驚く。

あぁそうだった。あの赤い筋。あの白い光。そして物言いたげな音楽と共にエンド。

面白かった。ずっと緊張していたことに、見終わって気付く。「痛いのは苦手」よりも「よく出来ているものを観た嬉しさ」が勝る。

『Saw』を観た後の感覚と似ている。

  

キューブ (Cube)


プラットフォーム (2019年/スペイン


監督ガルダー・ガステル=ウルティア

脚本/ダビド・デソーラ

   ペドロ・リベロ

撮影/ジョン・D・ドミンゲス

音楽/アランサス・カジェハ


出演/イバン・マサゲ

   アントニア・サン・フアン

   ソリオン・エギレオル

   エミリオ・ブアレ

 

映画.comより■

ゴレンは目が覚めると「48階層」にいた。そこは遥か下まで伸びる塔のような建物で、上下の階層は部屋の中央にある穴でつながっており、上の階層から巨大な台座に乗せられて食事が運ばれてくる。食事は上にいる人々の残飯。各階層には2人の人間がおり、ゴレンは同じ階層にいた老人から、1カ月ごとに階層が入れ替わること、食事を摂れるのは自分の階層にある間だけ、というルールを聞かされる。1カ月後


意味あり気な数字や持ち物について、特段の説明はされない。唐突な始まり方も消化不良のような終わり方も、『キューブ』を思い出させる。音楽も良い。決して似ている訳ではないのだが。

いいやいいや、全く似ていない。『キューブ』とは違う。『キューブ』は消化不良とは感じなかったはず。不快感も無かった。あの洗練された美しい、衝撃的な作品をもう一度観てみよう。

 

プラットフォーム(字幕版)


鳩の撃退法 (2021年/日本)


監督タカハタ秀太

原作/佐藤正午

脚本藤井清美 タカハタ秀太

撮影/板倉陽子

音楽/堀込高樹

主題歌/KIRINJI feat.Awich 爆ぜる心臓』


出演/藤原竜也 土屋太鳳 風間俊介

   西野七瀬 桜井ユキ 浜野謙太

   リリー・フランキー 豊川悦司


■映画.comより■

直木賞作家・佐藤正午の同名ベストセラーを藤原竜也主演で映画化。都内のバー。かつて直木賞を受賞した天才小説家・津田伸一は、担当編集者の鳥飼なほみに執筆中の新作小説を読ませていた。その内容に心を踊らせる鳥飼だったが、津田の話を聞けば聞くほど小説の中だけの話とは思えない。この小説が本当にフィクションなのか検証を始めた鳥飼は、やがて驚きの真実にたどり着く。


風間俊介を観たくて。

面白そうで、好きになれそうで(拍手の伏線と回収のくだりとか)、

面白くない、好きになれない(最後の『氷の世界』の入るタイミングとか)。

届きそうで届かないことが残念。

拍手…、良いんだけどなぁ…良いんだけどなぁ…。


鳩の撃退法