宮部みゆき 『囁く』
イラスト/杉田比呂美
デザイン/大久保明子
解説/北上次郎
出版社/文春文庫
■本文より■
「ねえ、ほんとにバカみたいな話なのよね。
…
「だけど、気の毒ね」/雅子と二人でいるにしてはめずらしく、風の吹き抜けるような沈黙が落ちた。
…
今出川氏は走っていく。その顔に期待がみなぎっている。身動きできずにそれを見送った僕が、彼の商売と、彼を取り囲んで囁きかけていたものが何であったかを、〈やつら〉が彼にどうしろとそそのかしていたのかを悟ったその瞬間、雅子の勤める銀行の方向で、鋭い銃声が一発轟いた。
正直なところ、囁き云々については特段興味を持てず。ただ「幼なじみの間柄で」「二十年のつきあいになる」という「僕」と「雅子」の空気感が、「今出川氏」の人となりの描きようが、宮部みゆき節というのだろうか、面白い。