蛾のダンス:ソルトバーン感想(ネタバレなし) | ★ワルプルギスの夜★

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つれづれなるままに・・

最近、各映画サイトのレビューで密かに絶賛されている

『ソルトバーン』2023年米国制作

エメラルド・フェネル監督

バリー・コーガン主演

多分、この作品は生理的に受け付けないと言う人もいると思うけれど
感想を一言で言うなら、
バリー・コーガン、ヤバい✨天才✨




オックスフォード大の初日、オリヴァー(バリー・コーガン)は
場違いな出立ちから学内で浮きまくっていた
そこに、自称“数学の天才”のウザい男子生徒が

同類の臭いを嗅ぎつけて寄ってくるものの
オリヴァーの視線は、常に賑やかな仲間の中心にいる

セレブのフェリックス(ジェイコブ・エロルディ)に向けられていた

恵まれたルックスに貴族級の家柄を誇るフェリックスは
ちやほやと自分を取り巻く崇拝者の中で孤独を感じていたのか
ある日、たまたま接点を持ったオリヴァーに興味を抱くようになる

自分とは対極の境遇や容姿、媚びない物言いに

磁石のように引きつけられ
やがて、彼の一家が所有する広大な土地、

ソルトバーンに建つ館で一夏を過ごそうと
半ば強引にフェリックスはオリヴァーを招く






「ダウントン・アビーか⁉️」が
フェリックスの自宅を見た時の正しいリアクションじゃないだろうか
彼ら一族の日常は、一般庶民の想像をはるかに超えて
代々、ミュージアムにでも居住している様な趣きだった

クセの強い一家や侍従、館の滞在者たちと過ごす

歪で奔放な雲の上の日々は、
少しずつ、オリヴァーを侵食して行く


もしくは、
エキセントリックな人々との交わりの中で、

彼の本質が孵化したのかもしれなかった







卑屈で引っ込み思案の小市民に見えていたオリヴァーは、
時折、夜の帷の中で覚醒したクリーチャーのような言動を覗かせるようになっていく

目鼻立ちのクッキリしたイケメンのフェリックスに比べて、
豪邸の婦人から美しいと言われた瞳も

奥目で表情が読み取り難いオリヴァーが
どう感じ、何を考えているのか
この作品の観客は薄暗がりを覗き込むように目を凝らす

(バリー・コーガンに大袈裟な演技は必要ない
彼の表情は、自然とこちらの想像力を掻き立てるから)





エメラルド・フェネル監督は最初、

オリヴァー役をティモシー・シャラメにオファーしていたと

SNSで見掛けたけれど
バリーで正解👍

なんせ主人公は、蜘蛛か蛾なんだもの🕷️










<オマケ>
『ソルトバーン』は、

主人公を呼ぶ「オリヴァー」と言う声や

美しい風景の中、半裸で寛ぐ人々の姿






主人公が草むらに寝転ぶ様子から、ふと

『君の名前で僕を呼んで』を連想する事が有った


全く違う種類の作品だけれど、

日々の金銭に惑う必要の無い人々が、

時間を忘れ、気怠く過ごす一夏の情景や

性別の枠を越えた感情の交錯から

連想してしまったのかもしれない


また、本作は主人公を取り巻く人物のキャスティングも隙が無かった
恵まれた容姿と「持つ者」の余裕を見せつける

フェリックス役のジェイコブ・エロルディ





裕福な境遇ゆえか悪気無く人を傷付ける母親役はロザムンド・パイク
美しく身持ちの悪い姉をアリソン・オリバー
無自覚の洞察力が有りながら言動が軽薄な父親役に

リチャード・E・グラント
派手な外見とは裏腹に人々の同情を得て居候している

パメラ役のキャリー・マリガン

そして、バリー・コーガンの次に私が注目したのは
フェリックスの従兄弟ファーリー役のアーチー・マデクウィだった




事あるごとに、直接に間接的にオリヴァーにダメージを与えるファーリーは、
実は、スクールカーストにおける優越感と劣等感の狭間で

最も葛藤の多いスタンスゆえに
オリヴァーを傷付けずにいられない人物だった


なにせ、マデクウィ以外にこの役を効果的に演れる若手は

果たしているだろうか?と思うくらい上手かったので、
劇中の彼の嫌味には胃がキュっとなる気がした
(私が知らなかっただけで、既に『ミッドサマー』や『グランツーリスモ』に出てバズってたのねー、この人)





実は、本作のオリヴァーの“蛾の舞”の後に
もう一度、ファーリーの辛辣な台詞が聞ける事を期待してしまった私‥