彼が作る黒い森のケーキは絶品
そして、彼が焼くシナモンのクッキーは
イスラエルで待つ妻のお気に入りだ
今回も持ち帰る用意が出来ている
私は、心から2人を愛している
そして、息子も
ベルリンにいる時にはイスラエルの家族を、
家族のもとで過ごす時は、ここベルリンのカフェの
カウンターに立つトーマスを思い浮かべる
いつか、どちらかを選ばなければならなくなる日が来たら
私は、その時の心の声に従おう‥
オーレンからの連絡が途絶えてひと月半が過ぎて
堪らず、訪ねた先で 思わぬ知らせを受け取った
彼は、帰国したイスラエルで、既に亡くなっていた
僕を残して、
彼の愛する家族を残して
気付けば、エルサレムの街の人ごみの中、
オーレンの奥さんの姿を追っていた
そして、何も打ち明けず彼女が営むカフェに通う内に
下働きとして雇ってもらうことになった
今日はオーレンの息子の誕生日だ
カフェの厨房には小麦粉やシナモンが有る
サプライズでクッキーを焼いてみようか‥
トーマスは不思議な青年だ
素性はよく分からないけれど、真面目で無口で良く働く
戒律に触れるからオーブンは使わせられないけれど
彼が作るクッキーやケーキは絶品で
それを目当に店のお客が随分増えたし、
お持ち帰りのケーキの注文も入り始めた
よりによってドイツ人を雇うなんてと言われたりした
でも、ドイツ人と言うよりトーマスは
上手く言えないけど、とにかく「トーマス」なのだ
同じ男の人でも、オーレンとは全然違う
二つの国を跨いで飛び回っていた夫は
快活で率直で“躊躇”と言う文字は無かった
まるで、自分が早く死ぬのを予感して
生き急いでいたみたいに‥
この物語の中で、オーレンと言う人物は
性別も人種も宗教も、タブーをも踏み越えて
望む相手を我が手に引き寄せられる意志の持ち主だった
妻のアナトと、恋人のトーマスが自分の不在を
どうやって乗り越えて行くのかなんて知る由もないまま
彼は、突然事故で帰らぬ人となってしまう
涙こそこぼさないけれど、いつも亡くなった恋人を想って
異国の地で一人、遠くを眺めていたトーマスは
やがて、オーレンが置き忘れて行った鍵束の中から
スイミングクラブのキーを見つけ出し
ロッカーに残されていた赤い水着を手に取る
『君の名前で僕を呼んで』では、思い余ったエリオは
恋する相手の赤い水着を頭からすっぽり被っていたけど
トーマスは、身に付けて黙ってプールサイドに座ってた
ケーキ職人として確かな腕を持っているにも関わらず
最初の内、皿洗いや掃除などの雑用を黙々とこなして
亡き恋人が愛した家族の傍で
ひっそりと過ごしていたトーマス
いつも淡々と穏やかで、あまり感情を表に現わさない
だからこそ、オーレンの家族と接して行く中で
思いがけず、こぼれた笑みや、
こらえ切れずに潤ませた瞳の中に
他の人の何倍もの思いが滲んでいるように見えた
トーマスもアナトも、突然失った存在の大きさに戸惑い
無心に働く事でその空白を直視するのを避けている様だった
ようやく、二人が再生の兆しを感じ始めた時、
運命が、避けがたい現実を舞台にのせて反転する
不穏な発言かもしれないけれど、この作品を観た時
トーマスが作るケーキにも増して、
一番美味しそうなのは、ケーキ職人本人じゃないか?
‥なんて、ずっと考えていた
だからこそ、のストーリーだった気がしている
<オマケ>
今更ながら、自分のタイプは結構一貫性が有ったと気付く
『ダンケルク』で目を引いたジャック・ロウデンと
トーマスは、身に付けて黙ってプールサイドに座ってた
ケーキ職人として確かな腕を持っているにも関わらず
最初の内、皿洗いや掃除などの雑用を黙々とこなして
亡き恋人が愛した家族の傍で
ひっそりと過ごしていたトーマス
いつも淡々と穏やかで、あまり感情を表に現わさない
だからこそ、オーレンの家族と接して行く中で
思いがけず、こぼれた笑みや、
こらえ切れずに潤ませた瞳の中に
他の人の何倍もの思いが滲んでいるように見えた
トーマスもアナトも、突然失った存在の大きさに戸惑い
無心に働く事でその空白を直視するのを避けている様だった
ようやく、二人が再生の兆しを感じ始めた時、
運命が、避けがたい現実を舞台にのせて反転する
不穏な発言かもしれないけれど、この作品を観た時
トーマスが作るケーキにも増して、
一番美味しそうなのは、ケーキ職人本人じゃないか?
‥なんて、ずっと考えていた
だからこそ、のストーリーだった気がしている
<オマケ>
今更ながら、自分のタイプは結構一貫性が有ったと気付く
『ダンケルク』で目を引いたジャック・ロウデンと
『ボヘミアン・ラプソディー』のロジャーテイラー役
ベン・ハーディーは、ビスケットが合うミルクティー風
『ローズの秘密の頁』のジャック・レイナーと
『彼が愛したケーキ職人』のティム・カルクオフは
トーマスのジンジャークッキーを添えたマロン・ラテ?
クシャクシャにしたくなる柔らかそうな金髪と
同じ色の長い睫毛、その下に湛えられた湖みたいな瞳
薄桃色の頬と耳たぶ、しゅっとした鼻筋
何かを待っている様なぷっくりした口元
飲み物に例えたけど、彼らはスイーツそのものかもね、
そう言えば『彼が愛したケーキ職人』を観た後、
ついカフェに寄ってケーキセットをオーダーしてしまったな‥