赤い水着、黒い森 | ★ワルプルギスの夜★

★ワルプルギスの夜★

つれづれなるままに・・

トーマスは腕の良いケーキ職人だ
彼が作る黒い森のケーキは絶品
そして、彼が焼くシナモンのクッキーは
イスラエルで待つ妻のお気に入りだ
今回も持ち帰る用意が出来ている

私は、心から2人を愛している
そして、息子も
ベルリンにいる時にはイスラエルの家族を、
家族のもとで過ごす時は、ここベルリンのカフェの
カウンターに立つトーマスを思い浮かべる

いつか、どちらかを選ばなければならなくなる日が来たら
私は、その時の心の声に従おう‥

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オーレンからの連絡が途絶えてひと月半が過ぎて
堪らず、訪ねた先で 思わぬ知らせを受け取った

彼は、帰国したイスラエルで、既に亡くなっていた
僕を残して、
彼の愛する家族を残して

気付けば、エルサレムの街の人ごみの中、
オーレンの奥さんの姿を追っていた
そして、何も打ち明けず彼女が営むカフェに通う内に
下働きとして雇ってもらうことになった

今日はオーレンの息子の誕生日だ
カフェの厨房には小麦粉やシナモンが有る
サプライズでクッキーを焼いてみようか‥

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トーマスは不思議な青年だ
素性はよく分からないけれど、真面目で無口で良く働く
戒律に触れるからオーブンは使わせられないけれど
彼が作るクッキーやケーキは絶品で
それを目当に店のお客が随分増えたし、
お持ち帰りのケーキの注文も入り始めた

よりによってドイツ人を雇うなんてと言われたりした
でも、ドイツ人と言うよりトーマスは
上手く言えないけど、とにかく「トーマス」なのだ

同じ男の人でも、オーレンとは全然違う
二つの国を跨いで飛び回っていた夫は
快活で率直で“躊躇”と言う文字は無かった
まるで、自分が早く死ぬのを予感して
生き急いでいたみたいに‥

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この物語の中で、オーレンと言う人物は
性別も人種も宗教も、タブーをも踏み越えて
望む相手を我が手に引き寄せられる意志の持ち主だった
妻のアナトと、恋人のトーマスが自分の不在を
どうやって乗り越えて行くのかなんて知る由もないまま
彼は、突然事故で帰らぬ人となってしまう

涙こそこぼさないけれど、いつも亡くなった恋人を想って
異国の地で一人、遠くを眺めていたトーマスは
やがて、オーレンが置き忘れて行った鍵束の中から
スイミングクラブのキーを見つけ出し
ロッカーに残されていた赤い水着を手に取る

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『君の名前で僕を呼んで』では、思い余ったエリオは
恋する相手の赤い水着を頭からすっぽり被っていたけど
トーマスは、身に付けて黙ってプールサイドに座ってた

ケーキ職人として確かな腕を持っているにも関わらず
最初の内、皿洗いや掃除などの雑用を黙々とこなして
亡き恋人が愛した家族の傍で
ひっそりと過ごしていたトーマス

いつも淡々と穏やかで、あまり感情を表に現わさない
だからこそ、オーレンの家族と接して行く中で
思いがけず、こぼれた笑みや、
こらえ切れずに潤ませた瞳の中に
他の人の何倍もの思いが滲んでいるように見えた

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トーマスもアナトも、突然失った存在の大きさに戸惑い
無心に働く事でその空白を直視するのを避けている様だった
ようやく、二人が再生の兆しを感じ始めた時、
運命が、避けがたい現実を舞台にのせて反転する

不穏な発言かもしれないけれど、この作品を観た時
トーマスが作るケーキにも増して、
一番美味しそうなのは、ケーキ職人本人じゃないか?
‥なんて、ずっと考えていた

だからこそ、のストーリーだった気がしている

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<オマケ>
今更ながら、自分のタイプは結構一貫性が有ったと気付く

『ダンケルク』で目を引いたジャック・ロウデンと

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『ボヘミアン・ラプソディー』のロジャーテイラー役
ベン・ハーディーは、ビスケットが合うミルクティー風

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『ローズの秘密の頁』のジャック・レイナーと
『彼が愛したケーキ職人』のティム・カルクオフは
トーマスのジンジャークッキーを添えたマロン・ラテ?

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クシャクシャにしたくなる柔らかそうな金髪と
同じ色の長い睫毛、その下に湛えられた湖みたいな瞳
薄桃色の頬と耳たぶ、しゅっとした鼻筋
何かを待っている様なぷっくりした口元

飲み物に例えたけど、彼らはスイーツそのものかもね、
そう言えば『彼が愛したケーキ職人』を観た後、
ついカフェに寄ってケーキセットをオーダーしてしまったな‥

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