僕の上司、32歳、人妻(6) | 夫の知らない妻

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官能小説「他人に抱かれる妻」別館です。

「武川くん、それからこれなあ、例の大阪の件なんだが」

 

僕との短い会話などなかったかのように、真剣な眼差しでパソコンを見つめていた課長。

 

そんな課長に、田島部長が再び声をかけた。

 

「部長、何か進捗ありましたか?」

 

立ち上がった課長は、部長席隣にある打ち合わせ用の小さな机に向かった。

 

何やらそこで話し始めた二人をよそに、僕はまだ課長からの愛のメッセージに酔っていた。

 

いやいや、愛のメッセージなんかじゃないだろう。

 

冷静な僕がどこかからそんな忠告をくれるが、現実の僕はそれを軽く無視した。

 

「頑張ってね」

 

いつもとんでもなく厳しく、プレッシャーをかけてくる課長。

 

だけど、あの美貌、そしてモデル級の肢体を見せつけながら、たま〜に励ましの言葉をかけてくれる。

 

お前、課長の手のひらで踊らされてるだけだぞ。

 

僕は再び、冷静な僕のそんな忠告に喧嘩を売る。

 

どれだけ厳しく追い込まれても、あれをやられちゃうと、やっぱりもう少し頑張ろうか、と思ってしまう。

 

課長が投げてくれたウインクを想像しながら、僕は部長席隣の机に視線を投げた。

 

真剣な顔つきで部長と話し込んでいる課長の姿には、いつにも増して色っぽい雰囲気が漂っていた。

 

膝丈のスカートから伸びる美脚をクロスさせ、頷きながら部長の前でメモをとっている課長。

 

柔らかにウェーブした髪が、シャツの下に盛り上がる胸元付近にまで達している。

 

僕はその豊かな胸を両手で揉みしだく自分を、いつしか想像していた。

 

「小沢くん、駄目っ・・・・」

 

「もう我慢できません、課長・・・・」

 

「駄目っ、そこは・・・・、いやんっ・・・・」

 

普段は強くて厳しい課長が乱れる姿は、営業本部にいる全ての男性社員を興奮させるだろう。

 

「やめなさい・・・・、小沢くん、ああんっ・・・・・」

 

・・・・

 

「小沢さん、ねえ、小沢さんってば!」

 

目を閉じて妄想を漂っていた僕は、肩を叩かれるまで声をかけられていることに気づかなかった。

 

「は、はい?」

 

いつの間にか、すぐ横に中田絹沙が立っている。

 

僕と同じ課に今年入社したばかりの女性社員だ。

 

胸は小さくて、決して美人ではないけど、どこか男好きがする不思議な子だった。

 

「この書類、隣の課の人が小沢くんにって」

 

「隣の課?」

 

「はい。だいたいあの辺です」

 

そう言いながら、中田はなぜか不機嫌そうな顔で首都圏営業部営業三課付近を手で示した。

 

「だいたいあの辺って、あのさあ・・・・。で、誰からもらったの?」

 

「さあ」

 

「さあって、お前なあ・・・・」

 

天然だという評判を裏切らない彼女のリアクションに、僕は言葉に詰まった。

 

不機嫌そうな顔つきのまま、彼女は僕に書類を強引に押し付けながら言った。

 

「小沢さん、鼻の下、伸びてます」

 

「えっ?」

 

「課長にいい子、いい子されて、随分ご機嫌ですねえ。私、もう、知りませんから」

 

「お、おい」

 

くるりと背を向けて歩き去っていく中田を見つめながら、僕は怒りと恥ずかしさで顔を赤らめた。

 

新人にまで馬鹿にされちゃうなんて・・・・

 

フロア中の社員が僕のことをニタニタと笑いながら見つめている気がする。

 

課長、助けてください・・・・

 

情けない気持ちになりながら、僕はもう一度視線を課長に向けた。

 

「じゃあ、武川くん、忙しいところすまないが、一度、頼むわ」

 

「わかりました。先方とコンタクトとって、早めに予定入れてみます」

 

打ち合わせを終え、席に戻ろうとする課長に、部長が小声で質問を投げる。

 

「ところで武川くん、ご主人は元気なのかい?」

 

部長のほうに振り返った課長は、笑顔を少しだけ浮かべて答えた。

 

「ええ」

 

「お互い大変だろう、離れ離れで」

 

「ええ・・・。でも、もう慣れましたから」

 

「たまには連絡は取り合ってるんだろう」

 

「ええ、本当にたまにですけど」

 

自席に戻った課長の顔からは笑顔が消え、その代わりに、どこか硬い雰囲気が漂っていた。