妻の役割(31) | 夫の知らない妻

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官能小説「他人に抱かれる妻」別館です。

「ボス、いいんですか、このままで」

 

出張から1ヶ月が経過した。

 

あの映像の記憶は私の胸から消え去るどころか、時間が経つにつれて濃厚に蘇ってくる。

 

自らの困惑を忘れようと、私はあれから妻を何回か抱いた。

 

「あなた、今夜は駄目・・・・」

 

彼らとの記憶を自分の体に留めておきたいのだろうか。

 

妻はそんな風に私を拒絶することが多かった。

 

だが、私はそんなときでも妻を強引に抱いた。

 

「いやっ・・・・、あなた、駄目っ・・・・、あっ・・・・・・」

 

一層敏感に、感じやすくなった妻の体。

 

この体を、男たちはまだ、私も知らないどこかで密かに味わい続けているのかもしれない。

 

昼間、彼らがこの家に来た気配を感じることも珍しくはなかった。

 

そして、橋口は、また私を出張に行かせようとしている。

 

「ボス、いいんですか、このままで」

 

ある朝、会社に向かう車中でドライバーのハネスがそんな質問を私に投げてきた。

 

「・・・・」

 

すぐに答えることができなかった。

 

あの映像について、ハネスはこれまで一切何も言うことはなかった。

 

だが、今朝は少しばかり違うようだ。

 

私は彼の言わんとしていることを探るように、ルームミラーに光る目を見た。

 

「何が言いたいんだ、ハネス?」

 

「奥様のことです」

 

静かにそう言うと、彼はハンドルを握って再び前を向いた。

 

しばらくの沈黙の後、私は言った。

 

「いいわけないだろう」

 

「・・・・」

 

「だが、俺に何ができるっていうんだい、ハネス」

 

車線などほとんど意味のないこの国の道路で、彼は巧みに車をかわしながら飛ばしていく。

 

「こういうのはどうでしょう、ボス」

 

「何かアイデアがあるみたいだな、ハネス」

 

「ええ」

 

「ちょっと寄り道しようじゃないか。大丈夫、構うことはないさ」

 

会社に向かう道から外れ、私は車を近くのホテルに向かわせた。

 

欧米資本が入るそのホテルには、ロビーフロアに洒落たカフェがある。

 

ハネスを誘い、私は朝のコーヒーをそこで頼んだ。

 

「聞かせてもらおうじゃないか、ハネス」

 

漆黒の肌が相変わらず美しく輝いている。

 

鍛えられた筋肉質の肉体は、その若さを持て余しているかのようだ。

 

「ボス、知ってますか。奥様が最近でもミスター橋口たちに好きにされていることを」

 

「ああ・・・」

 

これまで確信が持てなかったことを、ハネスはあっさりと私に教えてくれた。

 

「3人のドライバーに聞けばわかるんです。彼らが昼間、順番に奥さんに会っていることが」

 

「俺の家に来てるのか?」

 

「ボスの家にいったり、外のホテルで会ったり」

 

「ホテル?」

 

「ええ。たとえばこのホテルで」

 

コーヒーカップを持ちながら、ハネスは視線を上に向けた。

 

「そうか・・・・」

 

妻への怒りは、しかし沸いてはこない。

 

あの3人が妻を変えてしまったのだ・・・・・

 

許せない・・・・・

 

「そこで、考えたんです、ボス」

 

激しい怒りを浮かべた私の顔を、ハネスは笑みを浮かべて見つめてくる。

 

「ボスを騙し続けてるんですよ、あの3人は」

 

「わかってるさ、そんなことは。だからどうだって言う・・・」

 

「たまには逆の立場になるんですよ、ボス」

 

「逆の立場?」

 

サバンナの野獣のような目の奥に、鋭い光が宿る。

 

「どういうことだい、ハネス」

 

彼の言葉の意味が、私にはしかし、まだわからなかった。

 

「今度はボスが騙してやるんですよ、あの3人を」

 

「俺があいつらを騙す?」

 

「ええ」

 

「ハネス・・・・」

 

「罠にはめてやりましょうぜ、ボス」

 

「罠、か・・・・・」

 

「どうにも逃げることのできない、決定的な罠に」

 

「・・・・」

 

獲物を見つけたことを、彼の目は私に教えている。

 

鋭い目を保ったまま、しかし、ハネスは笑みを浮かべた。

 

「ボス、ここはアフリカですよ」

 

「アフリカ、か・・・・」

 

「ええ。アフリカです」

 

「面白そうじゃないか。もっと聞かせてくれよ、ハネス」

 

我々の話し合いは1時間程度続いた。