妻の役割(16) | 夫の知らない妻

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官能小説「他人に抱かれる妻」別館です。

この国にやってきて、3ヶ月が経とうとしている。

 

異国の地での生活に、私たち夫婦はようやく溶け込もうとしていた。

 

「今日のランチ、すごく素敵だったのよ」

 

帰宅するなり、妻は楽しそうに私に言った。

 

私と妻、それぞれに現地人のドライバーが運転する車が用意されている。

 

家事はこれもまた現地の女性スタッフが掃除、洗濯など全て行ってくれる。

 

外出できる場所は少ないが、それでも欧米系のホテル、それに最近できた大型ショッピングモールに行けば、時間はいくらでも潰せるだろう。

 

日本人は周囲にいないが、妻は他社の白人駐在員の妻たちで構成されるグループに、少しずつネットワークを広げているようだ。

 

昼間、妻はランチの写真を私に送ってきてくれた。

 

おそらく今日もまた、そんな外国人の奥様たちと一緒に外出したのだろう。

 

「イタリアンかい、あれ」

 

「日本でもなかなかないわよ、あのレベルは」

 

「捨てたもんじゃないな、この国も」

 

年間を通じて気温は30度を超える日々が続く。

 

安全なホテル、モール以外の治安は極めて不安定で、女性であっても一人歩きは厳禁だ。

 

なんといっても、車で少し郊外に行けば猛獣が暮らす大草原が広がる国なのだ。

 

「あなた、今日も現場だったの?」

 

「そうだね。毎日砂漠の真ん中に出勤さ」

 

ダウンタウンにあるオフィスから、天然ガスのプロジェクトが展開されている地域まで、車で悪路を1時間以上走らねばならない。

 

上司たち3人は入れ替わりで現場に顔を出すが、私は赴任以来、ほぼ毎日そこに行っていた。

 

「橋口さんと北原さんが一緒だったよ、今日は」

 

冷蔵庫から冷えたハイネケンビールを取り出し、私は何の気なしにそんなことを言った。

 

「そうよね」

 

えっ?

 

私は妙な印象を覚えた。

 

今日、そこにもう一人の上司、宮野がいなかったことは既に知っている。

 

妻の言葉は、そんなことを暗に私に伝えていた。

 

「あなた、今日のランチ、実は宮野さんに連れて行ってもらったの」

 

3ヶ月前、歓迎会の記憶が瞬時に私の脳裏に蘇ってくる。