妻の役割(10) | 夫の知らない妻

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官能小説「他人に抱かれる妻」別館です。

「回し飲み・・・・」

 

林君の奥様を見つめたまま、私は言葉を失った。

 

「奥様・・・、あの、失礼ですが、奥様のお名前は?」

 

「佐和子です」

 

「佐和子さん、ですか。いい名前ですね」

 

「そりゃどうも」

 

少しばかり和んだ雰囲気をかき消すように、彼女は言葉を続けた。

 

「ご存知ですか、どうして中川さんが私の夫の後任として選ばれたか」

 

私自身にとっても、確かにそれは疑問ではあった。

 

そろそろ海外に行かされるのだろう。

 

薄々、そんなことを考えてはいたが、まさかこのアフリカの地に来ることを命じられるとは。

 

それに、今回帰国する林君は確か駐在して2年も経過していないはずだった。

 

「よくわかりませんが、林君と交代するということですよね」

 

彼が何かミスを犯したために交代となった、という可能性もなくはない。

 

私は慎重に言葉を選んで彼女に伝えた。

 

「その通りです」

 

私の言葉を否定することなく、彼女は少し笑みを浮かべて答えた。

 

「私が主人にお願いしたんです。もうたくさん、帰国させてって」

 

「奥様が?」

 

「ええ。それで急遽後任の方が必要になって、中川さんが選ばれたんです」

 

一応、筋が通る話ではあったが、しかし私には何かが引っかかった。

 

いったいなぜ、奥様は帰国を強く望んだのか。

 

どこか男性を誘うような視線の持ち主である彼女のことを、私は見つめた。

 

「辞令を受けた時、何か上司の方から言われませんでしたか?」

 

「上司から?」

 

「結婚してるだろう、と。いいえ、それだけじゃないですね。奥様と一緒に行ってくれ、というようなことを」

 

「・・・・」

 

「若くて魅力的な奥様がいる社員。だから選ばれたんです、中川さんが」

 

いつしか、私の鼓動が高鳴っている。

 

そうだ。

 

あの日、確かに部長はこう言った。

 

妻と一緒に行く、これが条件だと。

 

「くれぐれも気をつけてください。あの人たち、女性に飢えてますから」

 

「えっ?」

 

「今、奥様と一緒にお酒を楽しんでる、あの3人の男たちですよ」

 

「・・・・・」

 

「私、あの人たちに好き放題されました」

 

その言葉には、夫の上司に対する尊敬の念はまるでなかった。

 

自分を弄んだ男たちに対する怒りの感情だけが、ただそこにあった。

 

「林君はこのことを?」

 

奥様の表情に冷ややかな笑みが浮かぶ。

 

それを私に言わせるんですか、といった笑みだ。

 

「知ってるも何も」

 

「・・・・」

 

「主人の見ている前でされましたから、私」

 

緊張をはらんだ静寂が室内を支配した。