妻の役割(9) | 夫の知らない妻

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官能小説「他人に抱かれる妻」別館です。

「帰国する前に妻が少し中川さんに伝えておきたいことがあるみたいで」

 

小声で話す林君の後ろで、奥様が私に向かって小さく頭を下げた。

 

おとなしそうだが、それでいてどこか鋭い目つきを持った美しい女性だった。

 

私の妻は身長165センチだ。

 

林君の奥様もまた、同じように長身で細身のスタイルをしている。

 

30代前半、年齢もまた私の妻と同じくらいかもしれない。

 

「いいよ、実は僕のほうも少し聞いておきたいことが」

 

依然として盛り上がっているテーブルのほうをちらっと見た後、私は林君に答えた。

 

食事会の途中から、どこか冷めた目線で上司3人を見つめている林君の奥様。

 

私は、彼女にその真意を聞いてみたかった。

 

 

「そろそろお開きですよ。最後にもう一杯だけ飲んでくださいな」

 

自分の躰に遠慮なく手を伸ばしてくる親父たち3人をなだめるように、妻がビール瓶を差し出している。

 

「奥さんも飲んでよ、最後に」

 

「じゃあ、少しだけ」

 

「最後だから直接飲んでよ」

 

妻の肩を引き寄せながら、宮野がビール瓶の口を彼女の唇に近づけた。

 

「駄目ですっ」

 

「ほら、最後ですよ、奥さん」

 

「一口だけですよ・・・、待って・・・・、いやんっ・・・・」

 

どこか色っぽく表情を歪めながら、妻はビール瓶に口をつけ、直接アルコールを喉に流し込んだ。

 

「いいですねえ」

 

「おい、宮野君、その瓶をくれよ」

 

下品な笑みを浮かべながら、橋口が妻に続いて瓶からビールを飲む。

 

満足そうに回し飲みをする3人の視線は、ワンピース姿の妻の肢体に注がれている。

 

 

「中川さん、隣の部屋でいいですか?」

 

林君の奥様が私に言った。

 

「いいですよ」

 

彼女に誘われるように、私は椅子から立ち上がった。

 

「私はここに残りますので、中川さん、妻の話を聞いてやってください」

 

「そうか、わかった」

 

部屋に残るという林君をその場に残し、私は彼の奥様に続いて部屋を出た。

 

中華レストランの隣に、会議スペースのような小部屋がいくつかある。

 

私たちは二人でその一つに入り、テーブルで向かい合うように座った。

 

 

「中川さん、くれぐれも気をつけてください」

 

しっかりした口調で彼女は私に言った。

 

「気をつけるというのは?」

 

「奥様のことです」

 

「妻のこと?」

 

「油断してると、あのビール瓶と同じことされちゃいますよ、奥様」

 

「ビール瓶?」

 

その言葉の意味を掴むことができず、私は彼女のクールな表情を見つめた。

 

「回し飲みされちゃう、ってことですよ」

 

奥様の瞳に、確かな怒りの気配が光った。

 

それは、彼女から私たち夫婦に対する警告だった。