いったん引いたその手を、橋口が再びテーブルの下に伸ばす。
「もう、橋口さんってば」
うまくあしらうようにビールを注ぎながら、妻は妥協するように彼と指先を絡めた。
誰も見ていないテーブルの下で、妻の指が上司の手に好きなようにいじめられている。
「奥さん、俺たちとも仲良くしてくださいよ」
妻と接するほどの距離にまで椅子を近づけながら、北原が赤ら顔で声をかける。
さりげなく妻の背に置いた手を動かしながら、彼は宮野に目配せするような仕草を見せた。
「奥さんはゴルフとかしないんですか」
同じように酔った様子の宮野の質問に、妻はどこか嬉しそうに答えた。
「昔、父に連れられて打ちっぱなしに行ったことはあるんですけど」
「そいつはいいや。おい、奥さんを早速コースデビューさせよう」
「奥さん、大丈夫ですよ。道具も服も全部こっちで用意しますから」
「でも、いきなりコースなんて、私・・・・」
「大丈夫。俺たちが教えてあげますから。なあ」
「ええ。いろいろと教えてあげますよ、奥さん」
「でも、ほんとに下手だと思いますよ、私」
ここまで妻が酔ったのも久しぶりかもしれない。
私以外の男性、しかも複数の男たちと一緒に過ごすことが、退屈な主婦の彼女には刺激的な時間、ということなんだろうか。
「ゴルフウェアが似合いそうだなあ、奥さんは」
「セクシーなウェアをこちらでしっかり用意させてもらいますから」
どこか意味深な笑みを浮かべながら、3人の上司たちは互いに視線を交わし合っている。
そんな皆の様子を、林君の妻が冷ややかな目で見つめていた。
妻と同じようにスリムなスタイルの彼女。
その肢体にはどこか男好きがする雰囲気が漂っている。
視線の先の男たちをどこか軽蔑するような色をたたえた彼女の瞳が、私の困惑を深めていく。