エレーナは、本当の自分を思い出しました。
しかし、自分の置かれた境遇は、決して自分の望むことではなかったのです。
牧師は愕然としているエレーナに、
大丈夫だと言わんばかりのほほえみを返しながらこう言いました。
「誰も彼もが、まっすぐな道を歩むわけではない。
迷って、時には違う道を行くことで、
本当の自分を見つけることができるのだ。
自分でない自分を経験することによって、
本当の自分に出会うことができる。
何でも表裏一体と言っただろう。
自分でないということは、その裏側に本当の自分が隠されているということだ。」
「でも、私は、その本当の自分に気づいてしまいました。
偽りの自分が今の状況を作ってしまいました。
もう、後に戻ることができないのでしょうか?」
「いや、いくらでも道を変えることはできる。
そなたの魂が望めば・・・。
もし道を変えることができない時は、
それは、本当は魂が望んでいることではない、ということだよ。」
「私はどうしたらいいのでしょうか?」
「そなたはどうしたいのか?」
「私は、都会に住むのではなく、森の近くに住んで、
自然の、風の音に戯れながら、畑を作り、太陽の光を浴びて生活したい。」
「それでは、そうしなさい。」
「簡単にいいますが、私はもう、夫と結婚し、その道に行くことは無理です。」
「無理となぜ思う。」
「だって、もうその生活に入ってしまっているから。」
「それでは、世の中には移り住んだものなど居ないというのかな?」
「そういうわけではありません。
ただ、夫と別れるしかありません。
私には自分で生活する術がありません。」
「本当にそうかな?
なぜ夫と別れるしかないのかな?
自分で生活する術をこれから作ることはできないのかな?
・・・まだ、試したことがないのに。」
「・・・私は、今の生活を変えることが怖いのです。」
「自分の気持を正直に言うことができたようだね。
正直さと素直さは、自分の本当の心を見つめることができる。」
「本当は、夫と別れたくない。
夫とは意見は合わないけれど・・・。」
「では、そうすればよい。
できないと思っているのは自分だけかもしれない。
何かを考えるのは、
何かをやってからでも遅くない。
まずは、自分を変えたいのであるならば、
いままでと同じ行動をしていては変えることはできない。
自分の行動を変えることで、
何かに変化が起きる。
その何かを引き寄せる力は、
今までと違う行動だ。
勇気をもって、今までと違う行動を起こすことしかない。
そなたには、その行動を起こす勇気はないと思うのか?」
「いいえ、私は今まで自分自身の殻に閉じこもっていました。
でも、自分には本当は力があることを知っています。
森へと興味津々で入っていく心が本当はありました。
だから、私はこれから未踏の森へと、
未踏の人生へと入っていってみたいと思います。
子供の頃のように、何も考えずに・・・」
その言葉を聞いた牧師は、もう何も言うことはないという仕草をし、
ただ頷くだけでした。
エレーナは、自分のしたいことが見つかったことに、
居ても立っても居られない気持ちになり、
急いで自分の家へと向かいました。
夕方になると、夫のアレンが仕事から帰ってきて、
いつもと違う雰囲気のエレーナの様子にびっくりし、声をかけました。
「どうしたんだい?
君のその輝いている瞳を見るのは初めてだ。」
「あぁ、アレン、私の気持を聞いてくれる?
私は、初めてあなたに自分の気持を明かす時が来たわ。」