前回までのあらすじ



彼が服を選んで欲しいと言うのでGUへ行った。

彼はお世辞にもお洒落とはいい難く、それは自分でも気づいているようだった。

春物がたくさん出ているので、彼が普段着ないような色物(彼は全身ブラックに拘りがあるようだ)や普段は履かないダボッとしたパンツを提案してみたが、どれもこれも「私そういうの苦手なんだよね」。
そんなに選り好みするなら選んで欲しいとか言うなよな…。

シャツとカーディガンは気に入ったものがあり、それを買って店を出た。

その後はスタバに行った。
どのカフェも満席だったが、スタバのテラス席は奇跡的に飽きがあった。

彼が何飲む?と聞いてくるので抹茶フラペチーノを頼んだ。
私はスタバに来るとこればかり頼む癖がある。

戻って来た彼の持っているトレーにはケーキが2つ載っていた。
彼の気遣いに感謝してケーキを食べた。
とても美味しいケーキだった。

もう店はあらかた見たし行くところがなかったが、解散には早すぎる時間だ。

少し歩くとカラオケ店が目に入り、ここで休憩することになった。
銀座まで来てカラオケもどうかと思ったが、一日歩き回ってくたくただったので休めればどこでも良かった。

前回のカラオケでは歌いまくっていた彼だが、今回は個室に入っても曲を入れる樣子はない。
心持ち神妙な顔をしている。
どうしたのだろうか。

そう思っていると彼が口を開いた。

「私と一緒に居て楽しい?」

思ってもみない言葉に返事を返せないでいると、彼は続けた。

「私、本当にクズだったんだよね。昔はパチンカスだったし、株で大失敗したこともあるし。ほんとどうしようもない奴だった」

ギャンブルも株も全く彼には似合わず、そんなことをやっているところはまるで想像出来ない。

「でも今はやめられたんならいいんじゃない?」

辛うじてそう返す私。

「そっか。私のんさんとは本気で結婚考えてるから過去の悪い部分もちゃんと話したくて」

お互い結婚前提で付き合える相手を探していた中で出会ったので結婚の話が出るのは当然かもしれないが、まだ付き合って2回目のデートだよ?

「だから私、のんさんに全て知って欲しいから話すね」

何をだろう?

「私の月収は手取り26万。プラス残業代。年に2回賞与がある。退職金は800万でそれを楽しみに生きてる」

43歳、手取り26万?
勤続20年で手取り26?
残業代なければやってけないじゃん。
鎧とか屏風買ってる場合じゃねえだろ。
しかも楽しみが退職金て…。

「その会社、やっぱりブラックじゃないの?」

勤続20年で手取り26万て。

「ブラックではないよ。入ったばっかの時は手取り12万だったよ」

ボーナスも残業代も出るとはいえ、給料低すぎだろ。
何故彼は頑なにブラックじゃないと言い張るのだろう。

「家は実家の近くにもう一軒持ってて結婚したらそこに住むつもり」

「私もそこに引っ越すことになるよね?」

「まあそうだね」

彼の年収は分からないが、聞いているぶんには私もフルタイムで働くしかなさそうだ。
しかも出来れば一般雇用のほうが良さそうだ。
しかし私は今の会社以外で一般雇用はまず勤まらない。
仮に障害者雇用で良い経済状況になっても、神奈川の端っこに都合よく障害者雇用を募集している会社なんてあるだろうか。
それに知的障害の私は環境の変化がとにかく苦手だ。
引っ越しは出来そうもない。