前回までのあらすじ



焼き肉屋を出ると9時近くになっていた。

いつも通りこの後の予定はないようだ。


彼が通りの向こうにあるスタバを指さして「あそこ入らない?」と言う。

うん、どうみても閉まってるね…。

スタバってだいたい9時には閉まるしね…。


歩き回ってカラオケの前に来た。

彼が「カラオケはどう?」と聞いてくる。

まあ悪くないかな。

いいよ、と返事をしてカラオケに入った。

「私の(唯一の)友達の◯◯さんと昔はよくカラオケ来てたんだー。◯◯さんは歌はあまり上手くないんだけど歌うのは好きで」そういいながら彼はさっそくモニターに向かってリモコンを向けている。

何か予約したらしい。

聞いたことのある曲だ。

女性歌手の曲である。

彼は女っぽくはあるが、男性なので声量はでかい。

デカい声で音程の外れた歌を熱唱している。

◯◯さんの歌を批判したからには、彼は上手いのかと思ったが、彼は自分の実力は棚に上げていたようだ。


私はカラオケにあまり興味がない。

知っている適当な曲を入れて歌った。

彼は相変わらず女性歌手の曲ばかり入れて熱唱している。


歌が一息ついて、私たちは会話をした。彼は歴史好きで、鎧や屏風をヤフオクで競り落とすのが好きらしい。


実際に買った鎧や屏風を映した写メを見せてくれた。


「すごいね、高いでしょ、こんな年季入ったやつ」

「こっちは7万でこっちは10万かな」


ずいぶん羽振りがいいなあ。

実家だしまあそのくらい払えるか。

そういえばこの人実家にお金入れてるのかな。

失礼な気もするけど聞いてみよ。


「実家にお金って入れてる?」

「入れてないよ。入れる必要ないし」

彼はそう言い切った。


え、え…。

まあ考えてみれば自分の家族にお金払うのもなんかおかしいかな。

いやー、でもなあ。

43だよ?

私も実家暮らし長かったけど、社員やってた頃は5万〜7万くらい入れてたけどな。

額面21っていう今考えるとドブラックな給料だったけどそっから出してたけど。

社会人になったら本来一人立ちすべきで、それが出来ずに甘えてるなら多少はお金入れるべきじゃないのかな。


つーか、もしかしてこういう人をこどおじって言うのかな…。


話題変えよう。


「まだお弁当交換やってるの?」


彼は最近御朱印メンバーと手作り弁当を交換していて、朝早くから数人分のお弁当を作っている。

たまに写メでお弁当を見せてくれるが、彼のお弁当作りスキルはなかなかのものだ。


「うん、やってる」

「最近は御朱印メンバーでどこか出かけることないの?」

「うーん、ないね。私仕事ばっかりだから」

それもそっか。

「やってもやっても仕事終わらないんだよね。人手は増やせないから私一人に全部のしかかってくるんだけど、さばけないよ」

「転職は考えたことないの?」

「昔一度だけ面接受けた。落とされましたけどねー」彼は明らかに不機嫌にそう答えた。

「一社しか受けなかったの?」

「うん、なんか面倒になっちゃって」


いつの話か分かんねえけど一社で決まんねえから。


この人多分主体性や自分の意志というものがなく流されるまま何となく生きてきて、でも現状に満足出来ず、かと言って意思や根気を強く持てないから現状を変えられずいるんだろうな。でも文句は言う。自分で選んで今の現状があるのに、そのことは棚に上げて文句だけ垂れ続ける。なんかなあ…。


つづく