前回までのあらすじ



付き合うことになって初めてのデート。


今日は彼が焼肉に行きたい、と言うので焼肉に行くことになった。
今日は彼がちゃんとお店を予約してくれてある。

待ち合わせは19時ぴったり。
しかし時間になっても待ち合わせ場所に彼の姿が見当たらない。
私はライン通話のボタンを発信した。
しかし彼は電話に出ない。
メッセージを送っても既読もつかない。
人ごみをかき分けて彼の姿を探すこと5分。
ようやく彼を見つけた。

「いつ来たの?ライン通話もしたんだけど」

「19時前に着いてたよ。ライン気づかなかった、ごめん」

まあいいけど、待ち合わせ時間に落ち合えなかったら普通相手を探さない?
私は彼を探したが彼は私を探さなかった。
そこにもやもやを抱えながらも焼肉店に向かった。

焼肉店は待ち合わせ場所から10分の場所にあった。
そこそこ値の張る有名な焼肉店である。

「ここだったんだ。楽しみ」
この店がずっと気になっていた私は心底ここの焼き肉が楽しみになった。

入店すると店員さんに名前を訊ねられる。
彼が答えると、店員さんは少し戸惑った様子で「少々お待ちください」と我々に告げて奥に引っ込んだ。

すぐに店員さんは戻って来た。

「◯◯様ですよね。予約の19時を回ってもいらっしゃらなかったので、ケータイにお電話も差し上げたのですがお出にならなかったので、先に一組別のお客様をお通ししました。15分くらいでお席にご案内出来ると思いますのでそちらにおかけになってお待ち下さい」

はい?
19時に予約取って、19時に待ち合わせしたの?
どういうこと?
待ち合わせ場所から徒歩10分かかるなら18:50に待ち合わせすべきだろ。
どういうこと?

それよりこの人店に迷惑掛けたのに謝らないのは何故?

ぼーっと突っ立っている彼を見て思う。
彼が動く気配がないので私は去っていく店員さんを呼び止めて「ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」と謝った。
それから彼を促して椅子に座った。

「19時に予約したならさ、19時に到着出来る時間に間に合わせないと。19時にお店集合なら分かるけど、待ち合わせ場所からここまで10分あるわけだから、そこ計算しないと」

彼は不承不承といった様子で「うん、とか、はあ」みたいな返事を一言返してきた。

時間の計算もちゃんと出来る人なのに何故?

頭が謎と苛立ちでぐちゃぐちゃになる。

店員さんが私たちを呼びに来るまで私たちは無言で待った。
気まずい沈黙。
もう何度目だろう、この気まずい沈黙。

やがて店員さんが席が空いたと言って私たちを席に通してくれた。

メニューを見るとどのお肉も美味しそうで私の傾いていた機嫌は少し良くなった。

「今日はいい店予約してくれてありがとう」
「どういたしまして。私焼肉食べたかったから」

運ばれてきたドリンクを飲む頃には待ち合わせのことも、彼が店員さんに謝らなかったこともどこかに吹き飛んでいた。

映画の話になった時だった。

「のんさんは、洋画は吹き替え派?字幕派?」

「私は絶対字幕だよ」

「私は吹き替え。字幕だとさ、文章が流れるのが早すぎて読めないんだよね」

そんな話、初めて聞いた。
字幕の速度に追いつけない人っているの?

同時に彼が偏差値35だったことに合点がいった気がした。

字幕読めないなら試験時間中に試験問題解ききれないわ。