前回までのあらすじ



馴染の店までの道中、私たちはほとんど口を聞かなかった。

 気まずい空気が流れる。 

アプリでのやりとりでも分かってはいたが、彼は大人しいタイプである。 

よくよく思い出してみると私は大人しい男性と付き合ったことがない。

 私の見た目が陽キャそのもなことが関係しているのだと思うが、付き合いたいと言ってくれる男性は皆陽キャだった。 

彼らは見た目は陽キャ、中身は陰キャの私をリードし、場を盛り上げてくれた。 

しかしこの彼はそういったタイプではない。

 私も明るいタイプではない。

 気まずい空気の中、私たちは歩いた。 

街を彩るイルミネーションがなんだか今日は虚しく見えた。 


 馴染の店に着くとママが喜んで迎えてくれた。 

私もこの店に来るのは久しぶりだったのでママとの再会に胸が踊る。


 私はソフトドリンクを、彼はお酒を頼んだ。

 相変わらず彼は無口だ。 

さっきのファミレスに毛が生えた店で自分の全てを語り尽くしてしまい、話題がないのかもしれない。 


 仮に付き合うことになった場合、やはり私の障害のことはよく知ってもらうべきだ。

 アプリの中でも話してはいたが、直接私の口から説明するのが筋だろう。

 そう考え出し私は、自分が境界知能で今までどんな苦労をしたか、何が苦手かなどを話した。

 それは自分史のようなもので、だいぶ長い話になったが、彼は黙って聞いていた。

 「普通の人もさ、何かしらあるよ。だからそんなに気にしなくて平気だよ」 

私が長い話を終えたあと、彼はそう言った。 

幾度となく聞いてきた慰めである。

 しかし彼が境界知能を特段気にしていないことが分かって私は安心した。


 その日は互いに一杯だけ飲み物を飲んでその店を出て解散になった。


 別れ際にラインを交換した。


 それはこの次もある、という証に他ならない。


 それから毎日ラインをすることになるのだが、ブララック企業に勤める彼とは、早朝と昼休みの一時間と仕事終わりの深夜にしかラインをする時間がなかった。仕事中にちょっとラインをすることも許されない社風なのか、と訊ねると、そんなことはないよ、忙しいだけだよ、と返信があった。 


 彼の会社の始業時間は9:00だ。しかし彼は毎日6:00に家を出ている。通勤時間は1時間半なので6時に出ると7時半に会社に着いてしまわないの?と質問すると、早めに家を出て乗り換えの駅のカフェでコーヒーを飲むのが日課だ、ということだった。 

その時間寝ていれば短い睡眠時間を多少伸ばせるが、彼は睡眠より通勤途中の一服が大事らしい。変わった人だな、と思うがその想いは心にしまった。


※第一話で、彼とは去年付き合った、と書いたのですが一昨年の間違いでした。

文言は訂正しておきました。


つづく