現在僕がお世話になっている応援先の社長から従業員である25歳の陽キャにLINEが届いたのである。
それが仕事中だったのでスマホをチラっと確認した陽キャは「なんかぁ、今、うちの社長からぁ、LINEでTik Tokが送られてきたんすけどぉ、キモくないすか?」と。
普通に考えると仕事中に社長から送られて来たLINEにTik Tokが添付されていたら冗談の1択である。
もしくは送る相手を間違えた誤送信。
社長からは前日の夜にも僕と陽キャに電話とLINEで長文の連絡があったので、何かあったのかな?と軽く心配にはなっていた。
LINEの長文というのは100均で買いだめをした時のレシートみたいな長さになる。
今の現場には元請けの下に工事会社が横並びで5社入っていて、その中でライバル関係のような社長同士には駆け引きもあるのだろう。
現場では4時30分に片付けを開始して詰所に戻るという空気になっていたのだが、陽キャの社長は「他の会社に流されないでうちは5時まで仕事をするように」と言い出したのである。
ちなみに社長は現場にはいないのだ。
職人は基本ヤンキー気質なので1人だけ急にいい子ちゃんぶるにはそれなりの説明が必要になる。
現場にいる他の4社は元請けの協力会(下請け組合)として役員を務める古株の職人達である。
その協力会の中でも陽キャの会社は新参者なのだ。
何より他の工事会社の社長達は職人として仕事が出来るのだが、陽キャの社長は職人としての仕事は出来ないのである。
もちろん現場にいないので、現場で働く職人の体温や湿度のような汗まみれの空気感を読めてない。
元請けの社長に訴えるか、現場に顔を出して他の社長たちを説得するか、とにかく発言者が矢面に立たない上からの指示というのは男社会では無駄に角が立つだけなのだ。
ただでさえ他の4社はベテランを含めた複数名の施工部隊なのに、こっちの戦力は無資格の25歳の陽キャと応援の一人親方(僕)の2人だけである。
みんなで加工場や資材置場の片付けをして一緒の時間に帰っていたのに、急に「うちは5時までやっていきます」など言えない。
当然「なんで?」となる。
こういう悪目立ちが1番よくないのだ。
どうすっか?と陽キャと悶々としながら仕事をしている最中に社長からLINEでTik Tokが送られてきたのである。
気になって仕事に集中出来ないので陽キャに「なんの?Tik Tok?」と動画を確認することにした。
タイトル【下克上、弱者が強者に勝つ方法】とある。
陽キャ「キモっ!」
僕 「キモっ!」
陽キャに「そのTik Tokあとで俺にも送ってくれよ(笑)」と冗談半分で言ったのたが、スマホのLINEには社長から僕にも同じ動画が送り付けられていた。
ということは、俺は、弱者なのか?あん?(笑)
休憩時間にその弱者が強者に勝つ方法の動画を見てみることにした。
動画の内容をざっくり説明すると、有名人や大手に勝つために僕が(投稿主)が意識しているのはランチェスター時間の法則というものを紹介していた。
「結論から言えば人の1.7倍やれば大体勝てる」と。
「人の2倍やれば圧勝できる」と。
「人の2.3倍やれば才能や実力が劣っていても絶対に負けない」と。
「このように定義されています」と。
「つまり、最低でも人の2倍行動していれば結果がついてきます」と。
「仮にライバルが5時間ビジネスに費やしているのであれば10時間やれば圧勝できるというもの」
「つまり、時間の投入量次第で逆転可能ということです」と。
「まずは質より量をこなしていき、質はあとから付けていきましょう」と。
はぁ?なにいってんのこいつ?
それが本当なら全員メジャーリーガーになれんのか?
そもそも強者が強者になった過程がランチェスターなんだからその差は永遠に縮まらないだろ?
70歳近い職人の50年という圧倒的な投入時間を25歳の若造がどうやって超えるんだ?
つーか、質より量って言うけど、基本が間違ってる職人は50年後も質は付いてきてねえよ。
今の若い子はそこまでバカじゃないからね。
そりゃゲームもプレイ時間が1000時間もやれば巧くなるよ。
それとプロゲーマーになれるのかは別の話だろ?
プロの世界はランチェスターが当たり前なんだよ。
こういう自己啓発みたいなのを人の2.3倍読んでも意味ないよね?
つまり、ライバルよりも30分長く作業をして頑張ってる見せかけのマインドじゃなくて、どうやったらライバルよりも30分早く終わらせるか?という思考を常に続けることが職人の全てなんよ。
陽キャにはこう伝えた。
「弱者が読むようなやつを真に受けて読むから弱者になるんだよ」と。
ランチェスター君が圧勝する為に一生懸命2.3倍の時間を投入して頑張ってるのを凌駕するだけの完璧な説明を俺が1分で陽キャにすりゃ終わる話である。
仕事なんかより女の子を幸せにする方がよっぽど難しいからね。