昼間に歩く男 | 天狗と河童の妖怪漫才

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妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

現場に入場する門限に間に合わなかったのである。



都内の大規模現場になると現場への入退管理はタイムカードのようなシステムになる。



最寄り駅から現場までダッシュしたのだが、1分の壁が越えられず、休日になりました。



いつもならギリギリ間に合う電車だったのに。



入場の門限は7時35分だったのだが、いつもの電車なら到着時刻は遅くても7時31分には駅に着くので、そこから鬼ダッシュをすれば7時33分には入場できたのだ。



しかし、この日は駅に到着したのが7時33分だった。



同じ電車に西村京太郎でも乗ってたのかと疑うくらいに、時刻表のトリックなのか、サスペンスの犯人を探す暇すらなく、たった1分の差でいきなり休日になりました。



遅刻する場合には7時10分までに連絡することになっており、遅刻届を提出すれば35分を過ぎても入場できるシステムなのだ。



通勤途中の腹痛や電車の遅延でも、連絡さえすれば遅刻扱いにはならないのである。



そこに時刻表のトリックが潜んでいたんだと思う。



こっちはギリギリ間に合うと思ってるから連絡もしてないからね。



悔しいです。



すぐに班長に連絡をして「35分に間に合いませんでした」と伝えた。



仕事の状況としては1日くらいなら休んでもすぐに取り戻せるだけの進め方をしていたので問題はない。



むしろ請け負いの仕事の場合には、作業が暇なときは職人が休んでくれた方が会社は儲かる。



まぁ誰しも体調不良や急用などもあるので、常に仕事は先に進めて余裕を持たせてある。



ただ、せっかく現場の入り口まで来たのに、いきなり休日になっても困る。



途方に暮れる。



夜中に川沿いを走っても時間に間に合わないのでは意味がない。



日給月給なので1日分の給料が減ったわけです。



現場に通う職人は基本的に定期券を1ヶ月ごとに更新するのだ。



普通の会社員なら三ヶ月や半年の定期でも、僕ら職人は仕事先が変動するので1ヶ月の定期になる。



その定期の更新のタイミングにも読みがあるので、今回はまだ更新してなかったわけで、現場まで向かった片道の交通費だけ無駄になったのである。



このまま電車で帰宅をすれば、仕事を休んだのに往復の交通費だけは自腹になるのだ。



どうせなら募金でもしたほうがよかった。



作業着だけでもロッカーに置いて帰りたかった。



いや、違う、こんなことは二度とあってはならない。



自分を戒めよう。



よし、決めた。



家まで歩いて帰ろう!!



夜中に急に走り出した男は、昼間に自宅まで徒歩で帰ります。



これぞ絶好調フェニックスだ!!



覚えておくがいい、調子に乗ってる男は二度やらかすと。



で、そっから4時間半も歩いたからね。



さすがに俺も悟ったわ。



電車って、便利だね。



たった1分のツケが4時間半ですよ。



それでも帰りの分の、片道の電車賃は浮いたわけだよ。



480円。



大切なことだから2回言うよ。



電車って便利。



ひたすら歩くのも大変だわ。



松尾芭蕉ハンパないって、古池で蛙が飛び込むまで休憩したくなる気持ちがよくわかったわ。



スタートは良かったのよ。



都内をさ、出社するサラリーマンの流れに逆らって歩いてるときはまだ調子が良かったのよ。



オフィス街で働く労働者諸君はこれからがビジネスタイムなんだねと。



君たちはこれからデスクワークをして、プレゼンテーションからのイノベーションなんかしちゃって、ITのテクノロジーでグローバルに働いているその間に、僕はテクテクと外を歩いて足だけで稼ぐよ。



480円をね。



もはや時給計算すらしたくねぇっていう。



4時間半で480円。



秒速で何も起こらないっていう。



これが大卒と高卒の違いなのかと。



まぁそのまま歩いて霞が関の方まで行くと人種が違ってくるわけ。



まさに日本のエリート達ですよ。



下手すりゃ幼稚園から大学まで私立だと、一生関わることのない天上人ですからね。



歩いてるときのオーラからして違うわけ。



育ちが良くて頭の良いエリートは人間としての迫力があるのよ。



それぞれの性格はあるにしろ、知識でも人格を形成してるような感覚あったね。



こっちは社会の底辺の建設業の職人だけどさ、そういう職種とかに対する差別意識みたいなのもないのがわかるのよ。



やっぱエリートだから幼い頃から背負ってるものが違うわけ。



競争を勝ち抜いてきてるからサラリーマンの勝ち負けとは全く違うね。



頭の回転もキレッキレなわけでしょ。



格好いいって思ったね。



総務省とか警視庁とかマジでスゲーの。



で、入り口の門から中に入るときにさ、ガードマンから挨拶をされて、そんときにやっぱ官僚みたいな人でも仕事モードのギアがちょっと上がるんだろうね。



これがまたいい表情をするんだよね。



それに比べてこっちなんかさ、底辺の仕事ですら門前払いくらってますからね。



ちゃんとしないとダメだって思ったね。



この人達が国を守ってくれてるんだなって反省したよ。



そんで、警視庁の建物の向かい側にあるのが皇居の桜田門ですよ。



江戸城の跡地ですけど、桜田門から中に入れるわけ。



こんなの江戸時代なら庶民には許されなかったわけじゃん。



石垣が大きいのよ。



で、思ったのが、江戸時代でも建設業なら江戸城を作るときには職人なら城内に入れたなと。



それは今も変わらないけどね。



完成したら職人たちは死ぬまで利用することのない建物の数々。



でも、石垣とか見てると当時の石工のやった仕事が時空を越えて喋りかけてくるわけよ。



物理的に石垣で城を守る意味もあるし、それだけの大きな石を揃える財力や、それを見事に切り出す職人を抱えることが権力のアピールとしても機能してるわけでね。



外国人観光客も写真をとってましたね。



こんな平日の朝からね、観光客と一緒にのんびりとした時間を過ごせるなんて贅沢ですよ。



1日分の給料と片道の交通費は失ったけど、まぁいいかと。



ずっと働いてきたからね。



10年も一週間の休みは日曜日だけでしたからね。



1ヶ月で休日は4日間だけですから、それで忙しい時期には休日出勤やら徹夜やら、それで10年もよく働いてきたもんだよ。



季節感とかの記憶がないもんね。



それだけの時間を費やすと職人ってのは直感を体得すると思うのよ。



理屈じゃなく、計算とか理論というよりも、感覚的な答えが正解に近くなるわけ。



電車と電車の間隔はいまいち読めなかったけどね。



で、皇居を抜けて、そこから都内を歩いて行くわけ。



都内で仕事をしてるから懐かしの喫煙所とか場所がわかるから立ち寄って一服してさ。



あそこのホテルをやった時は大変だったなぁとか昔を思い出したりしてね。



よく通ってたコンビニに立ち寄ったら店員のオバサンさんがまだその店で働いてたりしてさ。



こういうのもたまにはいいなと。



4時間半後には部屋の布団に横になって、もう二度と歩くもんかって思ったけどさ。



これね、何が悲しいって職場の連中が誰も信じてくれないのよ。



そりゃそうだよ、4時間半も歩く意味がわからないもの。



それにさ、本当に歩いた証拠がないわけ、写真を撮るわけにもいかないからね。



仕事を休んだくせに外人さんと肩組んでピースしてる写真とかありえないからね。



ただ、これはね、4時間半もの距離を歩いた者にしかわからない証拠があるよ。



距離にすると21キロくらいなんだけどね。



だからフルマラソンの半分くらいの距離だけど、これは練習しないと無理だわ。



なんでかっていうと、歩き始めて3時間過ぎたあたりから足の裏が痛くなるのよ。



足の裏にマメができちゃうわけ。



迷うくらいの痛みなの。



このままもっと痛むようなら明日からの仕事にも影響でるなと。



棄権しようかな、でも最寄り駅が近くにはないわけ、ここまで歩いて来といてタクシーを使ったらアホですからね。



最後は足をかばいながら歩きましたよ。



脳内でZARDの“負けないで”流れる感じ、歩き始めた頃はジブリの“さんぽ”だったのに、後半は自転車に乗ってゆっくりるお婆ちゃんに追い抜かされてましたからね。



本当に歩いた人間は足の裏にマメが出来る。



そんで腰が痛くなる。



腰の筋肉が痛むわけ。



筋肉で自前のコルセットを巻いてるみたいで、やけに姿勢だけは良くなるの。



これは本当に4時間半も歩いた人間にしかわからない真実だからね。



絶好調フェニックスだからこそ完走することができましたけど、フェニックスの手羽先を痛めてしまったわけ。



そんでまたイカれたやつからメールが来るんだわ。



こっちの状況としては絶好調フェニックスが鳥インフルエンザにかかった感じだから、こっちも瀕死の状態なのにイカれたやつから(死にたい)とかネガティブな内容のメールでネチネチと文句を言われて、さすがのフェニックスも鳥肌が立ちましたよ。



ただね、ここで、起死回生の一撃が出ましてね。



カーネル・フェニックス・サンダー・スタンド・バイ・ミー・リバーみたいな必殺技を編み出しましてね。



オカマの口調でメールの返信をすると効果的だという16年目の真実。



(あんた彼氏の文句ばっか言ってないで自分が成長しなさいよ)



朝から4時間半もひたすら歩き続けて、あんだけ絶好調だった男も疲れ果てると、最後はオカマに進化するっていうね。



だけど、これは便利だわ。



オネェの口調で言うと向こうも聞く耳を持つんだね。



それでも最後に(もう死ぬしかない)ってメールと一緒に写メが送られてきてさ。



昨日と同じ構図で風呂場の浴槽のふちにカップのアイスが置いてあるわけ。



昨日はシロクマだったけど、今日はそれがトルコ風アイスだったのよ。



いやいや、これから死にたいやつがアイス伸ばさねーから!!



せっかくの良い調子が狂わないように自分で自分を誉めたいと思う。



最後まで諦めずによく歩いたね♪
(--、)ヾ(^^ )