偶然の再開 | 天狗と河童の妖怪漫才

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妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

仕事が終わり地下鉄に乗る前に最寄りの喫煙ルームに立ち寄ると、入った瞬間に「満月満月さん!!」と僕を呼ぶ声がした。



声のする方を見ると懐かしい顔にお互い自然と笑顔になった。



その人は僕よりも5才くらい年上で、2年くらい一緒に現場で働いていた仕事仲間というか、僕たちは過酷な建設業で働く職人なので苦楽を共にした戦友のような感覚がある。



少し前に職場のイケメンと一緒に深夜の渋谷での夜勤バイトを紹介してくれたのも彼だった。



とはいえ、まさかこんな場所で再開するとは世間は狭い。



もしくは喫煙所のエリアが狭いのか(笑)



彼は僕よりも年上だけど笑うと口角がワンちゃんみたいにクルンとなるのがかわいいのである。



お互いに近状報告をした。



僕がお世話になってる3次会社の同じ班で一緒に仕事をしていた人なので内情には詳しく、僕の苦労を理解してくれた。



その頃の彼は僕と同じように他の会社から4人組で応援という形で来ていた。



一時期は10人くらいになったのだが、当時はストレスが半端ない軍隊のような班でもあったので 最後は2人になり、彼は最後まで残っていたのだが彼の会社のリーダーが我慢の限界になり職場を離れることになった。



それから暫くして彼は独立して今は一人親方として仕事をしている。



雀荘で知り合った15才くらい年下の奥さんとデキ婚して家族を養う父親でもある。



これに対して僕と同じく独身貴族であるイケメンは「絶対、嫁さんデブっすよ」と完全なる嫉妬を溢していた。



「雀荘で知り合って、しかも金髪の女って絶対にデブっすよ」



何回言うねんと。



ちなみにイケメンは突き抜けたイケメンなので、実は軽くデブ専でもある。



エロ動画のコレクション発表会を度々開催してくるのだが、その時には、さりげなく、ぽっちゃりが好みだと言うのである。



酔っ払った時には「オレってデブ専なのかなぁ?」と悩んでいた。



どうでもいいと思った。



たぶん、イケメンはぽっちゃりが好みなんだけど彼女がデブだとバカにされた時の激しい怒りが愛する人をバカにされたという“愛情”から来る感情よりも“デブ”という単語に引っ張られているのだと思う。



小学生の男の子みたいな理論である。



そんな突き抜けたイケメンは最終的にどうなるかというと…



「あれ、この話しましたっけ?俺がニューハーフの女ぶん殴った話」



どんなタイトルの話やねん、と。



ニューハーフの店のママと知り合って仲良くなったらしく、その店に友人を連れて数回通っていたらしいが、なぜか店ではママから素っ気ない態度を取られたと。



友人である客を連れてきているのにテーブルにも付かないと。



「そんなの、おかしくないっすか?ツンデレなんか知らねぇけどよぉ~」



こりゃまあ随分とご立腹だな、と。



「忙しいとか言いながら、1人で来てるオッサンの客のとこにずっと付いてんすよ」



知り合いの店のママという触れ込みで友人を店に連れてきたのに、これではイケメンの顔を潰されたことにもなる。



仕事の休憩時間に、この話を聞かされてる我々としては、それでも、ぶん殴るには何かが足りないと思っていた。



イケメンがニューハーフから焦らされているのは分かる。



イケメンはこれよりも前に、今日の夜はニューハーフとプライベートで飲むと意気込んでいたこともあった。



ハメ撮りしますから、と饒舌だったのである。



しかし翌日にニューハーフを抱いた感想を聞くと、ダメだったと。



イケメンでも抱けない女がいるんだな、ニューハーフのガードは物理的に固いんだな、と。



これはたぶん、ニューハーフは喋りが達者なので口説くのが普通の女の子よりも難しいのかと。



というか、イケメンはニューハーフに惚れている のです。



突き抜けたオスとは、そのような境地になるのでしょう。



世間では生産性がないなどと差別的な発言が問題になっていますが、突き抜けたオスとはニューハーフだろうと、ぶん殴るみたいです。



しかし、そうなるには理由が必要だと思います。



「それで仕方なく飲んでたら店の若い女の子に説教してんすよ」



ニューハーフの世界とはいえ若い女には厳しいのかな?と。



「客の前なのに偉そうに説教してるから『やめなよ、いいじゃん、そんな別に…』って止めたら、女から“黙ってて”言われてブチンきたから…」


彼の沸点がいまいちよくわかりません。



「なんやコラルァ、おま、ちょっとこっ来いやァァァ!!オリャアァァァー!!」



キレると彼は出身地でもある関西弁になるんですね。



「そんで、ぶん殴ったら女が“痛い痛い痛い、警察、誰か警察呼んでェェェ”騒ぐから、『呼んでみいゃコルロロロラァ、早よぉ呼ばんかいコルロロロラァ』言ったら、1人で飲みに来てたオッサンが助けに来て“俺の女に手を出して、ただで済むと思うなよ”言うから、『うっせー!!』って、ボコーンぶん殴ってやりましたからね(笑)」



その話を聞かされてる我々は苦笑いである。



むしろ、ちょっと、みんな引いてたので僕から助け船を出すことに。



「…まぁ、でもこれ、登場人物は全員“男”なんですよね?」



満場一致の【確かに!!(笑)】という笑いをかっさらう抜け目のない私。



それで、どうしたのか聞くと、走って逃げたと。



そして、これが、どうゆうわけか、イケメン曰く、「こいつ(ニューハーフ)俺に惚れてんすよ」と。



ニューハーフからの謝罪のラインを見せてくるのである。



なんだろう、変な胸騒ぎがするのである。



なんか、ちょっと可愛いのである。



オスから力で捩じ伏せられたことにより自分がメスであることを自覚した女が漂わせる獣のような色気がある…



「でも、返事は返さないで、今はわざと焦らしてるんすよ」と。



これが恋愛の駆け引き、というやつなのだろうか?



イケメン曰く、食欲と性欲は同じ仕組みらしい。



食欲旺盛の女は夜の性欲も激しいと。



これは(イケメン調べ)なので信憑性は確かである。



職場にいる南米出身の男達に聞いても好みのタイプはお尻の大きい女だと口を揃える。



国によって目の色と身長が異なるが、とにかくケツの大きい女がモテるらしい。



男というのはスケベなので、そこに国境はない。



話が国境線を越えるまで逸れてしまった。



イケメンが「絶対、嫁さんデブっすよ」と言ったわけですね。



「20代の前半で雀荘に通う女ってヤバいっしょ」と。



とはいえ、結婚のお祝いとして職場のみんなでカンパして渡したら、その翌日には奥さんからお返しの洋菓子と直執のお礼の手紙を貰ったのである。



手紙の内容もちゃんとしていた。



そのことをイケメンに伝えると「うーん、解せないな…」と。



そんなこともあり、結婚生活についても深夜の渋谷で待ち合わせした時にも聞いてみたのだ。



職場では30過ぎても独身の3人は同志だったのだ。



すると年明けから休みなく働いていると。



お金が掛かるから昼夜の連勤を続けてると風邪でかすれた声で話していた。



その横でイケメンは終電を逃した酔っ払いの姉ちゃんに朝まで飲める知り合いの店を手配していた。



結婚してから嫁さんには奨学金という借金があることが分かったらしく、それで貯金の300万は消えたと。



自分の借金がなくなると女というのはワガママになるらしく、電動アシストの自転車が欲しいと言われたと。



15万もすると。



この世の全ての男たちは、女から騙されているのである。



35過ぎても独身の男は訳あり物件とか言われるけれど、僕たちは傷だらけなのである。



そんなわけで、偶然に再開した彼と(年上に彼って言うのもおかしいけど)笑い話に花を咲かせていると、驚きの事実を明かした。



イケメンとビットさんが会社を辞めた話になり、実はそれは彼が引き抜いたと言うのである。



これは業界としては、ご法度なので僕の胸にしまうしかない。



乳首を攻められると出てきちゃうかもしれない。



とはいえ、イケメンは絵描きでビットさんは不動産業なので完全な独立というわけでもない。



もちろん僕にも好意として誘ってくれていた。



今回の現場は夏休みが10日くらいあるので、会社員とはいえ日給月給の日雇い労働者は餓死する。



そんな最悪のタイミングで偶然の出会いなのだから僕は悪運だけはなぜか強いのだ。



過去に痴漢の冤罪で逮捕されたときも警察から示談の金額を人生として賢く計算するよりも、ちっぽけな正義を貫き否認を続けて不起訴になった奇跡の男でもある。



その頃の僕はイカれた彼女から超絶なる束縛をされてる時期で、そんなガチガチに束縛をしている男が警察に束縛されたことにより、イカれたやつが警察を相手に奪い返したわけでもある。



僕は女運もすこぶる悪いのだが、女の子から助けてもらうこともしばしばある。



夏休みにも忙しい仕事をあるらしく、付き合いのある人を僕に紹介してくれるというのだ。



ショートメールで会社名と電話番号と名前が送られてきて、相手に僕の携帯の番号を教えてもいいですか?と聞かれたので、教えても大丈夫ですと返した。



直後に携帯がなり、相手は丁寧な受け答えのオバサンだった。



紹介先の事務員か、そこの社長の嫁さんかな?と。



挨拶を済ませ、紹介してくれたお礼をショートメールで返した。



残念なガラケーボーイの僕。



すると、漢字の間違いはあるものの送られてきたメールに驚いた。



≪話した相手は一様、社長です。現場はしらないですが敏腕手配師です。体あくようならよろしくおねがいします。≫



声はオバサンではあるものの、救いの女神に感謝します。



偶然の再開で今回もピンチを切り抜けられそうである。



問題なのは僕は朝が起きられないタイプなので、これは独身あるあるだと思ってたくらいで、僕もイケメンも朝が起きれないし、今回仕事を紹介してくれた元独身の彼は不眠症だったからね。



敏腕手配師にモーニングコールをお願いすることは仕事の内なのか外なのか、とりあえず寝てから考えよう。



たくさん寝て、たくさん笑ってれば、何とか生きていけます。