イカれた彼女が名古屋に半年の出張に行くことになった。
家賃は会社持ちで家具も一式揃ってるみたいなので、あとは今までとは畑違いの仕事で成果をあげることに集中するだけである。
イカれたやつは一人暮らしをするのは初めてなので、親元を離れて精神的にも自立することが出来ることに期待している。
成長には個人差があるのでだいぶ時間はかかったけど、若い頃から見てきた側としては喜ばしいことである。
夏休みには名古屋まで遊びに来てもいいと言われた。
私が仕事に出掛けてる間は部屋でDVDでも観て待ってればいいと。
これは彼氏が彼女に言う台詞である。
というか、完全に立場が逆転したことになる。
15年前には僕は出張で秋田に2週間ほど滞在していた。
休日に彼女は新幹線で秋田まで遊びに来たのだが、その帰り際には駅の改札で泣いていたのである。
一人で新幹線に乗ることにも不安になっていたやつが、ババアになったら一人で半年間も名古屋に出張に行けるようになるとはね。
そんなイカれたやつからの度重なる嫌がらせで僕は会社を強引に2回も辞めさせられたわけだが、ここにきて完全に立場が逆転したことになる。
まぁ仕方ないか。
本人の病気だとか家庭の事情もあるから、成長するチャンスやタイミングも環境なんだよね。
環境のせいにするなって言う人もいるけど、症状や感情というのは揺れ動くもんだから本人が不安のままだと悪化することにもなる。
出張に行く決心がつくまではいつものように暴言を吐かれた。
お前が養えないから悪いんだと。
これも言葉通りに受け止めることも正解なんだけど、言葉ってのは感情の塊を表現しているわけでね。
仮に養ったとしても、似たような感情の塊は生まれるわけでね。
お前がのが悪いんだろと。
空欄に入る言葉が違うだけで、沸き上がる感情は同じだと思う。
最終的には別れることになる。
僕が死んだとしても同じだし、寝たきりになっても、目の前にある現象としては女はいつか一人で生きていかなくてはならない。
男女には寿命の差もあるし、もっと手前にあるのが喧嘩して別れることにもなる。
慰謝料だけで暮らしていく方法もあるかもしれないが、女の場合は収入を得られるスキル(ざっくり言うと)を確立する前に男から養って貰うのはずっと不安を抱えることにもなる。
本人のプライドにもよるけど、お金だけでそのバランスが保てるほど女は器用ではないと思われる。
男社会では底辺まで落ちた男と付き合ってることになるので、出張先で新たな出会いも女としては楽しみの1つだと思う。
基本的にイケメンさえ拝めれば女という生き物はハッピーなのである。
なんというか、やっと肩の荷が降りたような気分だ。
女で一人暮らしという経験は本人の自信になる。
口喧嘩というか、口論をしていても相手の弱点を突くのはディベートで勝ってもフェアじゃないこともある。
まぁ口喧嘩では女には負けますけどね。
一人暮らしをしてないと経済的にも精神的にも自立が出来てないとされてるけど、若い女が東京で一人暮らしするの基本的に不可能だからね。
それなりにセキュリティの整った部屋を借りて、給料だけで自炊して服やら何やら出費を考えたら無理でしょ。
みんな夜の仕事を掛け持ちでやってるのが現状なんだからさ。
イカれた彼女の場合は僕と同棲してた時期も家賃と光熱費は払ってないわけでね。
本人は会社から近いから終電で帰っても便利だったから居候してただけで同棲じゃないって言うわけだよ。
今になってお金のことを僕に文句を言うけど、その頃は僕の支えがあってこそなわけでね。
僕の苦労をわかってないわけですよ。
男社会での苦労をさ。
今回の出張で15年前の僕の不安な気持ちとかがやっと理解出来ると思うんですよ。
その頃のイカれたやつのやってた行為を僕が同じようにしたら、それがどれだけ非常識で迷惑を掛けたか理解できるわけだ。
僕が出張先にいるイカれた彼女の上司に電話を掛けて怒り狂うようなもんだよ。
相手の立場を理解するにはこれだけの時差が必要になるわけでね。
年齢差は仕方ないとしてもさ。
イカれたやつは僕の2個下だから、2年先のことは教えられるけど、環境が違うと難しいだよね。
僕の話にもずっと聞く耳を持たなかったけど、最近になって少しは聞くようになったけどね。
これまでは僕の意見に対しても、「いつまでも過去の栄光を引き摺ってんじゃねえよw」とボロクソ言われてたわけでね。
ただ今回は初めての長期間の出張で仕事の内容も職場の人間も変わるわけで、その不安を僕は知ってるわけでね。
僕を無理矢理に会社を辞めさせて転職をさせてた側の視点から、自分が未知の環境に踏み出す側に立った視点になって、ようやく分かった景色だと思うわけ。
僕としても伝えられることは言おうと思ってさ。
過去の栄光って言い方はダサいけど、重要なのは栄光までのプロセスだと。
栄光の時代や結果じゃなく、重要なのは栄光までのプロセスで、その方法論なんだと。
出張先で結果を出すには方法論を見付けることだと。
僕としてはこういう話を15年前からしたかったわけですよ。
ずっと感情論だけでここまできたわけでね。
上司のことも凄い信頼してたわけですよ。
だけど世の中の流れが変化してきたら、業界そのものが泥船みたいになったわけでね。
尊敬してた上司も肩書きが無くなる状況になると男としての器でしかなくなるわけですよ。
大卒でIQが高いと慕っていた上司も頼りなく感じるわけでね。
どんなにIQが高くても行動が起こせなきゃ意味がないわけですよ。
それに男なんて結婚して子供がいたら守りに入るわけでね。
職場にいる男たちが頼りないと感じるようになったわけですよ。
家族のいる男が職場で正義を貫くって、ほぼ無理だからさ。
村八分でも無職でも付いてくる嫁さんもそうはいないからね。
子供の学費を考えると無理なわけ。
自分だけじゃなく家族としての損得で考えたら収入を選ぶわけよ。
自分よりも部下を守るって、なかなか難しいからね。
その上司は北海道に飛ばされるみたいで、イカれたやつも断れば他の後輩が飛ばされるから覚悟を決めたらしいけど。
会社の屋台骨を支えてるコンテンツを作ってるチームのツートップがなぜそうなったのかが僕には分からなかったけど、地方に飛ばすことで発信力を奪うことにはなる。
で、がら空きになった本丸を奪ってコンテンツだけ貰って独立しようと目論んでるやつがいると。
独立路線ならそれは掲げる旗としては考えは分かる。
でもそれは資本金があれば買収すれば誰でも可能なこと。
イカれたやつも旗を掲げる必要がある。
それは白旗ではなく、独立の旗でも反逆の旗でもなく、新しい旗だと。
イカれたやつはかなり後手に回っていて、僕が聞いてる感じと実際の職場での本人のキャラクターの感じでの誤差もあるのだろう。
取引先の全ての社長に顔と名前を売ることを目的とした企画を立ち上げるようにアドバイスしたのだが、そんなの無理だと意味がないと笑われた。
結果的にはイカれたやつの名古屋行きが確定したあとに、独立を目論むやつが挨拶回りという名目で取引先の社長を回ると言った。
こうなることを読んだ上で僕は言ったのだ。
名古屋に飛ばされたら企画すら立ち上げられない。
完全なる後手女である。
女というアドバンテージを活かせてない。
そんで独立を目論むやつの信者のような名古屋の小判鮫野郎がイカれたやつを名古屋に呼び出した張本人なのである。
独立を目論むやつはフリーだった小判鮫を正社員として引っ張ったと。
イカれたやつは男社会のこういう戦国時代の戦い方をいまいちよくわかってない。
縦社会が崩壊すると実力主義になる。
すなわち、何をしようと結果を出したもん勝ちになるのだ。
グループ企業なので、独立を目論むやつも傘下の会社の社長になる。
社長の肩書きが通用するのは社外だけで、その内容が勝負になる。
イベントをやってる会社だと。
業界の方向性としてはイベント路線になるのも分かる。
独立を目論むやつ(イベント社長)は福岡を拠点にしていたそうだ。
先に自分が福岡に飛んだことで、他の部署の社長も地方に飛ばないわけには行かなくなったと。
その前にノーマークだった契約バイトのやつを名古屋に飛ばしたら頭角を現したらしく、それで勘違いをしたのか偉そうにイカれたやつを指名して名古屋に呼び出したと。
この状況では福岡と名古屋は独立を目論むやつが制覇してるわけで、イカれたやつの直属の上司が北海道を開拓できるかどうかもわからない。
東京の本社には長年勤務していても戦えない男しかいないと。
これはもう、名古屋で圧倒的な結果を出して、小判鮫から名古屋での発言力を奪うしかないわけでね。
半年間でその結果を出すのは難しいでしょ。
もちろん“半年間では結果を出すのは難しい”という正確な日本語よりも、“名古屋で結果を出せなかった”という日本語の方が短くてスピーディーな烙印になってしまう。
イベントは集客力で、いかに楽しんでもらって、お金を払ってもらうかになる。
営業をやったことのないイカれたやつにそのような才能があるのかわからない。
僕も営業職はやったことがないのでわからない。
今までにないようなとんでもないストレスによって、捌け口である僕が潰されないことを祈る。