恋愛教室9 | 天狗と河童の妖怪漫才

天狗と河童の妖怪漫才

妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

「こちらに引っ越してきてどれくらいになりますか?」



「えーと、3年…もう少しで4年になりますね」



「ちなみにですけどぉ、お家賃の方は…ど、れ、く、ら…いで?」



「家賃は満月満月千円ですね」



「んー…、この辺りですと、ちょっと、お高い感じですねぇ」



不動産のプロだけあって家賃の相場には詳しいのだろう。



「ここ、ペット可なんですよ」



「あー、それでなんですね」



“家賃が相場よりも高い”理由として考えられるいくつかの答えの中から、“独身の男がペットを飼う”理由というのが繋がらないのだろう。



というか、想定外でしかなかったと思う。



「ペット飼われてるんですね」



「いや、ペットは飼ってないんですけどね…」



それにはちゃんとした理由があるのだが、それを話すと長くなるのだ。



「ずっと高い家賃を払い続けていても自分の物にはならないじゃないですかぁ」



「まぁ、そうですね」



「1ヶ月に満月万円として年間で満月満月万ですから、それが4年だと満月満月満月万も払ってるわけですよ」



「そうですね。計算するとそうなりますね…」



“自分の物にはならない”



全ては不動産を買う理由としての話だったわけだ。



不動産を買わせる目的での営業トークなわけだ。



営業マンとしては掴みの鉄板トークなわけだ。



家賃を払い続けるのはバカらしいってのは、誰が聞いても納得する話だろう。



家賃の数字だけが人によって違うだけで、この営業トークとは完璧に計算された“人間の欲望”を刺激する構成になっている。



もったいない、騙されてる、自分の物にしたい、そのような感情が自然と沸き上がってくる。



客との自然な会話として成立していながら、目的に向かって誘導する見事な営業トークである。



ただ、問題があった。



ベテラン営業マンによる計算された完璧な営業トークのその最中に、おかしな部分があったのだ。



相場よりも高い家賃を払ってペット可のアパートに住んでいるのだが、そいつはペットを飼ってないというのだ。



想定外の男が現れたのだ。



バカ過ぎるのだ。



毎月の家賃の段階で、既にもったいないことになっているのだ。



その後に続く家賃の年間計算をドーン、さらに住んでる年数を掛けたこれまでの総額ドドーンが、なんか足りてないのだ。



本来ならば完璧に決まるはずの殺し文句が、ちょっとボヤけた感じになったのだ。



その理由を説明したのだが、これもちょっと話が重いのだ。



彼女と同棲してる時に野良猫を拾って飼うことになって、それから彼女が猫を連れて実家に帰って、彼女にはちょっと問題があって、婿養子にする為に猫を利用してる感じで、怒ると猫の面倒はみないとか言い出すから、もしそうなった時に猫を守る為にペット可のアパートに住んでるわけです。



「へー、優しいんですね」



社会人の言うそれとは「バカなんですね」と同じである。



続く。