恋愛教室8 | 天狗と河童の妖怪漫才

天狗と河童の妖怪漫才

妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

上司の男がほんと嫌なヤツでね。



でも、女の子からしたら理想の王子様って雰囲気のヤツなのよ。



イケメンで頭が良くて、お金持ちって最強じゃん。



なんかね、話をしてると自分がみっともなく思えてくるのよ。



同じ男なのに住む世界が違うというかさ。



それをさ、若い女の子の前でイジってくるなよって思うわけ。



そりゃ男としての経済力ならアンタに負けるよ。



職業とか年収とか結婚してるかどうかも聞いてくるわけだよ。



アパートの家賃を払い続けるのがどれだけバカらしいかって説明をしてくるわけだよ。



この話ってのはさ、不動産の仕事をやってる側の視点からしたら、部下であるAちゃんは上司が俺に言うことに対して頷くことになるわけじゃん。



高校を卒業してすぐに上京して就職したって話を俺がしたわけよ。



そしたら「不良だったんですか?」とか言うわけ。



高卒=不良みたいな感覚なわけですよ。



それで建設業だから不良で間違いないみたいに思ってるわけね。



その公式だと、不良=ヤンキーみたいなスタイルとしての不良じゃなくて、人間的な欠陥としての不良品の意味での不良になるじゃん。



高卒のいない職場でずっと働いていたらそう思うのかもしれないけどさ。



言いたいことはわかるよ。



わかるけどさ…



みんなが努力をしてる時に努力をしなかった結果だってことくらいさ。



「失礼ですけど、結婚はされてますか?」って聞いてくるわけ。



失礼なことなら確認してから聞けよ!!



“痛いですけど、殴っていいですか?”と同じだからな。



てか、もう殴ってるからね。



大学ではそういうことを学ばなかったのかね?



「車は持ってますか?」とかも聞いてくるわけよ。



「持ってないですね」って答えるしかないじゃん。



なんなのかね、俺の“持ってないもの”について調査されてんのよね。



学歴がないから収入も少なくて、だから結婚もできないっていうストーリーを喋ってる俺がそう感じるようになるわけ。



喋っててすんごい惨めなの。



職人っていう仕事には「腕があるっていいですよね」って笑顔で言ってくれるけどさ。



そう言って笑う彼の腕には、キラキラと輝く高級腕時計が見えるわけですよ。



こういうヤツなのよ。



“手に職があるっていいですよね”って言えばいいのに、“腕がある”って言い方をするわけ。



これね、自分の腕時計自慢に誘ってるとこあるよ。



これ俺の被害妄想もあるけど、なくはないよ。



男社会ならこれあるよ。



「腕があると言えば…」みたいな感じで後輩が先輩を飲み屋でヨイショするときのキラーパスの合図を出してるよ。



キャバ嬢なら間違いなく理解してくれると思うけど。



結婚してるかの質問にも「独身です」って俺が答えたらさ、こっちも同じ質問を相手に返すじゃん。



こういう客とのやり取りを向こうは何十年も営業マンをやって高級な腕時計を買えるだけの結果を出してんだからさ、会話の展開なんか読めてるわけじゃん。



その上でそれをわざわざ俺に聞いてくるんだなって思うわけよ。



「結婚はされてるんですか?」って聞いたわけよ。



「ごめんなさい、僕は結婚してます」って頭を下げるのよ。



なんなの?



こいつ何なの?



結婚してるやつは独身のやつに頭を下げなきゃいけないのか?



俺もう36だよ。



それなりに結婚生活の苦労話とかも先輩から聞いてるからね。



結婚してるからって幸せじゃない人がいることも知ってるからね。



結婚してないだけで頭を下げるなよ。



勝敗をお前の人生で決めつけるなよ。



まだ終わってねえよ。



そんで俺に夕飯を食べたかどうかを聞いてくんなよ。



その傷口を広げるのやめろよ。



最初にAちゃんが一人で立ってた時に、俺に「夜ご飯はもう食べたの?」って聞いて、何を作って食べたか答えたのをお前もアパートの陰に隠れて聞いてただろ?と。



上司「夕飯はもう食べられましたか?」



俺「ええ、食べま…」



Aちゃん「もう食べたって!もやし炒め作って食べたってさっき言ってたもんね!!」



Aちゃん、ここは入ってきちゃダメなとこだぜ…



上司「へー、もやし炒めですか!(笑)僕も“もやし”大好きですよ(笑)」



大好物が“もやし”って、そんなやつ聞いたことねえよ。




俺「いや、そんなわけないでしょ!結婚してる人が“もやし大好き”なわけないですよね!?」



上司「好きですよ。サッポロ一番の味噌らーめんに“もやし”入れると美味しいですよね!」



それは“もやし”が大活躍するメニューの中から、お前が選んでるだけだろ!



サッポロ一番の味噌らーめんを食べたいから、それに“もやし”を入れるんだろ。



“もやし”が大好きだから、サッポロ一番の味噌らーめんを食べたいとはならないだろ!



そんなに“もやし”が大好きなら、シンプルに“もやし炒め”が大好きでいいだろ?



つーか、俺、“もやし”好きじゃねえから!!



安いから買ってるだけだから!!



貧乏人だから“もやし”食ってんだよ。



サッポロ一番も貧乏人の主食じゃねーかよ!!



お前らが“たまに食べると美味しいよね”って言うやつだよ。



…こいつ、独身男の殺し方を熟知していやがる。



母親以外で自分の為に料理を作ってくれる存在がいるのか?いないのか?



ここの急所を狙ってくるとはさすがだな。



嫁さんの容姿は人それぞれの好みによる、残りの全ては嫁さんが手料理を作ってくれるかどうかだ。



これは男社会において究極にダサいのだ。



どんなに不味くても嫁さんが手料理を作ってくれるのと、そうでないのとでは、男の人生そのものが揺らぐのだ。



AちゃんとSちゃんにも俺は「料理はできるの?」と聞いていた。



2人は揃って深々とお辞儀をした。



料理はできない、と。



料理をすることについての詳しい説明を2人にはしなかったけど、今からでも少しずつでいいから覚えた方がいいよとアドバイスをしたのだった。



Aちゃん「男の人の胃袋を掴むって、大事って言いますもんね!」と。



な、Aちゃん、こういうことだぜ…



男は料理を作ってくれる女の子がいないだけで、こういう酷い言われ方をされるんだぜ…



これは女の武器にもなるのだ。



よく料理が得意な男が好きっていう女の子もいるけど、それはあまり賢くない。



男と喧嘩をした時に【料理を作らない】というカードを女が持てることになるのだ。



そうなると男から謝るしかないのだ。



嫁が料理を作ってくれないから仕方なく謝るという、そこそこプライドが高い男でも、それが謝ることの言い訳としても機能するのだ。



いつも愛妻弁当を持ってくる先輩がコンビニ弁当を持ってきた日には、俺みたいな後輩から「奥さんと喧嘩したんすか?」と言われるのだ。



いつまでもコンビニ弁当のままだと、愛妻弁当を作ってくれるような優しい奥さんとまだ仲直りできないクソダセェ先輩として後輩から追い詰められるのだ。



後輩は愛妻弁当のオカズを貰って食べてるから奥さんの味方なのだ。



“コンビニの弁当って美味しいですよね”なんて言うわけないのよ。



職人の世界は言葉よりも感じることに特化した環境だからね。



先輩が間違ったことや矛盾したことを言ってても、先輩が何を言いたいのかを感じる力が重要なのよ。



これと同じ感覚で不動産の営業マンの上司が俺に言ってくる言葉から感じることは、契約書に判子を押せってことなのよ。



俺らの世界での「アレ持ってこい」は言葉じゃないのよ。



何をしたいのか?なのよ。



俺に契約をさせたいのよ。



「僕は“買って下さい”とは言いません!!」っていう必殺技みたいなのを上司が言ってくるわけ。



いや、もう言っちゃってるからね。



『僕は“結婚して下さい”とは言いません!!』



そんなことをわざわざ付き合う前から言うような男とは恋愛したいとは思わんからね。



『僕は“ヤらせて下さい”とは言いません!!』



絶対にヤるだろ、お前。



こういう上司の下でAちゃんは汚れた大人になっていくんだろな。



こっちは高卒だから大卒との学力では圧倒的に負けるけどさ、宅建とかいう資格も記憶力だけなら俺でも受かるんじゃないの?



そんでお前と同じだけの時間を営業スキルに置き換えたら、営業成績でお前に負ける気なんかさらさらねえんだけどな。



客も女も金も騙してOKなら、お前の持ってるもん全て手に入れてやるよ。



「1つだけ、1つだけ、お願いがあります」って人差し指を出して言ってくるわけよ。



それが3回くらい続いたから、さすがにツッコミを入れたわけよ。



「さっきから1つだけのお願いが多くないっすか?」って。



これにはAちゃんも笑うわけよ。



だけど上司としてはムカついたんだろね。



でもさ、笑うAちゃんの感覚が普通だからね。



営業スキルとして“1つだけお願いがあります”ってやるのが心理的な作戦としてのマニュアルがあるんだと思うけどさ。



こっちの職人の世界では、先輩が「1つだけ持ってこい」で、言われた通り1つだけ持って行ったとしても、それが1つじゃ足りなかったら「気が利かねえな」って怒鳴られる世界だからね。



数の正解はこっちが判断するわけよ。



それを1つだけって何回も言うからには、これは1つじゃなかったら殴られるパターンだなと。



そういう確認をする上で印象付けとしてツッコミを入れるわけだ。



それだけ重要なことなのかと確認するわけ。



そしたら不動産の資料を持って来た時に、それを広げる台を用意して欲しいと。



“資料を広げるので、テーブルだけ用意して欲しい”で伝わるよね。



俺のツッコミでAちゃんから笑われたのが気に入らなかったのかね。



上司は俺にこうお願いしたのよ。



「資料を広げるので、小さい“ちゃぶ台”だけでも用意してもらいたいんですよぉ」



俺、巨人のエース目指してねえから!!



お前は俺のこと、どんだけ貧乏人だと思ってんだよ!!



続く。