1週間の休みを終えて職場に復帰したOさんだったが、2日間だけ出勤すると再び休んでしまったのだ。
さすがにクズ呼ばわりするのも飽きてきたので、~終わらない五月病~というキャッチーなサブタイトルを付けて温かく見守りたいと思います。
当然ながらOさんは社長からは叱られるわけですよ。
それで本人もしぶしぶ現場にやってきて朝礼だけ参加したものの具合が悪いからと早退した日もあったんですよ。
朝礼中もフラフラで、終わった後も座り込んじゃってね。
本人の言い分としては
「昨日っ、うちのっ、くそバカ社長から電話あって、こっちは具合悪いのに休むなってボロクソ言ってくるから…」
僕『そりゃ、そうでしょうよ(笑)』
みんな笑っているのだが本人としては超絶に具合が悪いのだろう。
これまでずっと休まずに出勤していた人が急に体調不良で立て続けに休んだのならば普通に心配するし、誰もそのことをボロクソにまで言うわけがないのだ。
童話の狼少年のような結末なのである。
ずっとウソばかりついていたから信じて貰えないのだ。
GWにも仕事はあったのだがOさんは『へっ、出るわけねえじゃん』と強気で休日を満喫していたのだが、それから体調不良になって1週間も休んだ結果、『このままだとオレ、給料少なくて生活が出来なくなるから』と嘆いているのだ。
これは童話アリとキリギリスのまんまである。
もしかしたら彼の生まれ育った環境に問題があるように思えてくる。
人は育つ環境を選んで生まれてくることは出来ないのだ。
どうやら足立区の図書館には、こうした童話や昔話などの絵本が置いてないらしい。
そもそも足立区には図書館そのものがないってことも考えられる。
唯一あるとすれば、ラッパーになるには恵まれた環境とも言える。
そんなOさんの住む街に1度だけ行ったことがある。
給料日が休日だったのだが、社長が勘違いをして前日に給料の振り込みを忘れた日があった。
もちろんその日もOさんは風邪で休んでいた。
仕事中に僕の携帯にOさんから着信があった。
なんだろうと、電話に出るとこう彼は言った。
『3時現在で給料がまだ振り込まれてないんだけど…ちょっと社長に確認してくれる?』
おや?風邪で寝ているのでは?
とりあえず社長に連絡すると、振り込みを忘れていたと、それで現金で手渡す話になったのだ。
Oさんにも電話して事情を説明した。
給料の受け渡し場所は社長と電話して決めて下さいと。
振り込みを忘れたのは社長の不手際なので、Oさんのことだからきっと社長に家まで持ってくるように言うだろうなと。
暫くすると再びOさんから連絡があった。
会社の最寄り駅まで来るように言われたと。
僕らは仕事場である都内の建設現場には各自の家から直行直帰なので会社の場所からは離れているのだ。
それでOさんが僕に電話してきた理由がややこしいのだ。
社長には今日仕事を休んでることを言ってないと。
いずれバレることだが、怒られるから言いたくないのだろう。
社長は給料を手渡したらそのままみんなで飯を食いに行く気まんまんだと思うと。
Oさんは給料を受け取ったらとっとと帰りたいと。
だから車で行くと。
車なら酒を飲めないから断る口実になると。
ようするに社長に無断で休んだことがバレないうちに給料を貰って帰りたいと。
こういうことでの頭の回転はずば抜けて速いのだ。
おそらく幼少期からずっとウソをつき続けているので、ウソを思考する為の脳内シナプスが通常の人よりも彼は異常なまでに発達しているのだろう。
しかし、問題があった。
Oさんの愛車の軽自動車は先月で車検が切れていたのだ。
するとOさんは僕が定時で仕事が終わるまでに知り合いから軽トラを借りてくると言うのだ。
それに僕も一緒に乗って行けば怪しまれないと。
けれど、この現場にはうちの会社からもう1人ポンコツのおっさん職人がいるのだが、軽トラは2人しか乗れない。
とりあえずポンコツおじさんにも給料の手渡しの件を説明した。
ポンコツおじさんは現場と家は近いのだが会社は逆方向なので行きたくないと。
疲れて面倒臭いから休み明けの振り込みで構わないと。
ちなみにポンコツとクズ(Oさん)は仲が悪いのだ。
2人とも趣味はキャバクラ通いなのだが、忘年会の時はお互いにキャバクラ自慢話でずっと張り合って喧嘩になりそうになっていた。
ポンコツが常連で通ってる錦糸町のキャバクラには同伴したり指名してる女の子が3人いるという自慢話をすると、クズは負けじと『オレなんかキャバクラで同時に10人指名したことあるから』と張り合うのだった。
そしてクズがトイレに席を離れるとポンコツが冷静に笑いながら言うのだ。
「フッ…同時に10人も指名するって、フッ…バカじゃねえのかって(笑)ムゥ…どうやって…話すんだよ(笑)」
そっからはお互いに大声で『オレは…』「俺は…」のラリーでみっともない泥仕合が続いたのだった。
社長が「じゃあOさんの付き合ってる女の子の写真を見せてくださいよ」と、キャバ嬢の写真じゃんけんみたいな展開にもなった。
公平な立場で写真じゃんけんレフェリーとして見せて貰ったのだが、これは完全に後出しの田舎チョキでしょみたいな、角度がほぼ真上から撮影したみたいな卑怯な写真だった。
そんなこともあってポンコツは行きたかねえと。
で、僕が仕事が終わってからOさんの住んでる駅に立ち寄ったわけですよ。
とりあえず喫煙所で煙草吸いながらOさんに電話すると近くにいるからすぐきてと。
まだ煙草吸ってますから言うと、平気だからと。
いや、いくらなんでも駅前近くの路上喫煙はダメでしょと。
看板にもちゃんと書いてありますよと。
いいから、ここは吸っても大丈夫なんだから早くこいよと。
どんな街なんだと。
それでも電話はしたままちゃんと喫煙所の灰皿で煙草を消して歩いていくわけですよ。
最初の交差点に出ましたよと。
その斜め先の道に軽トラを停めてるからそのまま来てと。
まだぁ?早くしろよぉ!!と。
いや、今、信号が赤なんでちょっと待って下さいと。
関係ないでしょ?赤でも渡っていいんだよと。
いや、車が走ってますからと。
この街は赤信号でも渡っていいんだと。
なんちゅうとこ住んでんだと。
で、合流したわけですよ。
誰から軽トラを借りてきたんですか?って聞いたら近所の人って言うの。
近所の自転車屋に「ちょっと軽トラ貸して~」って言って借りてきたと。
なにその【三丁目の夕日】みたいな世界。
なるほどなと。
そういう人情味のある街ならいいとこじゃんと。
いやいや、あなた今日は風邪で仕事を休みましたよね?と。
給料が入ってないから病院もツケだったよと。
え?病院ってツケが出来るの?
この街ならそれもありなの?
もうね、何が本当で嘘かもわからないのよ。
境目がわからないのよ。
そういう意味でも三丁目の夕日みたいなね。
昼と夜の境目みたいなさ、よくわかんないけど、嘘をつく気持ちを肯定するのなら自分の感情には素直に生きてるわけだよ。
気の向くままに生きてるというかさ。
このままだと間違いなく野垂れ死にするだろうけど(笑)