夜空の友16 | 天狗と河童の妖怪漫才

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妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

それで前日に引き続き友達のいる神社を探して走り回ってたんだわ。



だけど喫茶店と違って神社のヒントってないじゃない。



俺の中にも神社の違いとかの引き出しはないわけ。



そこの神社は玉砂利かな?とか聞いたところで絞れないからね。



鳥居のサイズとか、賽銭箱の前にぶら下がってる鈴の付いた綱の本数とか聞いてもピンと来ないからね。



友達と電話で喋ってても自分がどこを目指して走ってるのかもわからんのよ。



そうこうしてたら友達はトイレに行くって言い出すわけ。



どうして探してる途中で移動するんだい?と。



そんでトイレは少し離れたコンビニまで行くと。



そこでコンビニの名前を聞いたわけよ。



これで大体の場所は絞れるだろうなと。



さっそくガラケーの地図アプリで周辺のコンビニのマークを探してみたんですよ。



そしたらこれがまぁ、いい感じの距離感で割りと離れたところに同じ店が点在してるんですね。



そりゃそうだなと。



それがコンビニというものなんだと理解するわけですけど。



そしてそれは神社も同じだということ。



喫茶店みたく駅前に都合よく集まってないわけ。



1ヶ所がハズレだったら次の場所までがかなり遠いのよ。



しかも俺は地元じゃないから抜け道とか最短ルートもわからないし、真夜中だから探すのも暗くて遠くまで見えないわけでね。



自分でも何やってんだかわからなくなってきてさ。



友達が悩み事があるって言うからね。



これもさ、俺が探しに来ることが迷惑だったり嫌だったりしたら帰ればいいわけじゃん。



俺に会いたくなければ連絡も取らなければいいし、旦那が迎えに来るから帰ると嘘をつくことも出来たわけで、神社にいるなんて居場所を俺に教える必要もないわけだ。



てことは、少なくとも俺が探しに来ることは構わないと。



だけど、詳しい居場所は教えたくねえってのは何なんだと。



それは喫茶店のかくれんぼでいつも俺がドヤ顔で、見つけるの得意だからとか言ってたからその流れもあるんだろうけどさ。



でも神社は難易度が違うだろって話だよ。



しかもさ、かくれんぼの途中でトイレに行くからって居場所を離れるは反則じゃん。



鬼ごっことはルールが違うんだからさ。



俺は自分の居場所を友達に伝えてるわけだよ。



どっちにしろ時間になったら友達とはバイバイするわけじゃん。



しかも、その翌日は友達は旦那の趣味に付き合う日だから仕事は休みなのよ。



その日だけはお互いに連絡は一切取らないルールになってるわけ。



そしたら友達は悩み事を抱えたまま1日を旦那と過ごすことになるわけでね。



友達は神社で神様に願い事をするようなタイプじゃないからさ。



母親が宗教にはまって家族がバラバラになっちゃったこともあるから余計に、神様なんかいるわけないじゃんって思うだろうから。



俺なんか下痢になる度に神様には祈るけどね。



祈るというか、神様ごめんなさいって謝るからね。



そういう困った時に頼る関係だから神社を探して走っても見つからないんだろね。



ちゃんと日頃から信仰してれば神社に光が射して導いてくれるはずだからさ。



もしかしたら友達もコンビニのトイレで信仰してたのかもしれないけど。



だけどやっぱり思ったのは、俺がスマホでポケモンやってたら神社の場所は把握できてたんだろなって思ったよ。



真夜中に外を出歩いてても理由としては変じゃないしさ。



友達にポケモンやってるの?と聞いても、「私がやるわけないでしょ」と。



俺がポケモン探してると言うと「ガラケーじゃん(笑)」とバカにして笑っていた。



やっぱりガラケーは不便だなって。



通信手段としての進化は素直に受け入れるべきかもしれない。



だけどずっとそばにいる物を壊れてないのに新しいのに交換するのはなんかね。



なんつーか、前に部屋の片付けしてて昔使ってたガラケーが出てきた時にさ、胸が変な感じになったのよ。



ストラップとかシール貼ってて、形もダセェけど、こいつと一緒に過ごした時間は圧倒的だったからね。



仕事でも使ってたし、プライベートでもそうだけどさ。



俺の声とかメールだったら言葉を一番ぶつけたのはこいつじゃねえのかなと。



ボロボロだけど、これは当たり前じゃないよなって。



子供の頃のバイバイと、今の携帯がある時代のバイバイだと言葉は同じだけど意味が違うというかさ。



悪さしても家に帰ってから仲間と口裏を合わせられるから大人に見つかるのは犯罪がエスカレートしてからだと思う。



小学校の五年生の時に、同じクラスの仲間と3人で学校を脱け出したことがあった。



俺は担任の女の先生がとにかく厳しくて嫌いだったのと、仲間の1人が悪くないのに理不尽な理由で担任から怒られて、それからそいつは学校の屋上の金網を登って「死んでやる」って叫んでた。



だけどやっぱ死ねなくてゆっくり降りてきたんだけど、すげえ泣いてた。



そのまま小さい山を越えた隣の市までひたすら歩き続けて、夜になってコンビニの駐車場の角にあった電話ボックスに3人で入ってた。



仲間の1人が不安になって暗記してる友人の自宅に電話を掛けた。



たまたまその友人が電話に出た。



「大騒ぎになってるよ」と。



「こっちは元気だから心配しないでって言っといて」と。



たったそれだけの言葉を伝える為に、当時の小学生が電話ボックスを使うには、相手の家の電話番号を暗記して、10円玉というお金が必要で、それから自宅は誰が電話に出るのかわからないという時代だった。



子供を探す親や先生たちも不安だったろうけど、逃げる方も不安だったのだ。



だけど、携帯があれば距離や時間に対する気持ちは不安じゃなかったかもしれない。



今すぐ繋がるからさ。



かくれんぼも鬼ごっこも不安じゃないよね。



何も言わずに途中で帰っちゃうやつとかいても、わざわざ家まで訪ねていく心配はないもんね。



相手の目を見て、震えるような言葉で伝えなくても、指先を動かしただけで相手に感情を表現できる世界になった。



読んだという印だけで、相手に全てが伝えられる世界になった。



信じる力は電力によって遮断された。



コンビニでのトイレの神様への信仰を終えた友達から電話が掛かってきて「今どこにいるの?」と。



いや、もう帰るよと。



友達は「なーんだ」って、あっさりした答えだった。



神社の中でかくれんぼするならわかるけど、神社そのものを探すって無理があんだろって。



真夜中に女の子が歩いてちゃ危ないから満月満月ちゃんも早く帰るように伝えると、また神社に戻ってると言うのだ。



友達からは俺が逆に迷子になってないかと心配されたけど、ホテルの角を曲がった道を真っ直ぐ行った先にあるスーパーを左に曲がれば駅にぶつかるからと偉そうに説明していた。



電話で喋りながら歩いてたらスーパーにぶつかった。



そのことを友達に伝えた。



これでもう心配いらないと。



すると友達は、なぜか俺にちょっと大声を出してみてと言ってきた。



住宅街ではないから大声を出しても迷惑にはならないだろうけど、それ何の意味があんの?と。



というか、俺にはこう聞こえたのよ。



(外で大声出せるの?)



(男のくせに夜道で1人だからビビってんじゃないの?)と。



大声くらい出せるわと。



ヤンキーが夜中に騒ぐのは別に度胸がある訳でも何でもねえからって。



だけど、俺に大声を出させたことを後悔させてやるからなと。



何がスマホだよ。



何がガラケーだよ。



何が携帯だよ。



メールだろ
ラインだろ
SNSだろ
すぐ繋がるんだろ



そういう便利な時代なんだろ



一生懸命こっちが探してんのにちっとも友達は見つからねえじゃねえかよ



頭にきたから大声で叫んでやった。



満月満月ちゃぁぁああああああーーーーん!!」



いや、大人としては恥ずかしいと。



遠くにいる客引きの男たちが一斉にこっちを見ていると。



すると友達は「やっぱ聴こえないか…」と、つぶやいたのだ。



聴こえないってなんだと。



ん?



ということは、大声が聴こえるかもしれない距離に神社があるってことか?



だけど俺がまた探し回ったら友達も心配して帰りづらくなるだろうからなと。



電話をしている間は携帯のアプリで地図を調べることもできない。



スーパーにぶつかって左に曲がった道を右に、つまり駅とは逆方向に真っ直ぐ歩いてみた。



左手に薄暗い公園が見えた。



入り口には自転車が4台くらい停めてあって、公園のベンチにヤンキーが数人集まっていた。



これはマズイとすぐに体を右方向に回転して駅に向かって歩こうとした。



歩き出した瞬間に、さっき一瞬だけ何か光のようなものが見えたような気がした。



光の連なりが空を走っているのが、確かに見えた、そんな気がしたのだった。



ヤンキーも怪奇現象もセットでお得ではなく、俺は大嫌いだけど、なぜだか振り返った。



電話で友達と喋ってるから怖くなかったのかもしれないけど。



振り返った先に光の連なりは確かに存在した。



それは神様の導きのような神秘的なものではなく、電力によって灯された提灯の光だった。



その光の先に神社はあったのだ。



神社の中は広く、広場には盆踊りの櫓が組まれていて、そこから四方に提灯の連なりが伸びていた。



友達にどこにいるのか聞いた。



神社のどこにいるのかを。



友達は「丁度いいのがあったから座って煙草吸ってる」と答えた。



広い敷地の中で座るとなると、ベンチか神社のベランダ?(神様、無知でごめんなさい)の部分だろうか。



携帯からの声とは別に友達の喋る声が徐々に大きく聴こえてきた。



お互いにそれはわかっていた。



「ねぇ、満月満月くん、今何してるの?」



「俺?俺はね、でっかいポケモンを捕まえに来たんだよ」



友達の声がはっきりと聞こえた方向を見上げた。



友達は盆踊りの櫓の天辺に座っていた。



丁度いいのがあったからって、そこ座るか?普通。


やっぱこいつバカなんじゃねーか?と思った。



出逢えるかどうか、それは右と左、どっちで振り向くかだけで変わるのだと知った。



「だから言ったろ?俺は見つけるの得意なんだって!!」