夜空の友15 | 天狗と河童の妖怪漫才

天狗と河童の妖怪漫才

妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

結論から先に言うと、笑えないことになった。



とりあえずは去年の夏の出来事を書こう。



俺はどこかにあるという神社を探して、夜の街をひたすら走り回っていた。



「私にも悩み事があるからね」と、友達がそう言ったからだ。



神社にいると。



というか、なんで神社にいるのかも意味がわからなかった。



もうすぐ日付が変わる時間帯だというのに。



友達はいつも終電の時間まで仕事をして駅に着いてから旦那が迎えに来るまでの間、俺とメールや電話で喋ったりしていた。



俺はメールよりも電話で喋った方が気楽だし、愚痴を聞くだけならいいけど、悩み事ってなると直接会って相手の目を見て喋らないと本当のことが理解できないのだ。



最初に電話で喋ってて、なんかいつもと違うなぁと違和感を感じたから、「今からそっち行こうか?」と友達に言った。



すると友達は「今日は疲れたから煙草吸ったら帰るから大丈夫よ」と答えた。



それでそのまましばらく喋ってて気がついた。



「あれ?満月満月ちゃん、そういやそろそろ帰る時間じゃないの?」と。



「まぁちょっと…ね」と、友達にしては歯切れの悪い返事をしていた。



「今どこにいるの?」



「言わな~い(笑)」



「こんな時間までやってる喫茶店ないよね?」



友達はお客さんが少ない日や、お店の女の子が多い日などはいつもより早く帰ってきて、駅の近くにある喫茶店で煙草とコーヒーを飲みながら小説を読むのが好きだった。



俺は酒を飲まない暇人なので、そんな日は友達のいる喫茶店までのこのこと出掛けてはコーヒーをご馳走になっていた。



だけどこれにはルールが1つだけあった。



駅前には喫茶店やカフェが沢山あるのだが、友達はどこの店にいるのかは教えてくれないのだ。



友達からのヒントを頼りに自力で探し出すことが条件だった。



いくつかの質問を友達にして、そこからひたすら走り回って探し出した。



店内に流れてるBGMのジャンルや、飾ってある絵画やオブジェ、お店の客層やコーヒーカップの特徴など、おかげで駅前にある喫茶店にはかなり詳しくなった。



「どこにいるの?」



「コーヒー飲んでる」



「どこの店にいるの?」



友達の「探してみる?」でゲームがスタートする。



楽勝で友達を見付ける時もあれば、汗だくになって探してやっと見付けることもあった。



裏通りにある古びた喫茶店に友達が居たこともあった。



入るのに少しだけ躊躇したが、残すはここの店だけだった。



床は板張りで入口から左手にカウンター席があってその奥にはテーブル席、ジャズが流れる店内ではマスターが暇そうに煙草をくわえていた。



「すいません、友達と待ち合わせをしてまして…」と、マスターに声を掛けてから奥にあるテーブル席の方まで歩いて行った。



店内を見渡しても空のカップが置いてある席があるだけで友達の姿はなかった。



おかしいな。



もしや友達はこの店を出た直後かもしれない。



「マスター!あのぅ、さっきまで女性のお客さんって来てませんでしたか?」



マスターは無言のまま俺の顔を見つめて、少しだけ間を置いてから、ニッコリと笑った。



そして俺の斜め後ろに向かって手を伸ばすと「そちらの席に…」と言った。



…どちら?



テーブル席の入口からは死角の位置に友達は隠れていたのだった。



しかも店の外に俺の姿が見えたからと、慌てて席を移動したという。



マスターにも黙ってるように口に人差し指を当ててジェスチャーをしていたという。



俺が友達の旦那や仲間たちのような強面の男だったら、さすがに店のマスターも友達の存在を教えてはくれなかったと思う。



塀の中で人生かくれんぼするような輩と俺は違うのだ。



これぞ、かくれんぼの究極奥義【近くにいる大人に教えてもらう】である。



田舎で育ったこの俺が、都会育ちの女相手にかくれんぼで負ける訳がないのだ。



友達を探し出したあとには決まって言う台詞があった。



「俺、見付けるの得意だから!」



友達はデパートで買い物をしている時もあった。



これは同じフロアに居てもなかなか友達を見つけられなかった。



なぜなら友達は隠れたままではなく逃げ回っていたからだ。



今度はデパートで鬼ごっこである。



こればっかりは都会育ちのテクニックに翻弄された。



なぜなら俺の田舎は近所にデパートはなかったからだ。



友達は俺の部屋に遊びに来た時も「かくれんぼやる」と言い出して俺を玄関から外に追い出した。



その時は寒い季節だったので、部屋の中からかくれんぼのルール説明をする友達に対して「このまま玄関の鍵を閉めたら本気で怒るからね」と、寒さで歯をガタガタさせながら玄関の外でゆっくりと30秒を数えた。



部屋に入ってすぐ、不自然に捲れたキッチンマットが目に付いた。



その下には丁度、床下収納がある。



こいつバカなんじゃないか?と思いつつも可愛らしくもあった。



床下収納の真上に乗って探すふりを続けたのだが下から出てくる気配はなかった。



もしやキッチンマットは目眩ましで、ベランダにいるのか?



そう考えると床下収納の蓋を開けるのが怖くなってきた。



蓋を叩いても中からの反応や返事はないし、だけど窒息されても困る。



恐る恐る床下収納の蓋をあけると、そこには小さく丸まった友達が入っていた。



こうして改めて文章で書いてみてもおかしなやつだ。



見つけたのに友達は小さく丸まったまま暫くの間ぴくりともしなかった。



こっちが心配したタイミングで「ワーッ!!」と飛び出してきて、ビビりの俺はまんまと驚かされたけど、それはもう、かくれんぼのルールではない。



友達は俺と遊んだり一緒にいると中学生や高校生の頃に戻ったみたいだと言っていた。



確かに俺は外食するにしても酒を飲まないのもあるし、部屋にはテレビがあるだけで車も持ってない。



友達と喋ってても喧嘩になることもあった。



友達は怒って部屋を飛び出して行ったり、着信拒否もされたっけな。



でも、俺は見つけるの得意だからすぐに仲直りできたけど。



他の遊びといったら、
かくれんぼと鬼ごっこ。



これじゃあ中学生や高校生というよりも、小学生の頃まで戻った感じだ。



いや、もしかすると、友達と俺は小学生をやり直していたのかもしれない。






「神社にいる」



「神社!?何してんの?」



「私にも悩み事があるからね」



「どこの神社?」



「教えなーい」



こんな真夜中に女が1人で神社にいる理由って何だ?



「まさか、賽銭泥棒でもしてるんじゃないでしょうね?」



俺は走りながら考えていた。



「やるわけないでしょ!」



「どこの神社?神社っていっぱいあるでしょ?」



「だから教えないって言ってるでしょ!ねぇねぇ、満月満月くん?もしかして外いるの?」



「うん、走ってる(笑)」



「もぅバカなんじゃないの?(笑)いいから帰って寝なさいよぉ!どうせ寝坊するんでしょ!!」



「ねぇ、ヒントは?ヒント。駅から近いの?」



「えっ!?まぁ駅から近いっちゃ近いかも…ってか、もぉ帰りなさいよ!!」



……結局、俺は友達をみつけることができなかった。



途中で小さな神社を発見して中に入ってみたのだが、真夜中の神社ってのは怖くてたまらなかった。



友達との通話も急に途切れたので、おそらく旦那が迎えに来たので帰ったのだろう。



とぼとぼと自宅のアパートに引き返す道中で色々と考えた。



真夜中に女が1人で神社にいる理由とは?



まともな理由ならあれか?



ポケモンGOでもやってんのかな?



神社とか公園にはなんかあるんだろ?



詳しくはよく知らねえけど。



俺ガラケーだから。



だけど友達はポケモンGOをやるようなタイプじゃなかった。



ポケモンGOが話題になっていたとき友達から聞いたことがあった。



捕まえたモンスターをあげられるのならやるけど、あげれないみたいだから私はやってない、そう友達は言っていた。



自分のことより誰かの為って、そんな考えはゲームじゃねえよと思った。



ゲームの世界で誰かがそれをやりだしたらゲームは白ける。



自分が勝つ為にやる、それがゲームだ。



スマホになってからみんなゲームをやるようになった。



俺はガラケーなのでツムツムやパズドラもやれない。



たぶん友達はそんな俺に対して、時代遅れで可哀想というよりも直球でダセェと感じていたと思う。



それはそれで面白くイジってくれれば構わない。



今はゲームもコミュニケーションツールで流行のファッションアイテムみたいなもんだからね。



友達のスマホでツムツムをやらせてもらったことがある。



難しかった。



ちゃんとくっついてないやつも消せるなんて…



喉元まで「こんなもんクソゲーじゃねえかよ」って出そうになった。



完全に負け惜しみだけど。



まさかゲームで女子供に負ける時代がやってくるとは思わなかった。



コンテニューが出来るのは人生かゲームか、それよりもクリアすることが目的だってことだ。



翌日、仕事を終えた友達はまた神社にいると言った。



必ず見つけ出してやる。



俺は再び真夜中の街を走り出した。



かくれんぼやるなら探してるやつをそのままにして帰るのだけは無しだぜ、と。