夜空の友17 | 天狗と河童の妖怪漫才

天狗と河童の妖怪漫才

妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

神社の境内に組まれた盆踊りで使うやぐらの上に友達は座っていた。



昼間は建設業の職人をやっている俺からすれば、プライベートでまで仮設の足場など登りたくはなかった。



地面から垂直に伸びた鉄パイプを挟んで友達の隣に座った。



真っ暗なビルに囲まれた中で神社だけを見下ろすような、それは幻想的ではなく現実的な真夜中の景色だった。



探し疲れたので、とりあえず煙草に火を着けた。



友達と何かを喋ったような何も喋らなかったような、呼吸とは別のリズムで、とにかく煙草の煙を吸い込んではひたすら夜空に吐き出していた。



俺よりも先に煙草を吸い終えた友達は煙草の火をやぐらの床板で揉み消した。



そして、友達はその吸い殻をやぐらの下にポイ捨てしたのだった。



おい!!
ありえねぇだろ!!
ここドコだと思ってんだよ!!



これまでにも俺は何度も友達に対して煙草のポイ捨てを注意してきたのよ。



もう大人なんだからと。



そういうモラルとかマナーを抜きにしてもさ。



煙草のポイ捨てをやってはいけない場所の第1位は【神社仏閣】である。



「おい!!神社でポイ捨てするってありえねーだろ!マジで罰が当たるよ!!」



俺の持ってる携帯灰皿を差し出してアピールしても友達は「ふーんだ」と、まるで『天罰上等』とでも言いたげな態度で顔を上げて、やぐらから投げ出した足をバタバタさせていた。



「いや、ふーん、じゃなくてさ…」



俺は呆れるしかなかった。



なんかよくわかんないけど罰が当たるから止めとこうっていう脊髄反射みたいな感覚が友達には育まれていないのだった。



旦那が関西人だからその価値観に心酔するのもわからなくもないけどね。



関西人は正月の初詣でも並んで参拝することはない。



行列には並ばずに先頭の人の横に立って賽銭を投げて、そこからはちゃんとした手順で参拝をするのだ。



投げ入れた賽銭に対して神様からの見返りとして参拝するというか、いかにも商人的な発想なのかもしれないけど。



銭の価値は同じなのだから行列に並ぶ時間は無駄だと。



そもそもエスカレーターの右側通行と左側通行の違いが関東と関西で逆になるのもよくわからない。



人の逆を行くのが商売の鉄則なのかもしれないけど。



店で最初に友達と連絡先を交換した日、俺はその日からずっと友達の煙草のポイ捨てを注意していたのだ。



帰ろうとする俺と一緒に友達は店の外に出た。



煙草を吸うからと。



外で座って少しだけ喋って、それで友達は少しだけキョロキョロしてから煙草をポイ捨てをしたのだった(笑)



おいおいおいおい?
いやいやいやいやいやいや……
…えっ?
………。
イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤと。



30過ぎた女がそれをやっちゃ笑えないわけよ。



男ならさ、いい年した大人が何やってんだバカ野郎って、そいつの頭を引っ叩けば笑いになるけどね



女ってイメージとしては、いずれ母親になるわけだからモラルとかそういう部分で世間からの厳しい目があるじゃんか。



あとさ、女だったら男の人の前での立ち振舞いとかってあるじゃないですか。



連絡先を交換した直後に煙草のポイ捨てするかね?(笑)



これ、なんて説明したらいいのかな?



やってることバカじゃん。



そんなの損するだけじゃん。



ロックだとかパンクだとか、みんなもう大人になってんだよ。



だって世界は優しいから。



悲しい生い立ちだとか、大人たちへの怒りや憎しみ、背負ったり抱えたり隠してたもんを全て表現し尽くしたあとに一体何が表現できる?



若さだけしか許されない表現とか、若いときにしか笑えない表現ってのがある。



それらをみんなが理解してくれる。



ちゃんと共感してくれる。



なぜって世界は優しいから。



だって、社会の方がよっぽどパンクでロックでヒップホップだから。



みんな計算して生きてんだよ。



みんな
みんな
みんな



だけど、みんなから嫉妬されるくらい幸せになったっていいんだよ。



それは紛れもなく君の才能で、そこから見えた景色は本物だから。



だけど、君のことをいつまでも怒りや憎しみや不幸のシンボルとして縛り付けようとするやつらはいるだろ。



飛び立とうとする君の翼から羽をむしり取ろうとする。



その足には鎖を絡ませる。



小さな檻の中に閉じ込めて君は唄うことさえ忘れてしまうだろう。



外の世界を知らなければ不幸であることすら知らなくて済む。



夜の世界、裏の社会。



君の居場所なんかどこでもいいんだよ。



ちゃんと笑ってればそれでいいんだ。



自分から小さな檻の中に入るのは違うだろ。



それは計算じゃなくて、ただの優しさだよ。



バカなんだよ。



バカなやつの嘘みたいな優しさだよ。



お前のその優しさが利用されてんだよ。



お前のそのバカみたいな優しさで誰かが笑ったり、誰かがお前を不幸にしてるんだよ。



だけど、幸せってのは、そっち側で笑うことじゃねえからな。



羽をむしり、鎖を絡ませて、小さな世界に閉じ込めて笑うやつらがさ。



それが仲間だとか友情だとか、笑わせんなよ。



1周回ってクソみてえな世界じゃねえか。



ちゃんと笑おうぜ。
ちゃんと。






友達が俺にご飯をご馳走してくれるというので、それでお互いに連絡先を交換した矢先のポイ捨てだったのだ。



そこまで友達と親しくなってない間柄での出来事だった。



俺はすぐに自分のポケットから携帯灰皿を出して友達に軽く注意をしたのだが、それに対して友達から返ってきた言葉は予想外のものだった。



「持ってるなら先に出しなさいよ!!」



なんだこの違和感のある返しは?と、なんか変だなと感じたのは今でも覚えている。



つまり、友達としては携帯灰皿を持っているのに出さなかった俺に対するツッコミのつもりなんだろうけど、やってることの本質はポイ捨てなので友達はボケなのだ。



例えばこのエピソードを誰かに話して、その感想を聞けば相手の大体のことはわかるだろう。



常識や世間一般の価値観からのズレこそがボケになる。



しかし、友達は友達で俺は俺なのだ。



見えてる景色が違うのだ。



もちろん男と女の違いもあるけど。



携帯灰皿をすぐに出さなかった男に対するツッコミで笑う景色とはどんな世界だろうか?



人生はキャバクラとは違う。



自分で火を着けて、その後始末も自分でやるべきだ。



優しさを履き違えるとはこのことだ。



気が利く、気が利かないの問題ではない。



ガチで面白い話をしてる最中に煙草に火を着けたり灰皿の気が利くキャバ嬢とは、客の喋ってる話の内容にはさほど夢中にはなっていない。



携帯灰皿を差し出す優しさよりも、ポイ捨てを注意する優しさの方が俺は上だと思っている。



だけど黙って携帯灰皿を差し出す男が100点満点なことくらいは知ってる。



灰皿に限らずそのように気が利くマメな男が女の理想なのはわかる。



でも、なんか、うるせえって言いたくなるけど。



それとは別の次元で友達の「持ってるなら先に出しなさいよ!!」には1歩踏み込んだ変な違和感を感じた。



要領が悪いというか、反射的な言葉の返しから判断すると、まぁ友達ってのは天然なんだろうけどね。



なんつーか、女の子がやる動物好きアピールとか、子供好きアピールの対極だからさ。



でも女好きの男からするとそういうのも引っ括めて、表現として可愛いなって思うんだけどね。



だから友達の煙草のポイ捨てが元ヤン的なアピールだったとしても、そもそもポイ捨てする不良なくせに煙草の火はちゃんと消すっていうのも中途半端な不良的な表現になるわけ。



そこまで考えてやってないとは思うけど。



だけど、そういうほのぼのとした表現とはちょっと違った。



友達は神社でそれをやったからね。



理解に苦しむよ。



まるでライオンに喰われながらも、それでも動物好きをアピールする女のような。



もしくは子供好きアピールを通り越して、他人の赤ちゃんを連れ去ってしまう女のような。



俺が怒ることを承知の上でやっている表現なのか?



でも神社で煙草のポイ捨てをすることで罰が当たるってことを論理的に説明するのは意外と難しい。



道徳というか、日本の文化というか、それを洗脳と言われたら違うような気もするけど、これはビビりとかの話ではないと俺は思うのだ。



意識と無意識だったら意識だとは思う。



自分だけじゃなくて、自分が生まれる前からの世界で、みんなが大切にしてきたものを共有するような価値観。



だから脊髄反射で止めようとする。



生まれたときに世界はもうすでに始まっていたわけでね。



言葉とか自転車とかさ、世界はすでに便利だったじゃん。



いろんな知恵に溢れててさ。



平和な世界に生まれてきたわけじゃん。



でも爺ちゃん婆ちゃんの時代はまだ平和じゃなくて、世界中と殺し合いをしてたわけだけどね。



ほんと信じられないけど、なんとなく今は安定してるわけでね。



地震とか噴火みたくまだまだ本格的な予測とかはできないけど、安定してるときの平和な生活なのかもしれないけど。



そういう人間の力や知識では抗うことのできない、解明することのできないことを神様に丸投げしてたって言うと語弊もあるだろうけど。



生きてることは当たり前じゃなくて食べ物にしても神様に感謝するみたいなことじゃないかと。



もっと身近なことで、わかりやすく言うと、ゲゲゲの鬼太郎の曲って超怖かったじゃん。



≪言うこと聞かない悪い子は夜中迎えに来るんだよ≫って、今だったら完全にPTSDもんだったじゃん。



そういう恐怖というか、でも罰が当たるというのは恥でもあると思う。



人としては最低限やってはいけない、汚してはいけない部分というか。




神様。



この世界では神様のせいで争いが起きていることも事実だ。



宗教。



宗教によって世界の誰かを不幸にして、世界の誰かを幸福にしている。



綺麗事。



友達からよく言われた。



満月満月くん、それは綺麗事!」



いや、違うんだ。



もう少しだけ喋らせてくれ。



俺には見えてるんだ。



この先に笑えるオチがあることを。



ちゃんと笑える世界があることを。



答えはひとつじゃないんだ。



正解はある。



それは笑える世界だ。



女がポイ捨てした吸い殻だけど、
男がそれを拾って口にくわえたら、
間接キスだなって笑ったら、
それはどうだろ、
ハッピーエンドなんじゃないかな?