暗い話2 | 天狗と河童の妖怪漫才

天狗と河童の妖怪漫才

妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

ここんとこ立て続けに不幸があってさすがに頭と心が疲れてきた。



婆ちゃんの葬儀が終わった数日後に彼女のペットの犬が亡くなったことについては、お互いに高齢だから大往生だと考えれば気持ちも前向きにはなれる。



ただ、彼女の死に対する感覚のズレが露呈したのが嫌だった。



ペットが死んで悲しいのはわかるけどね。



こっちも彼女に対して励ましの言葉はかけるけどね。



頭のほんの片隅に、俺も喪中だってことを忘れないで欲しいのよ。



そりゃ確かに犬も家族の一員だろうけど、俺の中では彼女のペットの死と婆ちゃんの死がごっちゃになるからね。



こっちもなんとか彼女が前向きになるような言葉を選ぶ訳ですよ。



高齢の犬だったから励ましの言葉としては定番のやつがあるじゃないですか。



「…でもさ、満月満月満月も長生きしたよね…よく頑張ったよ…」ってやつのくだりで「人間でいうと100才近い…」



いや、それ、うちの婆ちゃん…



うちの婆ちゃんの人生は長生きした犬と一緒でいいのか?



うちの婆ちゃんが92で亡くなった矢先じゃん。



それでもなんとか励ますわけですよ。



彼女の自分を責めたりする言葉に対して、それを打ち消すポジティブなやつを言うじゃないですか。



希望的観測で犬を擬人化して気持ちを代弁するじゃないですか。




でも、正直、犬ってそこまで考えて生きてないじゃないですか。



もっとこうしてあげたら長生きしたかもしれないっていうのは完全に飼い主のエゴでしかないと思うんですよ。



仕事中に死んじゃって、その日の朝は寝てると思ったから犬の顔を見ないまま出社したことを後悔してると。



言いたいことはわかるけど、その後悔って携帯の充電するの忘れたみたいな感じだと思うんですよ。



死んじゃった犬は白内障でだいぶ前から両目が見えてないから朝に顔を見るのは飼い主側の視点だけなんですよ。



逆に犬は嗅覚と聴覚があるんで、起きてれば「あっ、お姉ちゃん会社に行ったな」って目が見えてなくてもわかるんですよ。



いや、犬ですから会社に行ったとかまではわからないですけどね。



ただ、俺が言いたいのは、その犬と過ごして何を感じるかなんですよ。



ペットを通して何を学んで何を育むかが大切だと思うんです。



だから、死んだ日の朝に犬の顔を見なかったことを後悔するというのは違うんですよ。




彼女の言いたいことはわかるけどね。



つまり、視覚という目に見えることが全てじゃないんだと。



見えることと生きるということは違うと。



顔を見なくても確かにそこに犬は生きていたんだと。



起こさないように、寝かせておいてあげようと思った…



いや、どうせ朝だからバタバタしてて犬のことをすっかり忘れてたから後悔してるんでしょうけどね。



でも悲しんでる段階の相手には諭したりだとかそんなこともまだ言えない訳ですよ。



こっちなんか病室で目の前にいる婆ちゃんから最後に名前を呼んで貰えなかったからね。



で、悲しみがどういう訳か怒りになっていくんですよ。



お前が結婚しないから悪いみたいな流れになるんですよ。



お父さんがずっと泣いてると。



それは娘が独身じゃなくて犬が死んだからだろ!



どういう流れを描いてんだと。



彼女の愛犬が死んで悲しんでるからプロポーズするってありえないだろ!



俺は犬の代わりじゃねーし、犬の死を利用するなっての!



お父さんがずっと泣いてるって、いや、俺だって喪中なんだっての!



親父さんまで励ますのは嫌だわ!



なんなの?娘の父親に対する愛情ってやつ?



お前はお父さんの為に生きてるのか?



死んだ犬より自分の方が可哀想みたいな感じにするの、おかしいだろ。



それで、最終的には全部、俺のせいかよ。



ここぞとばかりに悲しい者勝ちみたいな言われ方されても我慢するしかない。



自分の価値観や考え方がおかしいんじゃないかと近頃は段々とブレてきた。



女という生き物が何を考えているのか正解がわからない。



犬の遺骨をペンダントみたいな御守りにしてくれるサービスがあるらしい。



俺は婆ちゃんの遺骨で作った御守りなど欲しくはない。



犬の御守りも俺の分まで作ってないことを心から祈る。



飼い主のエゴと愛情はバランスが難しいと思う。



ペットが亡くなった時に、その感情をどう昇華したらいいのかは親から学ぶしかない。



俺は感謝することだと子供の時に飼い猫が死んだ時に母親から学んだ。



「ありがとう」と。



その一言が言えないと生きるのは辛いと思う。



なんというか、そういう悲しい時に1人じゃ生きるのは辛いと思った。



友達の大切さがわかる。