暗い話 | 天狗と河童の妖怪漫才

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妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

婆ちゃんが亡くなった。



1ヶ月前くらいに婆ちゃんの具合が悪くなったと兄貴と母親からメールが来たので、こっそり実家にお見舞いに行って話したのが婆ちゃんとの最後の会話になってしまった。



会話というか、鼻に酸素チューブを着けてる相手から最後に説教をされたのだった。



92歳という年齢からくる説得力のある言葉や、兄貴と比較されたり、何より婆ちゃんからガチで説教をされたのは初めてのことだったので、そんな自分が情けなくなって隣に住む両親にも会わずに、そのままこっそり帰ってきてしまった。



夜に母親から電話があって、「今どこにいるん?」と聞かれた。



家に居るよと答えた。



「そうだよなぁ?いや、実はさぁ…」



どうやら、とうとう婆ちゃんがボケてしまったと。



お婆ちゃんが、満月満月(俺)が来て喋ったって言うんだよ…と。



今日は仕事だから満月満月(俺)は来れないよって言っても、目の前で喋ったって言うんだよ…と。



満月満月(俺)が仏様のお菓子を食べていったと。



でも、数を数えたら確かに減ってるから…、それで念のために満月満月に電話をしてみたんだよ…と。



あぁ。



いや、それ俺が食った…と。



はぁぁあああん!?



という母親の絶叫の途中で電話に親父が出て、とりあえず婆ちゃんがまだボケてないことはわかったからと笑いながら電話が切れた。



俺は最後の最後まで婆ちゃんに迷惑を掛けてしまった。



それから1ヶ月後の亡くなる前日に家族で病室にお見舞いに行った。



その時の婆ちゃんはまともに会話することが出来なかったけど、症状は回復してると両親から聞いて安心して帰ったのだ。



それが婆ちゃんとの最後だった。



婆ちゃんの目を見て「婆ちゃん、誰かわかる?」と何回も聞いたけど、一生懸命に悩む表情だけで 俺の名前を呼ぶことはなかった。



両親の言葉に反応したり、兄貴の名前は呼んだが、俺のことは誰だかわからなかったみたいだ。



兄貴が言うには俺が18で実家を出て暮らしているから覚えてないんだろうと。



亡くなる前の2ヶ月くらい両親と兄貴は婆ちゃんの介護をしていた。



俺は何もしないで、母親と兄貴の婆ちゃんに対するバカにしたような言葉や態度にムカついていただけだった。



実家に帰宅した婆ちゃんを前にして俺だけ泣いていた。



それでどういう訳か、納棺の直前まで母親に呼ばれるまで兄貴と口喧嘩をしていた。



そのせいで泣かずに納棺をすることができた。



怒りで感情を殺すことができるとわかった。



それでも最後の最後に棺に花を入れる時になって、婆ちゃんに対して何にもしてない俺だけが感情を殺し切れずに号泣していた。



何がなんだかわからなくなった。



自分を肯定してくれる存在が居なくなったことで、本当の大人はこういう場面では泣いてはいけないんだと、何もしてないから泣くだけなんだと。



家族の介護というものは感情を磨り減らすものなんだと。



それと後悔をしないだけの時間と労力とお金を捧げてきたのだろう。



1ヶ月前、俺がこっそり見舞いに行ったせいで、家族から散々ボケちゃったと言われて、亡くなる前日に婆ちゃんは俺の名前を呼ばなかったけど、俺の目を見て一生懸命に俺を認識しようとしてくれてた。



あの眼差しを目に焼き付けて生きて行こうと思います。



婆ちゃん育ててくれてありがとう。