友達の価値観 | 天狗と河童の妖怪漫才

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妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

俺は友達の考え方や価値観についていつも頭を抱えてきた。



理解に苦しむことが何度もあった。



そのことについて俺が何か言うとその度に友達は姿を消した。



何かがおかしいと考え過ぎた結果、俺の導き出した結論はこうだ。



友達は“天然”である。



それと友達と一緒にいてわかったこともある。



何というか、カルチャーショックに近い衝撃を覚えたことがコチラ…



【普通の人は、そこまでお笑い好きではない。】



…そ、そんなバカな…と呆れてしまったのである。



友達と一緒にテレビを見ていた時のことだ。



そこにバカリズムが出ていたのである。



すると友達はテレビを見ながら「私、この人嫌い」と言ったのだ。



俺は声には出さなかったが内心はドキドキしていた。



こんなにもストレートにお笑い芸人を否定する人間が隣にいる状況というのは始めてだった。



しかもバカリズムである。



(なにぃ!?)



(バカリズムの笑いが嫌いだと?)



(ほほぅ、さては自分がお笑い通だとアピールしているのかな?)



(シュールな笑いが嫌いなのかな?)



とはいえ、バカリズムは大喜利という笑いの学力テストで彼が笑いの偏差値が高いことは既に証明されている。



そうなると、バカリズムのネタという独自の表現方法が嫌いということなのだろうか?



しかし、これはテレビのネタとライブでのネタでも趣向が異なるのでネタによって好き嫌いがあるというのならばわかる。



コンビだった頃のネタと、ピンになってからのネタを比べることに意味はない。



映画でも音楽でも好き嫌いがあるのもわかる。



だけど、好きな映画監督だとか、好きなミュージシャンでも若手の頃の荒削りな作品を評価するのは本当のファンなのだろうか?



大衆にウケる作品で売れることを応援することが好きなのか、それともコアなファンだけにウケる作品が好きなのか、迷いながら闘いながらも作品を作り続けるその生き様が好きなのか。



…いや、友達は一言も好きだとは言ってない。



むしろ“私、この人嫌い”だと完全に否定をしている。



何だったら、バカリズムって名前すら知らない可能性もある。



この人呼ばわりする芸人なのに、嫌いだと言うのである。



しかし、笑いとは時として誰かを傷付けることもある。



本心じゃなくても笑いの為ならその瞬間に面白い方に転ぶのが芸人なのだ。



そうか!



ネタではなく、バラエティー番組での笑いの取り方が嫌いだと言いたいのか?



俺は友達に“この人嫌い”な理由を聞いてみた。



友達は即答した。



「顔が嫌い」









…なにそれ!?








顔が嫌い?



お笑い芸人の評価は面白いかどうかじゃないの?



顔ってなに?



顔が面白くないってことか?



意味がわからない。



確かにバラエティー番組でのバカリズムのコメントはクールな表情で辛口なツッコミを言うことはある。



友達が言ったような「顔が嫌い」的なことを淡々と言うイメージもある。



だけど、それを言った後には笑いが起こるのだ。



その時の話の流れに対して絶妙な間で言っているのである。



それだけではない、口調や表情など笑いのテクニックを駆使して瞬間的に表現しているのである。



テレビだから毒消しとして、冗談ですよの意味で言った後に芸人が自分で過剰に笑う時もあるが、それはお笑い好きからするとしゃらくさいと感じることもある。



何というか、抱かれたくない芸人だとかブサイクだとか気持ち悪いことを売りにしている芸人に対して「顔が嫌い」と言うのならわかるのだ。



だけど、他にも芸人は大勢いる中でバカリズムを掴まえて「顔が嫌い」って……俺にどう処理しろと言うのだ。



俺は渾身の「へぇ~」でぐちゃぐちゃになった自分の気持ちをごまかした。



俺の中では、友達はお笑い芸人としてじゃなく男として見ているのだと思った。



そう確信したのは友達が千原ジュニアを嫌いだと言った流れでわかった。



これも最初は納得が出来なかった。



なぜなら友達の旦那は大阪出身のヤクザなのだ。



関西弁の不良が好みだとするなら千原ジュニアが嫌いなのはおかしいと。



喋りは面白いし大喜利も得意だし、まぁ確かに今の芸風だと物腰が柔らかいかもしれない。



友達はあまりお笑い芸人に詳しくないのかな?と思った。



それで友達に、千原ジュニアは若手の頃はジャックナイフと呼ばれるくらい尖ってたことを教えると「そうらしいね」と答えた。



そういうヤンチャな部分を知っているのにタイプではないのか?と、お笑いとは関係なく友達の男の好みがよくわからなくなっていた。



友達はオラオラ系の不良が好きなんじゃないのか?



すると、友達は俺の迷いを吹き飛ばすだけの答えをつぶやいた。



「私は、お兄ちゃんの方が好き」



千原ジュニアよりも、お兄ちゃんの方が好き…



俺は心の中で叫んだ。





(それ、ヤクザやないかい!!)



続く