ともだち救出作戦5 | 天狗と河童の妖怪漫才

天狗と河童の妖怪漫才

妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

俺が思うにタトゥーに必要なのは物語性なのよ。



何かを忘れない為に入れるとか、まぁ自己表現として入れるんでしょうけどね。



ただね、俺としては友達の眉毛に入れてるってのは笑えなかったんだな。



友達が言うには女は化粧をするのが大変だと。



眉毛は左右均等に描かないといけないから、その下書きとしての消えないタトゥーだと言うのよ。



で、それは旦那と結婚してから入れたと。



旦那はそのことについて何か言わなかったのか?と聞いたら「好きにせいや」と言われたと。



まぁそういう愛情もあるんでしょうけどね。



女の好きなようにさせるというかね。



女が自由に生きることを受け入れることが愛情なんですかね。



俺はもう発狂してましたけどね。



ありえない!!と。



自分の惚れた女房の顔に彫り師だか知らねえけど、他人の男に金を払って一生消えない傷を顔に刻み込むって行為がさ。



「そんなもん狂気の沙汰だよ!」と叫んだからね。



詳しく話を聞くと、友達がまだ昼間の仕事をしている時の客に彫り師がいて、それでお願いしたらやってくれたと。



麻酔をしたけど痛くて涙がボロボロ溢れたと友達は笑いながら喋っていた。



そのタトゥーを入れる時には彫り師の嫁が立ち会ったそうで、その嫁が指で旦那に「そっちじゃない、もっとこっちこっち!」と指図をしながら眉毛に墨を入れたそうだ。



俺の怒りは振りきれていた。



何なんだそのプロ意識のなさは?



俺はガテン系の職人だから1発勝負の仕事がいかに緊張感があるか体感している。



それでも万が一、失敗したら金はかかるけど補修したりゼロから作り直すことは可能なのだ。



ただ、タトゥーはそうはいかない。



失敗は許されない。



一生消えることのない線を人間の体に描くことになる。



俺は彫り師に聞きたい。



お前は手塚治虫を超えたのか?と。



お前は宮崎駿よりも線を引いたのか?と。



ディズニーのような世界観を理解できるのか?と。



客の注文に答えるのがプロだと言うのなら、そんなもんは三流の彫り師だ。



他人の娘の顔に一生消えることのない傷を刻めるというだけで、人間としての当たり前の感覚が欠落しているだけだ。



お前がやってることはアートなんかじゃない、レイプと同じなんだよ。



一流の彫り師ならそんな仕事は引き受けないだろう。



人間としての感覚が麻痺してるやつが魂を入れるだなんてバカバカしいことを語るなよ。



眉毛に魂なんかねえよ。



友達は俺がレイプと一緒だと言うと、それは違うでしょとヘラヘラ笑っていた。



みんなやってると言うのだ。



その“みんな”を全員連れてこいと。



美意識がおかしいと。



「それは誰の為の美意識なんだよ」と友達に聞くと『私の為の美意識なんだからいいでしょ』と言うのだ。



この「私の為の美意識」というのは、ギリギリだけど納得できる答えだった。



麻酔をするから帰りの運転は出来ないので友達は旦那に車で迎えに来てもらったそうだ。



旦那もよく平気でいられるなと、その感覚が気色悪かった。



俺としては旦那がヤクザだから友達はその妻として自分も体に墨を入れることで箔というか、そういう強さを見せ付けたかったんじゃないか?と思ったのだ。



痛くて涙をボロボロ溢しながらも旦那に認めてもらいたかったんじゃないかと。



裏社会のコミュニティとして、“タトゥーあるある”で仲間意識を高めたかったのでは?と。



だからこそ、私の為の美意識という答えには納得できたのだ。



それはそれでいいと思う。



ただ、俺たちのような喋り好きな人種にはそういうのは厄介なのだ。



友達はスッピンでも眉毛に薄く赤いタトゥーのラインが残っているのだ。



タトゥーがだいぶ薄くなってきたからまた入れに行くと言う。



俺は「ふざけんな!」と 怒鳴った。




そして、その意味を説明した。



俺とか喋り好きな人間は、常に相手の表情を見ながら喋っていると。



眉毛の左右のバランスがおかしくてもいいんだと。



完璧を求めてはいないと。



それは他の女に対する美意識にも感じると。



前髪がうまく決まってなくても、化粧がバッチリじゃなくても、普通の男は「慌ててたのかな?」とか、そういう部分に好感なり親近感を覚えると。



だから男はスッピンが好きなんだと。



だけど眉毛にタトゥーを入れてしまうと、そこに絶対的な美意識が宿ってしまうと。



怒っていても、泣いていても、その顔には消えない美意識が付いて回ることになると。



それは笑いの邪魔になる。



見慣れてしまえば気にならないかもしれないけど、微妙な表情のニュアンスからこっちが読み取る感情にミリ単位で誤差が出るかもしれないと。



相手の受け止められるギリギリの言葉を狙って言う時に、相手の感情を読み取るのは表情なのだ。



友達はコンタクトもしているのだが、それも黒目が大きくなるやつなのだ。



これもやめてもらいたいのである。



喋っていて黒目の変化で話のフリが利いてるかどうか、話に食い付いてるかどうかを判断するのだ。



仮にコンタクトの黒目よりも実際の黒目が大きくなればそれはわかる。



だけど、本当の黒目がコンタクトの黒目までの距離感での変化を掴むことが出来なくなるのだ。



それってのは本来なら最初の感情の変化な訳で、こっちが言った言葉に対してどのように変化したかで瞬間的な言葉選びも展開も全く変わるのである。



つまり、たくさん笑いたかったら顔に余計なことはするなと言いたいのだ。



友達は美意識が高いので、笑いの傾向も他人を見下したものを好むのである。



嘲笑うのが好きというか、そういう仲間と過ごしてきたのだとわかる。



でも、それってのは笑いの中でも扱いが難しいジャンルだということまでは当然ながら理解はしてないと思う。



友達とずいぶん前に近所の行列のできるラーメン屋に並んでたことがあった。



俺と友達が最後尾で並んでいると、その後ろに女の子が一人で来て並んだのだった。



すると友達はその女の子には背を向けた形で、でもハッキリと聞こえる声で「一人で食べに来るとか私には無理(笑)」と言ったのだった。



すると、その女の子は列から離れてどこかへ行ってしまったのである。



俺はこういう笑いを履き違えたやつが大嫌いなので、「満月満月ちゃんが嫌味を言うからどっか行っちゃったじゃん」と言った。



友達は「聞こえてないでしょ」とヘラヘラしていた。



俺は「いや、聞こえてるでしょ!そういうのはよくないよ」と軽く説教したことがあった。



ようするに、そうやって共通の敵や弱者をみつけて笑うような男とばかり付き合ってきたのだろう。



ただ女という生き物は面白いもんで、後ろに並んでた女の子が暫くすると彼氏を連れてまた後ろに並んだのである。



たぶん彼氏が来るまで並んで待っていたら、前に並んでる気の強そうな女から嫌味を言われたので彼氏を迎えに行ってたのだろう。



そして順番が来て後ろのカップルと一緒のタイミングで店内に入った。



その店は担々麺が売りで辛さも1~5段階あった。



俺と友達は店員の言う通りに辛さを3にして注目した。



辛さが売りだけど5はめちゃくちゃ辛いと言われたからだ。



次に俺たちの後ろに並んでたカップルが注文した。



彼氏は俺たちと同じく辛さを3にしたのだが、彼女はというと…



「5で!!」



これは絶対にさっきの友達の嫌味が乗っかった5である。



私は行列とか関係なく純粋に辛いのが好きだから、ここに並んで食べているという意思表示である。



店員も必死になって5を止めていた。



このように、女同士の張り合いというのは、そこにちゃんとオチがつけば面白いのだ。



だけど、男にはその辺がわからないから笑えないまま終わることは嫌なのだ。



友達のタトゥーにしても、俺の言い分を聞いて友達が理解できるかどうかは知らない。



ただ、薄くなってきたタトゥーをまた入れることについて俺が怒ったら友達はこう言った。



「もし今度、入れる時は満月満月君に言うね♪」



そうじゃねーよ!!



遠足気分で行ってきまーすじゃねえよ。



とにかくね、友達の価値観や感覚には俺は何度も注意をしてきたのよ。



俺の言う“普通”とか“世間”って言葉と、友達の言う“わたし”とか“みんな”って言葉が違う世界の話みたいなのよ。



いや、面白ければそれでもいいのよ。



あとは若さがあれば許されるとは思うよ。



だけど、怒りや暴力で物事を動かしていく友達のやり方を肯定することはできなかった。



そう、友達は俺の前では見せないけれど基本的にはヤカラなのだ。



女のヤカラには関わりたくない。



だから俺は友達の気取った態度や台詞にはツッコミを入れる。



ちょっとした照れや恥ずかしさをイジり倒す。



そうすることで普通の女の子としてのバランスが取れるのだ。



店が終わった帰りに遊びに来ると友達はキャバ嬢のような格好をしている。



繁華街を歩いてるとキャッチの男にナメられるからと化粧もラメまで塗って別人のようになる。



不思議なもんで化粧をすると言葉使いまで刺々しくなるのだ。



そうすることで女は自信が出るのだろう。



俺はその服装や化粧に引っ張られた態度や言動が嫌なのだ。



すると友達は「ケバいかな?」と化粧の技術に問題があると勘違いする。



そんで、その次の日にはスッピンにジャージで遊びに来たりする。



スッピンの友達は真逆の可愛いになる。



だけど、それだと夜の世界では生きていけないのだろう。



というか、いつの頃からかずーっとそうやって突っ張って生きてきたのだろう。



可愛いを売りにすれば180度違った人生だったと思う。



だけど、そうすると弱さを見せることにもなる。



女の世界は大変だなと思った。



旦那の影響も大きいのだろう。



友達が旦那を乗せて運転する車に、前を走るトラックのタイヤが踏んだ石がフロントガラスに当たったそうだ。



友達はすぐさま愛車のベンツを横付けして前のトラックを停めた。



すぐさま旦那が出て行って、運転手となんやかんやで名刺を貰って、その件については友達が仕切ることになったと。



保険屋やトラックの会社に電話を掛けて友達はヤカラの限りを尽くしたと。



なぜなら保険がおりないからだと。



俺は悪気がない相手にキレること自体がありえないので友達の怒りの意味がいまいちわからなかった。



誰がどう考えても当たり屋に思うだろう。



友達は明日また会社に電話して話をつけると言った。



俺はそれを録音されてたら逆に訴えられるから言葉を選ばないといけないよとだけ助言した。



友達は裁判ならそれなりの弁護士を付ければいいと息巻いていた。



結局は自己負担で直す結果になった。



友達は怒りで物事を解決しようとした。



俺は友達に女の子なんだから笑顔でお願いした方が物事は解決するし、誰かが助けてくれるよと言った。



俺は笑顔で物事を解決することを伝えた。



すると友達は旦那からはこう言われたそうだ。



お前は女なんやから泣けやと。



女の武器は涙だということだろう。



旦那は女の涙を信じないそうだ。



嫁である友達が泣いても「泣き止むまで帰ってくるな!!」と。



その話を聞いて俺は思った。



ひょっとして…、前に友達が俺に見せたあの涙は…あれは…嘘泣きだったのか?と。



続く