クリスマスイブ | 天狗と河童の妖怪漫才

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妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

俺は友達を失ったかもしれない。



クリスマスに風俗で働くことが理解できないと言ってしまったからだ。



男ってのはロマンに生きてロマンで死ぬ生き物なんだろう。



つまり、エゴの塊なんだろう。



まぁ、好き勝手なことを言って友達を傷付けたと思う。



だけど、友達を失う覚悟で言ってる自分に酔うことが男のロマンってやつなのだ。



俺の言葉に対して友達は、キリスト教じゃないのにクリスマスってそこまで大事なの?と言った。



俺もそこまで考えてはいなかった。



そんなクリスマスを祝うほどの若い年齢でもないし、子供がいる訳でもない。



ただ、職場ではダメ親父たちがクリスマスくらいは早く帰らないと嫁に殺されるとバカみたいに頑張って仕事をしていた。



俺には長年付き合ってるイカれた彼女がいるのだが、お互いに仕事もあるのでわざわざ会って祝ったりはしない。



メールで何もしてくれないことに対して文句を言われたり、そのあてつけに彼女の仕事のファンみたいな男から贈られてきたプレゼントの写メが送られてきた。



とはいえ大人になってからのクリスマスなんて、そんもんだと割り切っていたのだ。



恋愛ではなくて、同世代や年齢的にはクリスマスは子供に対するイベントだということも理解しているのもある。



家に帰ってしばらくすると友達から電話があった。



普通のケーキとチョコレートケーキならどっちが好きかと聞いてきたのだ。



普通のケーキと答えると、職場のある都内の繁華街を歩いてる様子で、ケーキ屋を探しているようだった。



お客さんが少なかったら早く帰れるから、そしたらケーキを持っていくと言うのである。



友達はまた連絡すると言って電話を切った。



クリスマスなんて…と強がってたはずの俺の中の少年が、クリスマスにケーキが食えると単純に喜んでいることに気が付いた。



大切なことを気付かされたような気持ちになった。



若いときは俺も愛する彼女の為にごった煮状態のブランドの店や花屋へと仕事帰りに慌てて走り回ったこともあった。



クリスマスというイベントを純粋に楽しんでいたのだ。



そう考えると友達はいまだに純粋にクリスマスを祝える女の子なんだなぁ…と、ぼんやり考えていた。



友達から電話があって、仕事になったから今日は行けないと言われた。



ケーキは予約したから、明日はさすがにお客さんも来ないだろうからと。



じゃあ、ケーキは明日になれば食べれるなと単純に考えていた。



そうか、今日はクリスマスイブで、明日がクリスマスかと、布団に横になって寝るまでの時間を過ごしていた。



10時前には布団で横になっていたのだが、アパートの隣の部屋がいつもより騒がしいのだ。



隣の部屋には小さい子供のいる家族が住んでいる 。



幸せそうな子供の声が聞こえてきた。



明日の朝には枕元にはプレゼントがある。



明るい明日が、明るい未来が待っている。



そうそう、それがクリスマスってもんだよ。



隣人の子供でも自分の少年時代と重ねることで、喜びがフラッシュバックするようだった。



うちのサンタは値札のシールを爪で引っ掻くのが雑だったなぁと過去の微笑ましい思い出に浸っていた。



そのままふわふわと俺の記憶の中の少年時代から、同い年である友達の少女時代の想像が交差した瞬間、フォークで頭をぶっ刺されたような気がした。



明るい明日ってなんだ?



これが明るい未来か?



なにやってんだよ!!と。



そのまま感情に任せて友達にメールしたんです。



クリスマスくらいは仕事を休んだ方がいいとかね。



バカなのか?ってね。



まぁこうして考えても俺は最低なやつだね。



彼女からはサンタじゃなくて、お前はサタンだとメールが来たけど、ほんと俺は悪魔だ。



クリスマスに風俗で働くことで、店の他の女の子たちや店員や客からも可哀想な目で見られるとか。



お金より大事なものがあるだろ?とか。



友達のことを知ってる人達全員を悲しませることになるとか。



そして最後には、



これで嫌われても構わない、これを言わないで黙ってるくらいなら俺は死んだほうがましだわ、と連続して一方的にメールを送ってしまったのだ。



友達がどんな気持ちでクリスマスイブで賑わう繁華街を歩いてケーキを買いに行ったかも知らずに。



冷静に考えれば、俺は自分が友達として、男として、その不甲斐なさを認めたくないから言ったのだ。



自分を守る為に友達を傷付けたのだ。



自分が世間という裁きで傷付きたくないから、その責任を友達に負わせて傷付けたのだ。




しょうもない男のロマンで、身勝手な言葉で、結果的には俺が最低なクリスマスにしてしまった。



だけど、いつかは誰かがサンタクロースなんていないんだと教えてあげないといけないと思ってた。



友達はバカじゃなかった。



そんな俺の失礼なメールに対して全てにちゃんと返事をくれた。



そのメールに対しても俺は、戦時中でもクリスマスには休戦するだとか、クリスマスに女の子が風俗で働くことに対して男は誰も喜ばないだとか、ほんとサタンみたいなメールを送り返してしまった。



さすがに、その日に稼ぐ分だけの金が欲しいなら俺が払ってやるとまでは言わなかった。



男のロマンとしては、金じゃないからだ。



仕事はそういうもんじゃない。



手段と目的の境界線に金がちらつくのが腹立つ。



友達は言った。



この世界に入りたくて入った人はいないと思うよ、と。



そんな当たり前のことを言わせてしまった。



だけど、その生活が当たり前になるのとは違う。



どこかに越えてはならない一線を敷かなければならないのだ。



それが年に1回のクリスマスでいいじゃないか。



女を道具や飾りとしか思わない男だけだとは思わないでもらいたい。



サンタクロースはちゃんといるんだと。