友達の作り方3 | 天狗と河童の妖怪漫才

天狗と河童の妖怪漫才

妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

友達が実は人妻だった訳ですよ。



とんでもなく危ない橋を渡ってたんです。



俺がね。



こんなもん、チンピラみたいな旦那が急にやってきて「兄ちゃん、わしの女房に何をしてくれとんねん?」ってパターンがあるじゃないですか。



山に連れてかれて頭だけ出されて埋められるやつじゃないですか。



警察が冤罪なのに巧みに自供を強要させるのと全く同じ手法ですからね。



そもそも、なんで嘘をつくのかと。



彼氏がいたらこんな仕事してないと言ってたからね。



旦那がいるならなおさらダメでしょ。



なにより俺が許せないのは、喋った言葉を返してくれと思うのよ。



35才で独身なのと人妻じゃ話の内容が真逆になるからね。



言葉の選び方も違ってくるからね。



ギリギリのストライクゾーンを狙って投げた言葉がデッドボールになるからね。



本当ならもっと正確に笑えてたはずだし、知らずに傷付けていたかもしれないからね。



35才で独身の女と人妻なら独身の方が不幸だろ。



でもさ、人妻なのに夜の仕事をしてるとなったら独身より不幸じゃないか。



俺が童貞を捧げたのは、子供が2人いるシングルマザーの風俗嬢だった訳ですよ。



その十字架を背負って生きてきた訳ですよ。



今の若いやつらにゃこの苦しみはわからんだろよ。



どこに入れたらいいのかわからん時代だったのよ。



当時はネットで何でも見れる時代じゃなかったのだよ。



全ては口伝だったのだよ。



無免許でいきなり首都高に合流するようなもんだったのよ。



今からスカイダイビングをやりますと。



その前に、スカイダイビングのビデオを見て、着地までの流れを勉強しましょうと。



高度がどうとか、飛び出す時のタイミングとか、落下してからバランスを取るための体勢とか真剣に学ぶ訳ですよ。



そりゃそうですよね、初めてスカイダイビングをやる訳ですから。



で、そのスカイダイビングのビデオを真剣に見てるんだけど、肝心のパラシュートを開くところにはモザイクかかってんだよ。



パラシュートの何かを引っ張るくらいの感じしかわからないのよ。



そこだけモザイクで見えないから。



そりゃヒモがあれば引っ張るくらいはわかるさ。



だけど、最初はうまく引っ張れないとか聞くわけ。



違うヒモを引っ張っちゃったとかね。



普通ならそこで死んでるけどね。



それでも、なんとかパラシュートが開いたみたいな話を先輩とか言うのよ。



考える前に飛べってことを言われる訳ですよ。



でも、ヒモはちゃんと濡らさなきゃダメだとかも聞くわけよ。



いきなりパラシュートを開くのはダサいみたいなね。



ヒモを引っ張る前にちゃんと手袋を着けないとダメだとかね。



手袋の先っぽの空気を抜かないとダメだと。



気圧の関係なのかな?



今ならネットでしかも無料で見れるだろ?



ヒモの位置とか全部がさ。



いや、タンポンの話じゃねえよ!!



……というね、哀しみを背負って飛び降りる時代だった訳だよ。



命知らずだろ?



で、俺はお金を払ってスカイダイビングのスクールに通った訳だよ。



そこのスクールの常連だった先輩がいてね。



校長に話をして、こいつ初めてだから1番若いインストラクターをつけてやってくれとお願いしてくれてさ。



スクールに行ったのも朝イチだったのよ。



今になって思うと、俺が初めて飛ぶから朝イチにしてくれたのかと思うけど。



やっぱりさ、パラシュートは朝イチだと畳み方が丁寧だと思うからね。



でも、先輩が常連のスクールなのに俺が若いインストラクターに教わるの悪い気がして謝ったら先輩が言ったのよ。




「ベテランのインストラクターにはベテランの楽しみ方があるからよ」



こういうね、遊び方を知ってる先輩たちから若いときに遊び方を教わったことには、ほんと感謝してる。



全てを打ち明けても笑い飛ばしてくれるし、粋な振る舞いで背中を推してくれる。



嘘をつかなくていい生き方を教えてくれた。



その方が絶対に笑えるから。



笑わせてやるからと。



なぜ、友達は嘘をついたのだろうか?



昨日は過去なので、もう嘘ではないからいいのか。



俺の怒涛のツッコミに耐えきれなくなったのだろう。



最初は旦那ではなく父親が迎えに来ると言っていた。



深夜の2時過ぎに70近い爺さんを駅まで迎えに呼ぶ時点でおかしいのだ。



「いや、寝かせてやれよ!」



「いくら年寄りは朝が早いって言っても、戦時中でも寝てる時間だろ!」



「もうすぐ好きなだけ眠れるけど、その時は二度と起きないからな!」




これが実際には旦那が迎えに来ていたことになる。



それは笑えない。



愛情を感じないからだ。


父親とは娘の為なら死ねる、と思う。



だから笑える。



嘘の世界の方が愛に満ちている、と思う。



友達は言う。



「35で独身の方がやばいでしょ?」



それは違うとは言い切れない部分もある。



なんというか、女は35~40までに結婚と妊娠という時限爆弾を仕掛けられて生まれてくる。



この5年こそが人類のテーマだと思う。



最強にロックであり、最高のコメディだと思う。


この5年に独身の女には国が給付金を出せばいいのだ。



生理用品なんかは年齢に関係なく全て無料配布でいいのだ。



老後の不安どころの問題じゃない。



男に課税すりゃいいんだよ。



日本男児税だよ。



サムライ税でいいじゃねえか。



そうでもしなきゃ笑えないっての。



35を過ぎるってのは大気圏に突入していくような感覚だからね。



だから、ヤバいのは独身じゃなくて今の状況だと。



どうしたらそんな関係になってしまうのかと。



それがわからない。



過去にどんな男と付き合って、どんな幼少期を過ごすとそうなってしまうのか。



単にそういう男に惚れたってだけなのか。



俺と真逆の男。



ぐるぐる回って何が正解で正しいのかわからなくなる。



ただ1つ間違いなく言える真実とは笑いだけだ。



面白いから笑うのだ。



愛想笑い苦笑い、嘲笑や失笑、笑いに違いはあるけれど本当の笑いは嘘がつけない。



本物の笑顔と本当の笑いだけが真実である。



というか、飯をご馳走してくれる話はどうなったんだと。



人参をぶら下げられたままの馬のような、自分の尻尾をひたすら追いかけ回す犬のような、自分の置かれた状況が理解できないまま時限爆弾は時を刻んでゆく。



男が何者なのか知りたかった。



終電に間に合わなかったから店の送迎車で地元の駅まで送ってもらっていると友達からメールがきた。



外は傘をさす程度の小雨が降っていた。



モヤモヤした謎を解くには喋るしかない。



すると友達はすでに俺のアパートの近くまで歩いて来ていた。



しかし、この街には遅くまでやっている店がない。



雨が降ってるので公園のベンチに座って喋る訳にもいかない。



仕方がないので俺のアパートの部屋の前まで連れてきてしまった。



しかし、俺はそう簡単には部屋を掃除するような男ではない。



それに部屋は汚いし部屋にはテレビがあるだけで、DVDが観れる訳でもないし、パソコンすらない。



もちろん車など持ってない。



持たざる者は喋るしかない。



近所を散歩することになった。



この街は友達が育った街なのだ。



俺は2年前に仕事が忙しくて仕方なく親に頼んで探してもらった物件に引っ越してきて住んでいる。



友達に街案内をしてもらうつもりで傘をさして歩き始めた。



友達が中学生の時に車に轢かれた交差点や、父親と小さい頃によく通った定食屋、友達の友達の話など、過去の思い出話を聞きながら時限爆弾の時を少しずつ戻していった。



どんな思い出も笑いで吹き飛ばしてやろうと。



そのどこかに、あの男に繋がる何かがあるのかもしれない。



とにかく喋ったが、とにかく歩いた。



雨と汗で友達は化粧を気にしていたが、そんなものはどうでもいいのだ。



過去を遡っているのだからそれでいいのだ。



ぐるりと街を歩き回って駅に向かった。



友達が帰る時間が近付いていたのだ。



旦那が迎えにくる時間でもある。



俺はその生活を何とかポジティブにとらえようとした。



“時間が来ると帰る”ことと“ハッピーエンド”の繋がりを考えた。



その例えが浮かんだ瞬間、後のことをよく考えずに口に出してしまった。



「シンデレラみたいだね」



しまった、と思った。



シンデレラは貧しく不幸な女でもある。



どっちに受け止めるかで展開が全く変わる。



友達は言った。



「わたしがシンデレラなら、満月満月(俺)は何なの?」



俺は王子様ではない。



それは違う。



そんな面白くないことを言うような男でもない。



むしろ俺の方がシンデレラだ!!



これも今の流れで言っても笑える空気ではない。



笑いの神に祈るしかなかった。



「俺は人参をぶら下げられたからついてきただけで…」



飯をご馳走してくれるという友達との最初の設定を例えただけだった。



シンデレラ関係ないじゃん!!のツッコミ待ちみたいなボケになってしまった。



しかし、そこに笑いの神が舞い降りたのだった。



友達は俺の「人参をぶら下げられたからついてきただけ…」に対してこう返した。



「人参って、じゃあ馬なのね?」



そうそう、俺は馬…




シンデレラ…


…馬?



……繋がったぜ。



「いや、なんでカボチャの馬車の馬なんだよ!!」



「お前がシンデレラで、なんで俺はカボチャの馬車なんだよ!!」



友達は爆笑していた。



そして時間になると、悪そうな白馬に乗った王子様がシンデレラを迎えにやってきたのだった。



ガラスの靴ではなく、ガラスのハートの乙女を食い物にする王様なのだろうか?



ハッピーエンドをイメージしながらも時限爆弾は確実に時を刻んで行く。


続く。