女は声に価値がある | 天狗と河童の妖怪漫才

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妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

今の現場はバカみたいに広い。



そんな訳で、職人仲間との連絡手段として片方の耳にイヤホンを付けて無線でのやりとりで作業をしている。



これが凄いストレスなのだ。



昼休憩のとき以外は耳にイヤホンを付けたままなので、違和感が半端ない。



耳にイヤホンを装着する耳の違和感には慣れたが、会話や作業中の違和感にはまだ慣れない。



イヤホンをしてる側の耳だけ日常会話や物音が聞こえないのだ。



普段の半分の聴力で仕事をしていることになる。



これは左右の聴力を総合しての半分なのではなく、片方だけの意味での半分なのだ。



両方の耳にイヤホンを付けた方がバランスが取れると思う。



いかに聴力に頼って生活していたのかがわかった。



イヤホンからの音や声には敏感に反応する。



それは仕事でイヤホンをする目的と重要性から、その声から情報を拾おうと声に集中することになるからだ。



イヤホンからの声は全員に聴こえるされる。



そうなると、イヤホン越しに何度も叱られてるやつがいるのだが、そいつが怒鳴られてる怒りの声すらも集中して拾おうとするのでストレスになるのだ。



ガチで怒ってるから声のボリュームは普段のままなのだ。



とはいえ、無線のボリュームを下げると聴こえないので、何のためのイヤホンか意味がなくなってしまう。



普段なら耳障りのある言葉などは「あいつまた怒られてんなぁ」くらいで、それ以降の罵声はノイズとして遮断することが出来るが、イヤホンを付けていると無理矢理その罵声を間近で聞かされることになる。



ここで、ハッキリしたことがあった。



イヤホン越しに怒ってる人は、普段からも周りの人達へのアピールを含めて怒ってるのだと。



他のイヤホンを付けてる人達にも罵声を聞かせたいのだ。



そもそも悪いのは、いつも怒られてるやつが悪いんだけどね。



普段から怒られてるやつは言い訳もひどい。



“イヤホンを付け忘れてたから自分は悪くない”という作戦なのだ。



「あいつ、またイヤホン付け忘れてんじゃねえか?」という、イヤホン付け忘れキャラを定着させてこの現場を乗り切ろうと考えているのだ。



そんなバカみたいな展開になる訳がない。



こっちとしては、延々と罵声を聞くことになる。



これはストレスでしかないので、いつも怒る人といつも怒られるやつの前で



「お前が怒られてる声を聞くのは、こっちも耳障りなんだよ」と、二人同時に切り捨ててやった。



こういうクサビの一言を誰かが言わないと場がおさまらないのだ。



怒る人と怒られるやつと、その二人に文句を言うやつ、という3人が同じくらいのダメージを背負わないと、他の連中も含めて男は意地になるとなかなか引けない生き物なのである。



誰が一番悪いかって、そりゃ怒られるやつが悪いのだけど。



無線でのイヤホン越しの会話とは違って、普通の会話は最初のうちは片耳が聞こえないことに対するストレスだった。



相手の喋ってる内容を片方の耳だけだと、ある程度の見切り発車気味で情報を処理することが出来ないのだ。



え?と聞き返して言葉を確認することが多くなってきた。



それよりも違和感やストレスを感じることがあった。



それは自分の声だ。



両方の耳にイヤホンを付けると、普段よりも大きな声で喋るという経験は誰しもあると思う。



これが片方の耳だと、自分の声のニュアンスが掴みづらいのだ。



相手に言葉がちゃんと伝わっているのか不安になるのだ。



とはいえ周囲が騒がしくないのに大きな声で喋ると強調する意味合いも違ってくる。



もちろん相手も片方の耳にイヤホンを付けている。



自分がちゃんと喋れてるのか不安なのと、相手がちゃんと聞き取れているのか不安になる。



なんだこのストレスは。



会話を合わせに行くチューニング能力よりも、自分の意志をハッキリと示すコミュニケーションになる。



仕事中に先輩が言うどうでもいいボケを拾うことすらも出来ないのである。



サラッと言ったボケに、サラッと流すようなツッコミは大声で言わないから面白いのだ。



それと、周囲の人も聞き取れてない可能性が大きい。



え?と聞き返したら、間抜けでおしまいである。



どうでもいいボケなのだから、なおさらテンポが悪くなる。



何も返さずに黙っていると、シカトしただろ?と言われる。



このやりとりからは何も生まれない。



この状態では雑談する意味がないと思う。



これは単純に冗談話だけの問題ではない。



聴力を制限されたストレスで、普段の性格が増幅されて出力されているのだ。



そうなると普段から怒鳴っている先輩は、絶叫することになるのである。



普段はボソッと小声でイヤミを言う先輩は、ハッキリとした口調で暴言を吐くのである。



普段は鼻唄を唄いながら仕事をしてたやつは、熱唱しているのである。



俺はというと、ほとんど喋らなくなった。



聞こえているのかもわからない、伝わっているのかもわからない状況で、喋ることが面白くないのだ。



自分の声の違和感がどうにも気持ち悪い。



三半規管が狂うとバランスがおかしくなる。



片方の耳を常に支配されていることもストレスになる。



右耳と左耳でもイヤホンを付けた時の感覚が違うのだ。



最初は左耳にイヤホンを付けていたが、どうにも会話がスッキリしないので右耳にしてから慣れてきた。



これが右脳と左脳の違いなのだろうか?




日常会話にしろ、声の重要性がよくわかった。



女は顔より声かもしれない。



それくらい声と耳の不思議に日々悩まされている。



声のバリエーションや表現力だけで見えない相手に的確な指示を出さなければならない。



士気が下がれば鼓舞する声もある。



ただ、男の声はもういいよ。



毎日毎日もう、うんざりだよ。



たまに無線が混線して女の子の声が聴こえる時がある。



すんげー癒される(笑)



語尾が『ね』って聴こえただけで安心する。



そのせいか、声フェチになりつつある。



顔や体型よりも、女の子らしい声に耳を澄ましている。



たぶん今なら女の子の声だけでヌケそうな気がする。



そういうお店はあるのだろうか?



お金を払って女の子の声だけを聴きたい。



今の鍛え上げた聴力なら声だけで全てを理解できるような気がする。



明日も1日中おっさん達の声をイヤホンで聴くと思うとイヤになる。



目の前で喋っても、お互いに『え?』って聞き返す会話もイヤだ。



ほんとやだ。



マジでストレス。



声の美少女コンテストとかやったら面白いのにね。



まぁ、カワイイ子ってのは声もカワイイのだろうけど。



子猫の声とか聴こえただけでハートを鷲掴みにされちゃうからね。



この症状が病気だとしたら、病院で看護婦さんからお薬じゃなく『お声出しときましたからね』って、女の子の声が録音されたCDを処方されんのかな?



それで帰って食後にCDを聴いたら、婦長のダミ声が入ってて副作用が出ちゃったりしてね。



代々木あたりで声優の卵つかまえてバイト代払えば理想的な声を作って売ってくれるんじゃないか?



1/fの揺らぎみたいな脳波にいい声の音域があると思うのよ。



それと言葉使いね。



訛りありつつの可愛らしいやつ。



これを一般人にお願いしたら完全に変態だから通報されるな。



声は大事だね。



売れてる芸人とかは声が商品として完成してるもんね。



だから若手芸人はネタを作るより声を作らないとダメなんだよ。



このイヤホン付けたままで仕事をやってると、音で空間を認識してるのもわかった。



片耳だと空間のバランスがおかしい。



俺の声も低いから片耳だと、どのくらいのボリュームで喋れば正確に伝わってるかがわからない。



うさぎは鳴かない。



うさぎは寂しいと死ぬんじゃなくて、耳が大きいのに一言も喋れないからストレスが原因なんじゃないか?



ゾウなんか耳が大きくて鼻も長い。



いや、鼻は関係ねえか。


パオーン