七色のすいません | 天狗と河童の妖怪漫才

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妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

仕事帰りに近所のコンビニに寄った。



見たことのないジジイの店員がいた。



女子高生の店員が一人もいない。



なんでだよ。



このコンビニにはタイプの異なる女子高生のアルバイトが3人いるのだ。



最近は化粧の技術にも磨きがかかり大人の女へと成長していた。



つまり、もう少しで食べ頃だと思っていた。



少なくとも毎日3人のうちの誰かしらはいるのだ。



いつも女子高生とババアの店員がセットになって働いていた。



それなのにババアが1人と、見たことないジジイがいる。



女子高生が1人もいない。



なんか、楽しくない。



コンビニって、こんなにもつまらない所だったとは思わなかった。



生き甲斐を無くした。



それだけを楽しみに生きてきたのに。



なんにもやる気が出ない。



女のいない世界は生きる意味がない。



はあ。



さくさくパンダがおいしく感じない。



レジに並んでも楽しくなかった。



いつもならレジが2つあって、後ろで並んで待ってる時には、ババアと女子高生のどっちに当たるのか運試しする楽しみがあった。



先頭でレジが空くのを待ってる時は、女子高生のレジ打ちが早く終わるようにを心から応援していた。



それとは逆に、前から2番目でレジが空くのを待ってるいる時は、先頭に並んでいる人をババアのいるレジに行かせたいので、心の中では「ババアもっと早くできねぇのかよ!!」と軽く呪っていた。



たまにババアが棚の所で品出しをしていて、レジが女子高生1人の時もあった。



そんな時はババアに気付かれないようにソーッと気配を消して、前の人の会計が終わるのを静かに息を殺して待っていた。



あと少しの所で背後からババアが小走りでやってきて…



「お次で、お待ちのお客様~♪」



≪ゲームオーバー≫



ホラーアクションゲームでゾンビに見付かって噛み付かれたような気持ちになった。



クソっ、余計なことをしやがって…



たまに女子高生が2人いる時もある。



他に客がいなくて、会計を女子高生2人がかりでやってくれる時は、ハーレム気分を味わうことができた。



若い小娘とはいえ、客が男だと接客術の中にも女の色気を感じさせる仕草が好きだった。



ロクでもない男に引っ掛かりはしないかと心配になっていた。



その笑顔だけで世界の全てを肯定できる魅力があった。



それなのに、それなのになんでババアが1人と、ロクでもないジジイしかいないんだよ。



全てがどーでもよくなった。



レジが空くのを並んで待つが、ジジイはモタモタしていた。



せめてババアのレジに当たりたいと思った。



男だらけの職場で働いてきて、1日の最後がジジイと喋って終わりたくはなかった。



ババアでも女がいい。



男はうんざりだ。



ババアがいてくれて良かった。



こんなババアでも女なら抱ける。



いつもなら「ババア早くしろ!!」と軽く呪う場面だが、ジジイには当たりたくないので、コンビニの神様に祈りを捧げた。



ジジイに笑いの神が舞い降りてしまった。



ババアが客の弁当を温めてるレンジの音が鳴ったら、なぜかその扉をジジイが開けようと駆け出していった。



自分の客を待たせてまで、ババアに対するその間違った優しさは何なんだ?



ジジイのそういうところが気持ち悪い。



俺のババアに手を出したら殺すからな。



ババアは瞬時に振り向きレンジの扉を少しだけ開けると再び前を向いた。



そこにジジイが突っ込む形になった。



ジジイの行き場を失った下心から加速した勢いは止まらなかった。



何事もなかったように、まるでレンジの向こう側に別の用事でもあったかのように、レンジの前をスルーしようとした。



ジジイは少しだけ空いたレンジの扉に体ごと引っ掛かった。



駅の自動改札でチャージの残高不足みたいに、ジジイはレンジの扉に直撃したのだった。



何をやってんだジジイ。



ジジイ早くレジに戻れ!!



その間にババアはテキパキとレジ打ちを済ませ、次の客を呼び込んだ。



俺のジジイ行きが確定した。



ジジイとレジを挟んで向かい合った。



ババアというアイドルのオフ会のような形になった。



ジジイなんかと喋りたくはないのだが、「すいません、こちらは温めますか?」と聞いてくる。



ジジイに温められたくはない。



というか、「すいません」ってなんだよ。



全ての言葉に、すいませんを付けて喋るジジイ。



すいませんのバリエーションが豊富なジジイ。



「すいませーん、ポイントカードは…?」



「すいません、はい、すいませんっでした!」



「すいません、袋は一緒にしても…?はい~、すいません」


「すいませ~ん、合計で…」



「すいません、お預りします」



「すっいっまっせっんっと!…はい、お釣りでぇすいませぇーん」



すいませんの多さが逆にイライラした。



レジのボタンを押しながらの「すっいっまっせっんっと!」にも腹立つが、最後の「お釣りです」と「すいません」の間にある『す』かぶりを省略して連結させた「お釣りでぇすいませーん」には怒りが込み上げてきた。



もうあのコンビニには行きたくない。



なんの楽しみもなくなった。



つまらない。



自宅に帰っても何もやる気が出ない。



すいません。