天狗と河童~麒麟の引っ越し~ | 天狗と河童の妖怪漫才

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妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

今、部屋きれい?ブログネタ:今、部屋きれい? 参加中




天狗「部屋はまだ散らかったままだけど、いよいよ引っ越しをする日が近付いてきたのだよ」



河童「今週末に引っ越すんだよね?」



天狗「引っ越し屋の手配も済んだから後は荷物をまとめたり、引っ越しに伴う手続きに忘れがないように注意しないといけないんだけど…
実は引っ越しする上でもっとも重要なことを忘れていたのだよ」



河童「なにを忘れてたの?」



天狗「いまだに引っ越し先の部屋を見ていないのだよ。
仕事が忙しくて休日出勤はもちろん残業とかで部屋を探す時間がない訳だよ。
それで部屋探しを親に丸投げしてたんだけどさ…
…これマジで引っ越すんだな」



河童「急に現実的になってきたのかよ」



天狗「これさ、家庭よりも仕事を優先した男が目の前に置かれた離婚届を見て感じる感覚に近いよ。
マジか…」



河童「不器用なんだよ」


天狗「何でもそうだけどさ、大喜利なんだよね。
【仕事の為にプライベートを犠牲にした結果とは?】
俺の出した答えは、
『引っ越し先を探す時間がないので、部屋を見ないで引っ越しをする』」



河童「バカじゃん」



天狗「自分でもバカだなと思う。
でも、外国人から見たら日本人の仕事に対する姿勢そのものがボケなんだよ。
日本人は働き過ぎると。
能率や効率を極限まで追求しようとする。
それはやがて思考をも支配するに及ぶ。
仕事中の怒りや不満、嫉妬、それらの感情に費やす時間すら無駄であると瞬間的に切り替えるようになる。
気持ちの切り替え、感情のコントロールの速さで勝負は決まる。
それは即ち、全てを背負うことになる。
ギリギリの保険だけを打って腹を括る。
“理解して欲しい”それだけの日々が足早に過ぎてゆく。
パッピーエンドをイメージしてひたすら仕事に夢中になる。
バカな男は死ぬまで働くしかない。
休日の家族サービスなんて寿命を削って作る愛の宝石だろう。
経済学者や宝石商に末端価格など決められる訳がない。
割り切ることは逃げることだと責任感が立ちはだかる。
その上に義理人情が伸し掛かる。
外国人に日本人のシュールなボケを理解できる訳がない。
そんな踊り躍る日々を繰り返し、ふと、立ち止まり、気付いた時にはもう遅い。
…俺マジで、引っ越すのか?」



河童「長ぇーよ!!」



天狗「引っ越し先の住所しか知らないのよ。
引っ越し屋のトラックに同乗して向かう訳だけど、完全にカーナビ頼りだからね。
ドライバーさんからアパートの詳しい場所を聞かれても困るのよ。
カーナビと声を揃えて『目的地付近です!』と言うしかない」



河童「案内を終了されても困るよね」



天狗「そんなのネットで調べればいいじゃん!
って思うだろ?
住所がわかってるならネットで調べればなんとかなるだろ?
って思うだろ?
いや~、インターネットってほんと便利だよねぇ~
見たよ。
グーグルアースの航空写真で引っ越し先のアパートらしき建物の“屋根”をね……」



河童「屋根!?」



天狗「ドライバーさんに何て説明すればいいんだ?
高い位置から眺めればわかるんですけど…」



河童「頭おかしいだろ!」



天狗「昔見た引っ越しのCMで小さい女の子が電話に出てこう言った。

『キリンさんが好きです。
でも、ゾウさんの方がもーっと好きです!』




河童「懐かしいCMだね」



天狗「今なら、その女の子にハッキリと言えるね。
『いいかい?お嬢ちゃん。
引っ越しに必要なのはゾウさんのパワーよりも、キリンさんの“目線の高さ”なんだよ』
ってね!」



河童「お前だけだよ!!」


天狗「そんで引っ越しといえば段ボールじゃんか?
引っ越し屋の電話対応してくれた女の人が薬局やスーパーでタダで貰えるって言うのよ。
皆さんそうしてますよ、と。
私も貰いに行きましたよ、と。
それで薬局に段ボールを貰いに行ったのよ」



河童「業務中にタダで貰いに行くのは抵抗あるよね」



天狗「そうなんだよ。
薬局でもスーパーでも利用客は圧倒的に女じゃんか。
男にはアウェイ感があるからね。
そんで薬局のレジの女の子に段ボール下さいって言ったら内線で連絡してくれてさ。
案外よくあるみたいな展開になったんだけど、対応してくれたのは男の店員だったのよ」



河童「何か問題あるの?」



天狗「それが明らかに年下の男だったからさ。
頼みごとってのはいかに懐に入るかが重要なんだけど、今時の年下の男ってのは入る懐すらないやつばっかりじゃん」



河童「敬語自体が死語みたいなとこあるけどね」


天狗「しかもこっちは業務中に仕事の手を止めさせてまでタダで段ボールを貰いにきた訳だからさ。
それでサイズと何枚いるのかを聞かれたのよ。
恐縮しながらも日頃培った交渉術を駆使する訳だよ。
『1番大きいサイズを10枚ほど…下さい』」



河童「図々しいな」



天狗「最初の設定を高くしとかないと妥協した時の付加価値を演出できないからな。
ほんとクソみたいな大人になっちまったな…」



河童「タダで段ボールを貰うのも芸だからね」



天狗「俺は薬局屋をなめてたね。
1番デカイ段ボールのデカイことデカイこと。
若い兄ちゃんは10枚出すのに数えながら汗かいて一生懸命になってるのよ。
6枚くらい重ねた時点で
『とても歩いて持って帰れない』
と思ったけどね」



河童「思ってないで口に出して止めてやれよ!」


天狗「タダで貰うからには注文は1度きりだよ。
サイズを選んだり枚数を悩んだり時間をかけることはできない。
俺には10枚重なったデカイサイズの段ボールを6枚だけ貰うのが精一杯だったよ。
せっかく用意して貰ったのに全部持ち帰れないのが申し訳なくて、とても言い出せなかったよ…」


河童「なにが言い出せなかったの?」



天狗「やっぱりね、男の店員だからさ、仕方ないとは思うんだけど…

生理用品の段ボールなんだよね…

吸収力を全面に押し出したデザインなんだよね…
家に着くまで『引っ越し』ってフレーズをわざとらしく大声でアピールしなきゃならないからね」


河童「逆に恥ずかしいわ!」



天狗「でもさ、12年間も住み慣れた街から離れるって感慨深いよな」



河童「住んでみてどうだった?」



天狗「…日当たりが悪かったな」



河童「いまさらかよ!」


天狗「湿気が凄いのよ」


河童「だからいまさら言うなっての!
湿気対策をちゃんとすればいいだろ」



天狗「目の前に吸収力って書いてあるデカイ段ボール箱が置いてあるんだけど、これ中身は除湿器かな?」



河童「それ引っ越し用に薬局から貰ってきた生理用品の段ボール箱だろが!
いい加減にしろ!!」