‐‐‐‐‐‐‐きみしろ反省会②‐‐‐‐‐‐‐

 

観たところで、どうなるワケではないが。

 

だって俺は…

 

「そういえばショーは、もう青木ちゃんと付き合ってんだろ?」

 

カッキーに聞かれてヒデを見ると、モロに訳知り顔(笑)。

 

「わりぃ、ヒデ。実はさっき青木にコクって来たんだ」

 

「え!だってあんなに血相変えて探しに。オレ、てっきり…」

 

「自分でもどうしようもなくて。気づいたら走ってた」

 

「みんなポッカーン!だな」

ハマーが笑う。

 

「やっ、女子は好評価。なかなか出来んよ」

 

カッキーがフォローしてくれたが、今更ながら恥ずかしい…(赤面)。

 

「で、結果は?あー、いいやいいや、元々青木はショー推しじゃん」

 

「まぁ、そういうことだ」

 

話を反省会に戻したい。

 

「もしかして…、キスしてきた?」

 

「なんでわかんだよ」

 

カッキーに聞かれて反射で答えてから、しまったと思った。そのテの話に敏感なヒデが、ショック受けてる感。

 

「なんか…顔つき違う。ウブじゃない」

 

顔つき?前にも言われたが、師匠、なんだソレ。

 

「あーん、何か満ち足りた的な?」

ハマーもニヤニヤ笑う。

 

「ショー、そうかよ」

 

漫画みたいに額に縦線の入ったヒデが、力なくパスタをフォークに巻き付けた。

 

「オイ」

ヒデのそんな顔、見たくない。

 

「良かったじゃん。幸せになってくれたまえよ」

 

とぼけて笑った顔が寂しげで、二人で行ったカラオケを思い出し、胸が痛んだ。

 

サワちゃんと椎名、まだ付き合ってるかは知らないけど、同じ空気感の二人を見るにつけハードルは高そうで、安易に励ましなんか言えない。

 

「なんか、気付けばこうなった、って感じで」

 

「いいんだ。ショーが幸せなのはうれしい。純粋に」

 

「……」

 

話は反省会に戻り、皆で健闘を讃えあったが、ヒデのことがずっと気がかりだった。

 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐きみしろ反省会①‐‐‐‐‐‐‐

 

学校に戻る途中で、カッキーからLINEが入った。

 

「ショー、今どこ?」

 

「郵便局の前」

 

「あー、戻んなくていいぞ。ほぼ撤収完了」

 

「マジか。早くね?」

 

カオリンにひと言お礼言いたかったな。

 

「SASAMIはもう帰った?」

 

「ついさっき。なんか平野ちゃんが用事あったみたいで、打ち上げは別日らしい」

 

「俺らは?カッキーもう帰る?」

 

「なんか軽く食いたいなってヒデと濱崎と話してたとこ」

 

「やるか、打ち上げ」

 

「ショー、デートは?」

 

「今日は青木早く帰してやりたくて」

 

「あ、そっか。そうだな、じゃあサイゼリヤ行くか」

 

「賛成。席取っとく」

 

「頼む」

 

非日常から、まだ通常ルートに戻りたくない。俺も、浸りたいのかな。ライブの余韻と、「青木のカレシ」に。

 

 

サイゼリヤで待っていると、程無く三人が来た。

 

「ウェーイ」

「ヨー!」

「待たせた」

 

みんな上機嫌だ。

練習でトライした所が、本番でみんな上手くいった。ウケは悪かったが、やりきった感アリ、すごい達成感。

 

「先輩に誉められた」

嬉しそうなカッキーとヒデ。

 

「誰?」

恐らく男子だろう。

 

「吉田さん。つまり部長バンドの方々」

 

「おぉー、ヤッタ!」

 

トップは無理でも、当日補欠スタンバイの次点に残りたいな。

 

「SASAMIも結構良かったよ。ホラ、蠣崎の推してる平野?」

 

ハマーが言うと、

 

「そう!ショーとオレの推しの二人、ヤバかった。女子バンドでは断トツ」

 

カオリンと平野。

クッソ、観たかったな。

 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐プレゼント‐‐‐‐‐‐‐

 

「何かな」

 

「ん?」

 

「プレゼント」

 

「果して、気に入るかどうか」

 

「ショーがくれるんなら、お饅頭でも、カニカマでも、なんでも嬉しい」

 

「食いもんじゃねーよ(笑)」

 

「わかってるよー。例えばの話」

 

「食い意地張ってんな」

 

「だって、そろそろお腹すかない?」

 

「確かに」

 

駅が見えてきたところで、青木のスマホが鳴った。

 

「もしもし?もうすぐ駅だよ。えっ、車で来ちゃったの?せっかち」

 

青木が、声をあげて笑った。屈託のない笑顔を見て、俺まで嬉しくなった。

 

「どうした?」

 

「おかーさんとしゅうが、もうすぐ新百合ヶ丘着くって」

 

「心配なんだな」

 

「うん、うん、わかった。北口ロータリーね」

 

電話を切ると、

 

「あーあ、ショーと家まで帰りたかったな」

と言いつつも、表情は明るく、嬉しそうだった。

 

「もう、ここでいい」

駅のターミナルに向かう歩道橋の前で止まった。

 

「駅まで行くよ」

 

「うーん、ちょっとの間だけ、一人になって、浸りたいんだ」

 

「何に?」

 

「ショーの彼女になった、シアワセ」

 

「貧乏クジかも」

 

「出た、自虐グセ」

 

「マジで、ポンコツだから」

 

「いいの。ピンチになったら、私が守ってあげる」

 

「それはどうも」

 

淡々と返したが、結構グッときた。

天然で、方向オンチのくせに。

 

「ショーは、ショーのままでいてね」

 

歩道橋を登りかけながら、ひとこと発してニコッと笑った。

かわいかった。

 

「いいのかよ」

ホントに俺で。

 

思わず呟くと、

 

「ん?なんて言ったの?」

 

振り向きざま、バランスを崩してズリ落ちそうになったところを危うく支えた。

 

「危なっかしいな」

 

「なんか嬉しくて…フワフワしてる」

 

「気をつけろよ」

 

手を振って登っていく姿を見ながら、なにか不思議な感情が込み上げた。

 

俺の、彼女。

ほんの数ヶ月前まで知らなかった同士が、お互いを大切に感じる気持ち。

 

青木がかけてくれた言葉で、自分を少し好きになれた。

自分にしか出来ない何か、俺にもあるはず。

欠点を呪ってばかりいても始まらない。自分なりに、自分の歩き方で、進んでいく。

 

 

プレゼント、か。

 

人生から、プレゼントを貰った気分。

 

 

今日のこの感じ。

 

たぶん俺、一生忘れない。