書籍 『暗黒童話 (集英社文庫)』 乙一 | 福玉本舗〜ノンジロウのブログ〜

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【突然の事故で記憶と左眼を失ってしまった女子高生の「私」。臓器移植手術で死者の眼球の提供を受けたのだが、やがてその左眼は様々な映像を脳裏に再生し始める。それは、眼が見てきた風景の「記憶」だった…。私は、その眼球の記憶に導かれて、提供者が生前に住んでいた町をめざして旅に出る。悪夢のような事件が待ちかまえていることも知らずに…。乙一の長編ホラー小説がついに文庫化。(「BOOK」データベースより)】

 先日紹介した『夏と花火と私の死体』が16歳の時に書かれた作品ということに驚嘆したんですが、今作は大学卒業した頃に書かれた作品で乙一さんの初めての長編作品です。

 ミステリーテイストの小説なんですが、あくまでホラーだということを念頭において読み進めるのがいいと思います。というのも左眼を事故で失った主人公が他人の眼球を移植するとか(角膜でなくて眼球そのもの)、猟奇殺人者が特殊な能力を持っていたりするからです。死なない殺人者や夢の中の殺人者が現実に現れるような世界観の作品として読むと抵抗感は少ないと思います。
 ただミステリーとしてもかなり楽しめます。

 移植された眼球の持ち主(後に名前が和弥とわかる)が見た場面が主人公の菜深(なみ)の脳内で再生されるんですが、菜深がそれを克明にノートに記していき眼球の和弥の人生をなぞっていく様子はおもしろかったですね。さらにその過程で和弥が少女がある屋敷に監禁されているのを見つけて助けてようとするんですが、犯人に見つかり追いかけられたあげく車道に飛び出し車にはねられて死んでしまったこと知り、替わりに自分がその少女を助けるために和弥の住んでいた町に向かうという展開は秀逸ですね。

 作中かなりグロテスクな描写があります。誘拐された人間が犯人に“改造”される場面はよくもまあこういう発想が出てくるなーと感心しました。個人的には人間より虫や小動物が悲惨な目にあわされる描写の方が気持ち悪かったです。

 作中に登場人物のひとりである童話作家の作品がはさまれてるんですが、これがなかなかグロいけど切ない物語でよかったですね。ほんとにこの部分を絵本で出してもいいくらいのクオリティです。

 読後感もちょっと切なくてよかったです。