再録:2006年01月「ジョージ・マイケルについて」 | ノーナ・リーヴス オフィシャルブログ「LIFE」Powered by Ameba

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西寺郷太・奥田健介・小松シゲル NONA REEVES



2006年01月10日

 ジョージ・マイケルの映画を観に行ってから、ジョージ熱のたかまりが激しい。
 やっぱりシンガー&ソングライターとして自分自身を見つめてみて、一番影響を受けたアーティストはジョージ・マイケルなんだと実感した。

 ぼくが小学校4年の時、1983年にワム!がファースト・アルバム「ファンタスティック」をリリースした。「クラブ・トロピカーナ」、「バッド・ボーイズ」で大ファンになった。デビュー時からファンというのは、まず思い入れとしてでかい。
 マイケルもプリンスもスティーヴィーもその頃から同時に大ファンになったけど、彼らにはその前に何年もの深くて長い歴史とキャリアがあったからね(それはそれで追っていく楽しみがあったし、事実ぼくはめちゃめちゃ深く彼らの歴史を追いかけたけれど)。

 1984年。次々と発表されるワム!のシングル群で、ぼくははじめてリアルタイムにリリースされるソウルフルなポップスの魔法にかかった。
 なんといっても、その年のシングルが「ウェイク・ミー・アップ」、「ケアレス・ウィスパー」、「恋のかけひき」、「フリーダム」、「ラスト・クリスマス」ですよ・・・。この年のワム!の衝撃的なシングルのクオリティはいまだにぼくにとって越えるものがない。

 翌年待ちに待っていたシングル「アイム・ユア・マン」が発表されました。この時のジャケット写真の、彼のヒゲヅラ、胸毛、サングラス、まるでレーザーラモンHGばりのイメチェンにドギモを抜かれました。今思えばこの曲はジョージ・マイケルのカミングアウト曲だったのでしょう。「アイム・ユア・マン」の「マン」が、肉体的なセクシュアルな何かをほのめかしています。
 そして悲しみに濡れたワム!解散が訪れました。

 1987年に、ジョージは「アイ・ウォント・ユア・セックス」で鮮烈なソロ・デビューを果たします。そしてアルバム「フェイス」が世界中で大成功!!ここまでが早い!!子供心に毎年、男臭くなっていく彼の変化が怖くもあり・笑、刺激的でした。


 マイケル・ジャクソンや、スティーヴィーにはなんていうか突然変異的な、スポーツの天才と同じような、こどもの頃からの英才教育とか、サーカスとか、そういうすごさがある。マイケルにしても、スティーヴィーにしても、どこか「おしん」で子役の女優小林綾子さんが、人生そのものを演じているときの凄みに似た、強烈な子供の時にしかだせない才能を感じます(もちろんマイケルやスティーヴィーは「子役」から完全に脱皮したのですが)。

 彼らは「天才の中の天才」ゆえに子供の頃から、大人からみても「金になる!!」子供であったのです。今でいうスケートの浅田真央ちゃんのように、あまりの「天才」に幼少時から大人が群がってきたのです。だからこそ、ビジネスとしてなりたったし、ティーンネイジャーで世界制覇できた。これは「スポーツ」や「芸能」の世界の出来事としては非常にわかりやすい例です。

 でもジョージ・マイケルは違います。高校生くらいまで、普通の音楽好きのあんちゃんです。友達とだべったりしながら、普通の若者らしいどうでもいい青春をやっていた。親にすら「お前は才能ないんだから就職しろ」と怒鳴られていた。映画館でバイトしてました。
 それが、アンドリューという「気のいい友人」をパートナーに選んで、19歳でデビューし、いきなり2年で世界を制したのです。これはすごい。この人こそ本気で「天才の中の天才の中の天才」なんじゃないかと、ぼくは思う。

 その辺のにいちゃんが、はじめて泳いだ水泳で世界一。
はじめてスケートはいたら4回転ジャンプ出来てしまった、みたいなものです。

 マイケルもスティーヴィーも自分の作詞作曲アレンジで活躍するのは19歳くらいから。それまではモータウンの世界最高のスタッフやプロデューサー、ミュージシャンと仕事をしてプロの現場で色んなものを吸収していました。
 ジョージ・マイケルは違う。最初からワム!は、マネージメントはともかく、音楽的には彼のコントロール下にあった。そしてあのアンドリューとのふたり揃ったルックス。さながら、イギリス版ジャニーズ・アイドルのようなものだが、ポップスメイカーとしてのクオリティは超ド級だったのだから、アンドリューも含めて、ワム!すごいなぁ。
 ワム!を評して、アンドリューが無能だなんだというコメントはよくあるが、ジョージが異常なだけである。アンドリューが無能なら世界中の「アイドル」すべてが無能になってしまう。もちろんそんなことはない。「若くてかっこよくてチャーミング」というのは、何よりも才能の賜物なのであるから。
 
 さて、ワム!には驚くことばかりだ。彼らのオリジナル曲はなんと、わずか21曲。アルバム2枚分のみ。効率よすぎ!!ほとんどがベスト版に収まっている。すげー。
 21歳で「ラスト・クリスマス」、23歳でワム!解散ですよ。そして、その後のソロ「フェイス」でも記録的なヒット。あの顔と内容でまだ24歳!!!気が遠くなりますね。あぁ。

 あの自作自演の天才プリンスですら、かなり時間をかけてスターの階段をのぼったというのに・・・。シンガーソングライター、アーティストとしてありえないほどのスピードで、ジョージ・マイケルは成功したのでした。

 
 ただし、この効率の良さが、彼を結果的には苦しめることになるんですよね・・・。今回の映画を見てても、80年代に彼の才能が時代と密接にリンクし過ぎたことが、その後の苦悩の元になっているのがわかります。

 ただ、90年代以降の楽曲もやっぱりすごい。
 ほんとジョージ・マイケルはすごいですね。シンガーとしても最高です。ぼくの理想です。

 特によくわかるのが、クイーンのフレディ・マーキュリー追悼ライヴでの熱唱、あれなんかほんと素晴らしい。映画で改めてみて、ガーーーンと感動して涙が出そうになりました。これぞ「歌」という感じでした。

 ジョージの映画、ぜひ観に行ってみてください。DVDとかなるかもしれませんが、あの大群衆の前のライヴ感とか大画面で味わってもらいたいです。

2006年01月10日
西寺郷太