再録:2004年11月「ギャグとわたし」 | ノーナ・リーヴス オフィシャルブログ「LIFE」Powered by Ameba

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西寺郷太・奥田健介・小松シゲル NONA REEVES

 ギャグを言うのが好きだ。ただ、ギャグにも色々あって、文章で読んで面白いものもあれば、音で聞いて面白いものもある。そして、画像やその場の瞬間と完全にリンクしてギャグが完成する場合もある。

 今日は、わたしの短くはないギャグ人生の中で「もっとも神が舞い降りた瞬間」について書きたいと思う。文章では伝わらないかもしれないが、全力で「あのムード」の実況中継にトライしてみたい。

 忘れもしない。あれは3年前、日韓ワールドカップが行われる直前、5月のこと。その日は、朝から驚くほどいい天気だった。 

 わたしは普段からいつもギャグを考えている。もちろん当時も色々自分なりのギャグ・ヒット・チャートがあって、その時のベストテンに入っているギャグに「比較的カクテキ」というものがあった。もともとは音とリズムだけで面白いと判断し、レコーディングのチェックなどの時に「比較的カクテキ、最初にやったベースラインの方がいいね」とか、そういう使い方をしていた。
 まぁ、いわゆる小ギャグというやつである。周囲の「あいつまたなんか言ってるなー」ぐらいの反応を要求する、生活の抑揚としてのギャグ。

 その日、わたしは弟と一緒に自宅近くのピーコックまで買い物にいった。すると二階の真ん中のスペースで「W杯記念キムチ・フェア」なるのぼりを掲げたおやじ(以下:「味平」)が真っ赤なキムチや漬け物類を売っていた。あの独特の強烈な匂いが周囲に広がり、色も本場っぽいドギツイ感じで食欲をそそったので、わたしは立ち止まった。
 わたしはスーパーやデパートの実演販売や、特設店舗で販売をしている人々に異様に弱い。デパ地下などで毎日普通に売っている店や人には全然なんとも思わないのだが、よく行く西友やサミットのエスカレーターをあがったところなどで日替わりで食品や便利グッズを売っている人なんかには採点が甘くなってしまう。

 なのでこの日も買う気はまんまんだった。とはいえ、すぐに買ってしまってはせっかくの対面販売の醍醐味が薄れる。わたしはいくつか試食させてもらいつつトークを交わすことにした。周りにはおばさん達がちらほらと集まってきていた。
 この瞬間、10人ほどのお客と、50代の売り手の「味平」というひとつのコミュニティがうまれた。数種類のキムチやカクテキを囲んでみんなの気持ちがひとつになった。自然と「味平」はその場のリーダーにわたしを任命し、わたしもその役をあうんの呼吸で引き受けた。
 わたしはちょっとづつ彼が出すキムチを試食しては「うまいっすね!!」、「なるほどなるほど」、「これもいいですねぇー」などと論評した。おばさん達は声には出さないが、「息子たちに買っていきたいけど、この兄ちゃんがおいしいって言うならそれ買っていこうかな・・・」と考えているようだった。
 わたしは当時28歳だったが、あのおばちゃんからは実年齢より若く見えたと思う。「若者代表」としてうってつけのリトマス試験紙だったのだろう。

 「味平」はキムチをいくつか食べさせた後、カクテキをわたしにすすめた。審査員であるわたしがカクテキをコリコリと食べ終わるのを、周囲の人々はかたずを飲んで見守っていた。
 ゴクリとのど仏を通過したのを見届けて、「味平」はたずねた。「兄ちゃん・・・。キムチかカクテキどっちが好きかな・・・?」

 わたしの体にゾクゾクゾクっと稲妻が走り抜けた。え?もしかして、このタイミング!!!!えええ!!!まさか!!!!まさか、こんなまたとない空気感の中で「カクテキをなにかと比較できる」なんて!!!!!
 そこにいた全員がわたしの顔を見た。わたしは私生活、ステージでの長年の人を笑かす経験をふまえ、自己ベストの最高にオモロイニヤニヤしつつも威厳を持ったトーンで答えた。
 「ぼくぅ、比較的・・・カクテキの方が好きなんで・・・エヘヘ、カクテキで!!(きっぱり)」。

 「味平」は「比較的カクテキて・・・兄ちゃん・・・」と言うのが精一杯だった。約1秒の沈黙の後、周囲のおばさん達が笑い転げはじめた。一緒に買い物にいった弟も「こんなタイミングってあるの・・・??!!!」という表情で、おなかを抱えて爆笑していた。
 笑いが伝播してみんなヒクつき、膝をついている人、泣いている人もいた。息が出来なくなったのか「助けて」と言う声まで聞こえた。見知らぬ者同士が目を合わせ、肩を持たれあわせ、手を叩きゲラゲラ笑っている・・・。

 わたしは今でも、あの日のことを1日に2回くらい思い出し、思い出し笑いをしてます。

2004年11月
西寺郷太