対岸の戦友(改訂版) | 試みの水平線 【道北旭川発 最近わイトウ釣り日記】

試みの水平線 【道北旭川発 最近わイトウ釣り日記】

のむ子でございます。
北海道の上のほう、道北旭川でニジマスをルアーで付け狙っておる自称「ニジ屋」で御座いますが、現在サボってイトウ遊びちう(^q^)

試みの水平線 【道北旭川発 ニジマス釣り日記】-100610_1947~02.jpg




この話を書いてから約20年。読んでほしい友人からのリアクションは無かったのですが、インスタグラムに拠点を移した今なら友人に届くかもしれない。



これは僕から友人へ宛てた私信です。








どうも のむ子ですよ。


最近は仕事が忙しく、釣りもままならないのでヒマ潰しに思い出話を少し。



釣りをしてると妙によく会う奴っていますよね。場所や時間を変えても何故か出会っちゃう奴。

彼と最初に出会ったのは三年に及ぶホームリバーでの修行の旅の序盤。川はまだ豊かで、俺のルアーボックスにブレットンとオークラ(クルセイダー)しか入ってなかった頃。







山深い源流から始めた修業の旅はまだ数km地点。小さな流れが沢の水を集め、少し水量が増え出した渓谷の淵。その対岸から現れた同年代のルアーマン。


狭い渓流で剣道の面を打つような可笑しなオーバーヘッドキャストを繰り返す彼は明らかに初心者。

しかしこちらも1000番手の中古のナビに14lbのラインを巻いているようなド素人。相手が初心者だなんて気付くはずもありません。



その時はただ『俺が見つけたポイントだ!負けてたまるか!』と妙な対抗意識を燃やし、言葉を交わすこともなく素人二人で日が暮れるまでキャストを繰り返しました。


結局その日はボウズで『アイツが来たせいで釣れなかった!』と不機嫌だったのを憶えています。どうせ一人でも釣れなかったくせにね(笑)






それ以来、彼とは最低でも月に一度は出くわすようになります。しかも何故か決まって対岸から現れる。


『またアイツだよ!』



二人共互いを意識して絶対にポイントを譲らず、時間が無くなるまで競うようにロッドを振りました。


アイツには負けたくない一心で様々な事を考えて考えて、試し、失敗し、また試し、時に技を盗み合い、たまに互いのライン絡ませ、釣れたら『どーよ!』と言わんばかりに相手を見やる。




そんな奇妙なライバル関係の素人二人も、三年も経つ頃には身なりも技術も一端のルアーマンに。そりゃあ朝夕問わずに毎日毎日、何年も、飽きもせず懲りもせずに釣りばかりしてりゃ当然ですがね(笑




ホームセンターで1980円で買ったような変なルアー竿を使っていた彼も、スカジッドデザインズのサスペンド(ロッド)を片手に、得意の高速トゥイッチで次々とデカニジを釣り上げる強者に。


対する僕もジャーキング主体に無理矢理リアクションバイトに持ち込むというスタイル(現在では遠い過去の話)を確立していました。






その頃になると釣り方にも余裕が出てきて、それなりのサイズが一匹出れば満足するようになっていた僕。



しかし彼が対岸に現れた時だけは違います。持てる技術の全てを投入し、なにがなんでも彼より1匹でも多く!1センチでもデカイ魚を釣る!向こうも同じで一歩も引きません!


僕が1匹釣れば、彼は立て続けに2連発。僕が流芯の底からジャークでデカニジを引っ張り出せば、彼は得意の高速トゥイッチでデカニジを下から食い上げさせる。



どちらかが居なくなるまで意地の張り合いは続き、一つの淵から二人で100匹近い魚を出した日もありました。






そんな二人が休日の人気ポイントで出会ってしまったら大変です。たまの休日にやってきたサンデーアングラー達が肩を落としているのを尻目に、このホームリバーだけに特化した二人が次々と魚を釣り上げて行きます。




「おお~い!今のデカイかァ~い!?」


『ダメだわー!49ゥー!そっちわー?』


「59ゥ~!!!」


『なんやてーッッwww』


そんな会話を対岸の彼と大声で叫び合う。居合わせた他の皆さんはたまったもんじゃなかったでしょうね(笑)




しかしそれまで彼と話した会話と言えばそんな程度。いつも対岸にいたのでまともに話した事などありませんでした。






結局その日は二人で30匹ほど釣ったでしょうか。対岸の彼は珍しく明るいうちに引き上げ、茹だるような暑さの中で独り川に立ち込んで釣りを続けていると不意に後ろから声を掛けられました。



振り返るといつも対岸に居た彼が立っています。予想外の展開に驚く僕に冷えたビールを差し出しながら「飲めますよね?」と笑う彼




真夏の青空の下、川辺でビールを飲みながら今までの思い出を語り合いました。


目の前でデカイのを釣られて悔しかった事や、いつの間にか見たことも無い技を使うようになっていて焦った事。


いくら話しても話題は尽きず、あっという間に日は傾いてゆき、夕焼けが山の稜線を黄金色に照らす夕まずめの時間。




『なんで今日に限って話しかけてきたのさ?』何気なく訊いた僕。






「来週…………転勤なんだよな。」


そう言うと彼はおもむろに立ち上がり、ライズが始まった川にチップミノーをキャストします。


いつも対岸から眺めていた小気味良い連続トゥイッチを間近で見ながら、僕は複雑な気分でした。


これだけ愛してやまないホームリバーを離れなければならない彼に、果たしてどんな言葉をかけるべきなのか………






長い長い沈黙。僕が次の言葉を探していた時、静寂を破ったライズの爆音と共に水面が割れた!!!




サスペンドが鋭く風を切る音。


使い込まれてスリ傷だらけのセルテートからラインが引きずり出されて行く。


嫌がって跳ねた虹鱒の巨大なシルエット。とてつもなくデカイ!


「ヨッッシャーーーッ!!!」



夕暮れの川面に彼の歓喜の声が響き渡った。




あ~あ。かなわねえなコイツには。ちょっと心配して損したぜ(笑)

‥…いや。心配なんかいらないさ。僕達は雨の日も風の日も。氷点下の朝も台風の夜も。雪代の春から渇水の厳冬期まで。あの川で毎日毎日ロッドを振り続けた




『 デカイ虹鱒を釣る! 』ただそれだけにベクトルを定め、それ以外の生活の全てを投げうった日々の中で掴んだ知識と経験で。
全てを犠牲にして必死で勝ち取った技術で。彼はこの先も大物を引きずり出して行くだろう。






あの夏、まだホームリバーが豊かだった頃。必殺の高速トゥイッチを武器に難攻不落の急流に挑み続けた一人のルアーマンがいました。


僕と同じ時間をあの川で過ごし、最後に70センチのスーパーレインボーを釣り上げてホームを去って行った僕のたった一人の戦友です



昨日、その時に貰った古いチップミノーを見つけて彼のことを思い出しました。




今年の夏は思い出のホームリバーへ。あの熱い急流へ少し戻ってみようと思いました。