2011年9月にある情報誌に寄稿した一文です。

 

Chiaki 未来待ってる

Makoto うん――すぐ行く。走って行く

 

不完全な存在として生まれた

 

SF『時をかける少女』(角川文庫)は、もともと、今はなくなってしまった中学生向けの学習雑誌に連載された小説です。

戦後の日本を代表する作家の一人筒井康隆(つついやすたか)の手になるもので、発表されたのは半世紀ほど前にあたる1960年代のこと。

もはや古典みたいなもんだね。

 

原作者自身は、こうした学習雑誌における執筆活動について「書いていてちっとも面白くない」(『腹立半分日記』)と率直に記しています。

この作品は必ずしも幸せな環境の中で生まれたわけではなかったんです。

 

確かに、ブラックユーモアをちりばめ、アンタッチャブルな世界を好んで描いてきた小説家にとって、いわゆる「教育上の配慮」なるものを常に考慮しなければならない雑誌に文章を書くのは、苦痛で仕方なかったかもしれないですね。

「建て前」や「きれいごと」をとにかく優先するよう求められることも多くて、僕も時々、授業中に暴言を吐きたくなるから(というか吐いてるし(笑))。

 

それはまあいいことにして、このタイムリープ(時空移動)をテーマにしたSF小説は、執筆の際に課されたある種の強い制約や不自由さ・違和感によって、逆に強烈な生命力と波瀾万丈の運命を授かることになりました

 

「少女」は時をかけつづけた

 

『時をかける少女』が最初に映像化されたのは、沖縄返還と日中国交正常化が実現した1972年(どちらも入試頻出事項だね(笑))。

NHKが放映した「少年ドラマシリーズ」でのことでした。

 

「タイム・トラベラー」(浅野真弓主演)と改題されて大好評を博し、すぐに続編(石山透脚本)が作られています。

以降、これほど映画やテレビの素材にされた現代文学は他に見あたらないんじゃないかと思うくらい、多くの映像作品が制作されてきました。

 

この記事をまとめるために、ちょっと真剣に調べてみたんだけれど、すでに4回も映画化されていて、あらためてビックリ。

ここにはとても書ききれない感じです。

 

最新作は2010年公開の「時をかける少女」(谷口正晃(まさあき)監督、仲里依紗(なかりいさ)主演)で、もっとも代表的な作品をあげるとすると、今のところ大林宣彦(のぶひこ)監督の「時をかける少女」(原田知世(ともよ)主演、1983年公開)ということになるんだろうなあ。

2016年にもテレビドラマ化された(黒島結菜主演)。

 

できるかもしれないよ!

 

今回とりあげたのは、劇場版アニメーション「時をかける少女」(細田守監督、2006年公開)の中の一節です。

 

http://promo.kadokawa.co.jp/tokikake/より

 

原作の世代を次に移して制作されていて、未来人ケン・ソゴルのゆくえはわからないままだけれど、ヒロインの高校生芳山(よしやま)和子は博物館で古い絵画の修復にあたる不思議な「おばさん」になって登場してきます。

 

舞台は倉野瀬高校という丘の上にある架空の学校。

まず冒頭、空から目覚まし時計が降ってきます。

 

この映画に欠かせない理科実験室、妹に食べられてしまったプリン、何度も何度も繰り返されるカラオケ、ブレーキが壊れて止まらない自転車、危機を告げる商店街の「からくり時計」、投げつけられる消火器、重大なことを教えて飛んでいく「てんとう虫」……。

 

気ままにタイムリープを楽しんでいた天然系ヒロインMakotoは、自分の無邪気な行動がもたらす事態に遭遇して衝撃を受け、少しずつ少しずつ何が大切なことなのかに気づいていきます。

 

あまり筋書きには触れないほうがいいよね。

 

ここでは、未来に帰らなきゃいけない男子高校生Chiakiと、もう跳べなくなったヒロインが交わした会話を紹介してみることにしました。

 

夏休みを目前に控えた夕暮れ、首都高速(だと思う)の下を流れる川沿いの長い土手が背景になっていたかな。

 

明日からもう会えないはずなのに、それでもどこかで再会できると素直に信じていて、「ひょっとしたら」という可能性を感じさせてくれた。

それはMakoto自身が選択した、どうすることもできない別れの場面であるはずなのに、ほのかな、でも確かな希望が見える気がしました。

 

それにしても、おじさんが未来待ってるなんて言ったら、洒落(しゃれ)にならない。

やっぱ高校生っていいなあ。

 

こんな無責任なことを言うと、「いいことなんてちっともないっすよ」という声が聞こえてきそうだけれど……、まあ否定はしないよ。

生きていれば「つらい」と感じることもしばしばだし、今がどのくらい素敵な季節なのか、結局のところ皆さんはなかなか実感なんてできないものです。

 

でもね、高校生活が終わってしばらくしたらわかるよ、必ず。

それだけは信じてください。

 

未来待ってる

 

挿入歌:変わらないもの(奥華子)

奥華子フィシャルブログ:https://ameblo.jp/kokoroletter/

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