へえ、前に来た時よりずいぶん発展している気がする。

 

 

 地表よりは随分深い場所に位置するはずのシェルターに数年ぶりに訪れることになった。

 

 

「そりゃ、少しは何か進んでてもらわなくちゃ、俺らの苦労が報われねえじゃねえか。」

 

 

 天井まで伸びる新たな構造物に目を輝かせていると、部隊のおっちゃんが口元は笑いながらも目は真剣そのものでそっと語り掛けてくれる。

 

 

 あれからまず父に相談し、それから集落の長へ、さらにはシェルターとのやり取りを通じ、今集めてある資料や資源と共に部隊を編成したうえで、こうしてやってきたのだ。

 

 

 そんなに距離は遠くはない。
歩いて一日もかからないくらいだ。

 

 

 正直、生き残りがどのくらいいるのかは把握されてはいない。

 

 

 今もどこかで生き延びている人たちはいるだろうが、海に沈んだかつての文明の遺構を辿るには、今の我々にはあまりにも力不足だからだ。

 

 

 もしかしたら、ここのシェルターよりもはるかに進んだ基地があるかもしれない。

 

 

 そう思わせてくれるのは、円筒形の天井まで高々と伸びる支柱にしては、何か様々な機械が埋まっているものを目の当たりにしているからだ。

 

 

 かつて人間は宇宙にいるどこかの誰かと通信を試みようとしていたらしいが、今はこの地のどこかに生存しているはずの誰かと通信を試みようとしている。

 

 

 かつて人工知能が存在していたことも書物からわかっている。電力と部品の研究が進めば、再び叶わないものではないはずだ。

 

 

 そういえば、ユカがずいぶん静かだな。

 

 

 今回は女性4名を含む、合計10名でやってきた。

 

 

 シェルターには個室というには少々狭い、大人一人ならゆっくり横になれる居住、宿泊スペースがある。

 

 

 キャビンと表現した方が伝わりやすいだろう。

 

 

 多人数だとどうしても大部屋で生活を強いられることになることから、あらかじめ定員を決めておくことにより、それぞれがストレスなく滞在できるようにしているのだ。

 

 

 そのため、このシェルターに訪れることをちょっとした旅行のように楽しみにする人たちも少なくない。

 

 

 もし、他の場所にだって小さいながらもシェルターを建造できれば、もっと多くの人が心安らかに生活することができるだろう。

 

 

 絵本で見るような、青空の下でのびのびと生活できるのであれば、そもそも必要がないのは言うまでもないが。

 

 

 残念だけど、今のこんな世界じゃどうしようもない。

 

 

 

 さて、シェルターには様々な物資や情報がまた集まっているはず。

 

 

 今回はどんな滞在になるだろう。楽しみだ。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年7月13日にnote.comに掲載したものです。

 

 

 

 長い間世界は厚い雲で覆われている。

 

 

 それまでは青い空とまばゆい太陽の光で満ちていたという。

 

 

 気象の大きな変化に地上の生物は対応を迫られ、変化できない者は滅びていくしかなかった。

 

 

 さらに悪いことに、それまでの文明を支えたプラスチックの小さな破片や粉が生きにくくしてくれるのが厄介だ。

 

 

 

 ここから北東へしばらく進んだ先にはかつての気象観測所があって、そこには大量の紙を使った資料が残されている。

 

 

 当時は文明がとても発達していて、空飛ぶロボットが様々なものを運び、情報に至っては遠く離れていても瞬時に伝わるような世界だったと。

 

 

 衰退して後退した今の私たちは、それをどのようにして実現していたのかまるで見当もつかないファンタジーな世界に思えるが、存在していたというのだから信じられない話だ。

 

 

 それがなぜ、こうなってしまったのだろうか。

 

 

 

「ほい。」

 

 

 熱っい!

 

 

「大げさね、そんな熱くないでしょうに。」

 

 

 アルミ缶詰をふいに頬に当てられたもんだからつい大きなリアクションをしてしまった。

 

 

 中にはミンチ肉のようなものが詰まっているが、ほぼ大豆で出来ている。魚や肉はかなり貴重なため、それに混ぜる形で加工される。

 

 

 どんな仕組みなのかわからないが機械で行われるから皆助かる。

 

 

 

「なんでだろうねえ。」
 

 

そう明るくもため息交じりにこう言うのは、幼馴染のユカだ。

 

 

「なあに?またどうしようもないこと考えてんの?」

 

 

 

 なぜ自分たちがこんな世界で生きていかなくちゃならないのか考えたっていいじゃないか。と言いたいところだが、実際どうしようもないのだから返す言葉もない。

 

 

「そりゃ、ご先祖様たちが好き勝手やった結果かもしれないけどさあ、うちらがいくら恨んだところで変わんないよ?」

 

 

 ごもっとも。
でも、死ぬまで"粉"におびえる生活は何とかしてもらいたいなあ。

 

 

 

 「そうだねえ。全部溶けちゃえばいいのにねえ。」

 

 

 

 ほぼ毎日厚い雲で覆われた世界なので、平均気温は零度を下回る。
人は温かい地中か横穴で過ごす。

 

 

 まるでかつていた動物たちのよう。

 

 

 ただ、こうなることを予見した一部のご先祖様は、せめて生き残れるようにと当時の技術で様々な道具たちを遺してくれた。

 

 

 せめてもの償い、申し訳ないというメッセージと共に。

 

 

 

「ねえ、そろそろ街に行っていいんじゃない?」

 

 

 そうだなあ、相談してみようか。

 

 

「やった」

 

 

 

 街というのはシェルターの事だ。

 

 

 そこには百人近くの人達が住む。

 

 

 食糧や汚水処理が間に合わないため、技術を持つ人ばかりが住む。残りは狩猟や調査、汚染の処理をするために各地へ散ったというわけだ。

 

 

 シェルターの複製が叶えば、各地に拠点が作れる。

 

 

 皆、それを目標に希望にして生きている。

 

 

 風前の灯である人類が再び力を取り戻すとしたら、まずそこからだ。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年7月6日にnote.comに掲載したものです。

 

 

 このどこまでもどんよりと続く雲が晴れることはあるだろうか。

 

 

 目の前に広がるウミと、水平線までには崖が上陸を阻む島々がちょこちょこと顔を出している。

 

 

 こちら側はというと、かつてサンミャク山脈と呼ばれていただけあって、ここからしばらくは上りが続き、山を越えて向こう側に出れば、また違う海が広がっているらしい。

 

 

 今こうして見ているように、もっと高いところからこの地を見わたすことが出来たならば、それはそれは大きな島なのだろう。

 

 

 かつての文明が残してくれた道やトンネルがそれぞれの集落を繋いでくれていて、ところどころ崩れていたり、大きな岩に行く手を遮られたりはするものの、何とか残された人間で通れるようにと頑張って維持をしている。

 

 

 集落といっても、トンネルや洞窟を掘って身を寄せているだけ。

 

 

 さすがに年中この寒さ。
ウミこそ凍らないが、水はたちどころに凍ってしまう。

 

 

 晴れることの無い、どこまでも続く分厚い雲が原因だ。

 

 

 

 南から来た旅人の話によれば、たまに分厚い雲が薄くなり、そこから光が差し込むことがあるという。

 

 

 そうするとたちまち世界が明るくなり、地平線の向こう側まで見渡せるように視界が広がる。

 

 

 そして、なんとも言えない温かさに身体が包まれるという。

 

 

 そんな時間が長く続けばいいが、その後は決まって豪雨と雷に悩まされるから、結局は外でのんびりと生活は出来ないらしい。

 

 

 

 問題はそれだけではない。
今や世界を覆いつくしているのは分厚い雲だけではないからだ。

 

 

 少量なら他愛もない、吹けば軽くふわふわと舞う不思議な粉が世界の地を支配している。

 

 

 水に浮き、風に舞い、そして人間やその他の生き物が呼吸するに欠かせない大気の中に絶えず存在する厄介ものだ。

 

 

 言い伝えでは、この粉は「プラスチック」と呼ぶらしい。

 

 

 

 地中でも分解されず、干ばつが起きれば地中から思い出したかのように吹きあがり、気流に乗って世界を巡る。

 

 

 なので、外にいるときは目から下を布で覆わなければならない。

 

 

 簡単にずれないように、しかし息苦しく無いように二回巻きちょっとしておくとまず大丈夫だろう。

 

 

 「粉嵐」なら目まで布で覆いたいところだ。
もっとも、そんな時はただちにどこかの空間に逃げ込む必要がある。

 

 

 一粒一粒はとても軽い。
 取るに足らないなんでもないものだが、あれを吸い込んでしまえば二度と体内から取り除くことができない。

 

 

 渦を巻いて舞うのを見たら、すぐに焼いてしまえ。
そう子供の頃に誰もが教わる。

 

 

 海岸に集まり水面に浮いているのを見かけたら、何でもいい、布をかぶせ集めて引き揚げ、乾かして布ごとすべて焼き尽くせと教わるのだ。

 

 

 二度と舞うことの無いようにと。

 

 

 

 時折、風が顔を強く吹き付ける。
パチパチ、カサカサと。

 

 

 しかたがない。

 

 

 今日はそこの横穴で夜を過ごし、これが乾くのを待とう。
何としても燃やしておかないと。

 

 

 こんな地道な努力は、報われる日が来るのだろうか。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年6月29日にnote.comに掲載したものです。

 

 人が人工知能技術の発展で得られたものは、自動化と膨大な量のデータを処理してくれる便利な道具、だけではなかった。

 

 

 半導体の小型化や計算速度と能力を各国が競う。

 

 

 

 当然、突出した技術はそのまま軍の力にも見て取れるため、主義が異なる国にとっては脅威以外の何物でもないからだ。

 

 

 また、プライドが高い民族は一度世界の頂点に立つと、その座を必死に守ろうとするだろう。

 

 

 そのため、他者からの干渉を異常に嫌う。

 

 

 国が、ひいては党が認める"優秀な"人物たちの指導の下、人命よりも社会秩序の維持を優先する体制を貫く国家がかつてあり、一時は大変な経済発展を遂げた。

 

 

 トップダウンだからこそ、素早く成せることだってある。

 

 

 世界的な感染症が流行れば都市や地域すら、指導部の一声でいち早く封鎖でき、逆らえば逮捕できる。

 

 

 高速鉄道の機械的な問題によって起きた正面衝突という大惨事は、ろくな調査もすることなく、その場に地中深く埋めるという驚きの解決法を見せた。

 

 

 とある市内の交差点が陥没崩落し大穴が出来た時は、巻き込まれた自動車や多数の遺体をそのままにしたまま道路の復旧を優先させるという、なかなかの大技も見せた。

 

 

 人命よりも社会秩序の維持が重要だからだ。

 

 

 

 民主的な選挙という概念が無いため、一度上役に睨まれるとその後の人生や命に関わるばかりでなく、家族や親族にも塁が及ぶ。

 

 

 しかし、よく考えればそれまであった王朝、皇帝の支配社会をそのまま引き継いだようなものだろう。

 

 

 国民も慣れたものだ。
例えば自分たちが何を話しているのか、周囲にもよく聞こえるように話す。

 

 

 なぜだろうか。

 

 

 簡単だ。悪口を言っていたと密告されかねないからだ。

 

 

 自由な国に住む人たちからしてみれば、彼らに接した時の大きな声はまるで怒っているかのように聞こえる。

 

 

 しかし、彼らにとってはいたって普通であり、それが常識なのだ。

 

 

 

 そんな国で人生を送るならどうしたらいいだろうか。

 

 

 それは若い時は勉学に勤しみ、品行方正であって、"党員"資格を持つことに尽きるだろう。

 

 

 当然、下手なことは出来ない。

 

 

 技術が発展した21世紀初頭には、いよいよ人工知能も登場したため、膨大な量の情報をより早く、それも正確に捌けるようになった。

 

 

 至る所に文字通り番人のごとく、監視カメラが街の秩序を24時間守っていることを忘れてはならない。

 

 

 

 インターネットには間違っても政治的な批判など絶対に書いてはならないだろう。

 

 

 そこまでして積み上げたキャリアだ。

 

 

 ちょっとした失敗も、ましてや部下の責任を取るなんてことはできるだけ避けたいもの。

 

 

 出世争いを家の名誉に懸けて、子のためにも一生続けなければならない。

 

 

 少しでも嫌われていれば、例え事件と関係が無くても、競争相手から秘密裏に何かの責任を負わされてしまう。

 

 

 そんなことになれば死んでも死にきれない。

 

 

 

 一番コスパが良いのは贈り物だろう。

 

 

 袖の下は大変に有効な手段だ、バレなければ。

 

 

 

 海外旅行も気をつけなければならない。
帰国後に他国のスパイだと疑いをかけられないように。

 

 

 疑いをかけられたら最後、潔白を証明できなければ相手の思うつぼだ。

 

 

 もし、都合の悪いことが起きたら?

 

 

 君なら素直に報告できるか?

 

 

 ここまで苦労して積み上げたキャリアをドブに捨てるのか?

 

 

 良心?そのあとの地獄に耐えられるのか?

 

 

 

 都合の悪いことは徹底的に秘密にするしかない。

 

 

 バレたらバレたで仕方がない。

 

 

 何が何でもバレない方に賭けないと、自分だけじゃない。
一族まとめて路頭に迷う事になる。

 

 

 

 そういえば、20世紀後半に秘密が秘密を呼んで、最悪の事態になった原子力発電所があった。

 

 

 チェルノブイリだったか。

 

 

 我々の社会は一体どこに向かっているのだろうか。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年6月22日にnote.comに掲載したものです。

 

 奥さんの実家に住めるという男性はどのくらいいるだろうか。

 

 

 農業が中心の貧しい社会から発展を遂げ、一人一人が会社に属することで生活ができるようになった。

 

 

 国には、給料という実に明確な所得を得る人が多くなればなるほど税金を取り逃すことが無くなるというメリットがある。

 

 

 また、農産物で高い所得を得ることはそう簡単なことではない。高度な工業や商業を産業として持つことで、全体の所得向上につながるわけだ。

 

 

 所得が向上すると、割合で決まる税金も当然増える。

 

 

 そうして、この国は発展してきた。

 

 

 

 貧しい時代や、今も発展途上国としてある海外の農業国も、畑が無くては生きてはいけなかった。

 

 

 先の大戦から高度経済成長を遂げ、21世紀前半にはすっかり就職することが当たり前に定着した頭からは想像が難しいかもしれない。

 

 

 先祖代々受け継がれてきたものは、藁ぶき屋根の家と何とか家族が食べてけるくらいの作物を産み出し続けてくれる畑だけ。

 

 

 山があればまだいい方だ。

 

 

 お金なんてものは街に出れば手に入るかもしれない。

 

 

 鶏は重要なタンパク源なので、減らしすぎないように気をつけないと、卵すら食べられなくなってしまうだろう。

 

 

 

 畑は広ければ広いほど作物が取れる。

 

 

 でも、すべての野菜を作る事はできない。

 

 

 なので地域に住む人との物々交換のための作物が必要なのだ。

 

 

 

 そうやって、乳牛を持つ家とは牛乳と交換したり、自家で作っていない作物と交換したりして食卓を豊かにするしかない。

 

 

 そのための畑の維持にも労働力は欠かせない。

 

 

 だから、子供は重要な労働力になる。

 

 

 8人兄弟なんていう家も珍しくなかったのはそのためだ。

 

 

 

 男の子が産まれなかった家は絶えてしまう。

 

 

 そのため、跡取りとして他の家から養子を迎えることも珍しくなかった。

 

 

 兄弟が多い家がほとんどなので、長男がいる家から迎えればいい。

 

 

 女の子しかいない家は、婿むこを跡取りにできる。

 

 

 そうやって代々受け継いできた家と畑を、子々孫々食うに困らないように、また自分の代で家が終わらないようにそれぞれが役目を果たしてきたのである。

 

 

 

 多くの主義が世界を取り巻いているようだが、次に大きな戦争ともなれば、またそんな時代に、いやそれ以上に厳しい時代になるのかもしれない。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は 2024 年6月15 日にnote.comに掲載したものです。