「マスコミが適当な事を言ってるからって、じゃあ個人も適当な事を言っていいっていう免罪符にはならないんだよね。」

 

 

 由美さんが珍しくそんな本音を語っているところだが、それはそうで、そんな人に集まる人もどうかと思う。

 

 

 あれから事務所を出て、せっかくだから3人で何か食べていかないかという話になって、ちょっと高そうなお店に入ったのだ。

 

 

「まあ過去のぬぐえない失敗をどうにかしようと、そんなふうにしか言い逃れ出来ないくらいに人間が浅いのは明らかだから、まだかわいい方じゃないの?」

 

 

 うん、かわいいかわいい。
まだいろんなのがいるから。

 

 

「基本的に関わらないのが正解だけどね。」

 

いやほんとそう。

「いやほんとそう。」

 

 

「――批判自体は仕方ないんじゃないの?」

 

まったく無いのも不自然だよねえ。

 

 

「一番格好悪いのは批判するだけ批判して、代替案を全く出せないクセに、なんかやってやった気になってるやつでしょ。」

 

 

「え?そんな頭悪いやついるの?」

 

「それも関わらないが正解じゃない?」

 

「そう。」
 

それはそう。

 

 

 

「――心理として褒めて欲しいのかなあ。」

 

「さあ?」
 

わかんないよね。

 

「すごいって思われたいとか?」

 

知らない 笑
 

「どうなんだろうね 笑」

 

 

 そうすることで、得られる何かがあるのかなあ。

 

「さあ?」
 

さあねえ。

 

 つまんなくない?

 

 

「大体、そんな人たちがまともにお金持ってるわけないでしょ。」

 

「それはそう。」

 

「やるだけいろんなものを無駄にしそうだね。」

 

「証拠だけ取って片っ端から裁判かけるとか?」

 

 

「あったね昔そういうの。」

 

「あったあった。」

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年9月21日にnote.comに掲載したものです。

 

 

 

 

 新しい何かを始めるのはいいが、それが本当に受け入れられるものなのかやってみるまでわからない。

 

 

 しかし、日本人は職人気質なところがあって、始めて作ってみたはいいが、結局それをどうやって売っていくのか現実的ではないところがある。

 

 

 良い意味では熱心だが、悪い意味では時間の無駄なのかもしれない。

 

 

 とはいえ、それがたまたま多くの人達の要求や欲求に合致した時、想像もしていなかった素晴らしい結果を産み出すこともあるから、頭ごなしに否定は出来ないだろう。

 

 

 

 由美さんは自身のウェブサイトを運営していて、特に時事や制度に関する記事を書いてきた人だ。

 

 お父さんであるおじいさんが、いわゆる"安楽死"制度に携わってきた中で、身内だからこそ聞ける話を聞いてきた影響が大きいからだという。

 

 

 それを子供として、ひとりの女性としての解釈を交えながら、独自の記事を書いてきた。

 

 

 もちろん反応はわずかなものだ。

 

 

 このまま続けて意味があるのかを考える日々を送ってきたと話す。

 

 

 

 流れが変わったのは、とあるただただ遺された遺族が国を相手に起こした裁判がきっかけで社会的に注目が集まったことだ。

 

 

 由美さんの活動は世間から無視されていたわけではなく、知られていなかっただけだった。

 

 

 まさに、それまでの活動の実績と実力が実を結んだのだ。

 

 

 全国の遺族とつながりを持つようになり、今では運営資金まで提供してくれる人まで現れたため、自分の役目、仕事として取り組んでいる。

 

 

 

 個人として取り組むのはいいが、一人では限界を感じていた。

 

 

 当事者の苦しみは同じ立場の人間にしか理解できないし、信じることも容易ではない。

 

 

 由美さんは、母親である真実さんがそうであったように、遺族としては同じ立場にあるから、出来ることが多いのだ。

 

 

 最近では、自分が赴くよりも近くの遺族を紹介したりして、コミュニティを作っているという。

 

 

 

 そんな日々を送る中、レンタルオフィスで出会ったのが藤沢さんだった。

 

 

 彼は、自分が所属する会社の設備を活用した新しい事業を探っていたが、なかなかこれといったものが無かった。

 

 

 

 これを会社として取り組むことは出来ないかと言う藤沢さんは、どうやらすっかりやる気らしい。

 

 

 しかし、これには社長が首を横に振った。

 

 

「個人としては尊敬する。
ただ申し訳ないが、自分の会社としてその活動は出来ない。」

 

 

 わたしもそうだろうなとは思った。

 

 

 政府が民主的に決めたことに意見する活動を、利益を追求するいち企業に過ぎない会社が業務としてやるべきではないだろう。

 

 

「もしやるなら非営利団体として、由美さんを代表として立ち上げた方が良いと思う。私ならそうするかな。」

 

 

 社長が続ける。

 

 

「その上で寄付をしてくれないかと言う話なら、改めて考えるかもしれない。そこまで文句を言われる筋合いは無いからね。」

 

 

 この言葉で今回の話の結論は出たようだ。

 

 

 

 時間はそろそろ夕方、窓の外がやんわりと赤い光に包まれている。

 

 

「ごめんね、
今、妻が入院していて、そろそろ外してもいいかな。」

 

 

 初耳だ。
そんな大変なことになっていたとは。

 

 

 もちろん、そうしてくださいと一同直ちに解散となった。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年9月14日にnote.comに掲載したものです。

 

 

 

 

「お、来たね。」

 

 

 自分の仕事を片付けて訪れた"本社"の事務所に入ると、社長が自身のデスクから声をかけてくれた。

 

 

 お疲れさまです、と挨拶を交わすと藤沢さんの姿を探す。

 

 

「ああ、今レンタルスぺ―スに迎えに行っているところだよ。」

 

 

 あれ?どなたかご一緒なんですか?

 

 

「そうだね、まあちょっと待ってね。」

 

 

 レンタルスペースは会議室や作業スペースを時間単位で借りることのできるサービスだ。

 

 

 雑居ビルを改造したもので、1階の受付を済ませると2階のオープンスペース、3階より上は事務所として月単位で借りることが可能な個室スペースも備えている。

 

 

 何より、デスクが備品として備え付けられているのが特徴で、申請すればインターネットに接続できるマシンも貸してもらえる。

 

 

 スタートアップや会議室だけ借りたいという場合、また資金繰りに厳しくビジネススペースを自身で持つことが出来ない人や、そもそもそういったスペースが日常的に必要ではなく、たまに借りたいという人たちに重宝されている。

 

 

 あれ、じゃあわたしがそっちに行けばよかったのでは、そう口に出そうかとしたところでちょうど帰ってきたようだ。

 

 

「お疲れさまです。あ、こちら入ってもらって。」

 

 

 社長も席を立ってその人を迎え入れる様子だ。

 

 

 新人さんだろうかと思っていた矢先、見覚えのある雰囲気の女性課と思いきやそれどころではない。

 

 

 他の誰でもなく、由美さんである。

 

 

 え?っともちろん驚く。

 

 

「あれ?どうして?」

 

 

 藤沢さんが紹介しようとしたところで、明らかに初対面のはずの2人がそうではないことに気づいたようだ。

 

 

「ひょっとしてお知合いですか?」

 

 

 知り合いも何も、お隣さんというか家族ぐるみの付き合いだったというか、帰ったら一緒にご飯を食べるような家族みたいなもんです。

 

 

 思わず早口で話してしまうほど、意外な展開だった。

 

 

 社長もおやおやと状況を理解したのだろう。

 

 

「世間は狭いもんだねえ」

 

 

 

 普段自宅で記事を書く由美さんだが、おじいさんもまだ元気だったころからそのレンタルスペースをとてもよく利用しているという。

 

 

 それだけではなく、そのレンタルスペースの運用会社は、経営相談事業にも取り組んでいて、1階の受付のフロアにはマーケティングや統計、事業計画の専門家が詰めている。

 

 

 また、税理士や弁護士などにもパイプを持ち、必要であればいつでも相談ができるような体制も整えており、由美さんの友人がそこに勤めているということもあって、たまに情報収集を手伝ったりしている。

 

 

 また、様々な人との出会いやつながりから聞いた話や社会の問題をテーマに記事を書いている、と由美さんが自己紹介をした。

 

 

 

 藤沢さんもレンタルスペースを最近利用し始めたらしく、オープンスペースで由美さんが使う端末の調子が悪くなって困っていたところに声を掛けたことがきっかけで知り合ったらしい。

 

 

 わたしと言えば、この意外な展開にただただ驚くばかり。

 

 

「じゃあ由美さん、これからどうぞよろしくお願いします。」

 

 

 社長のこの挨拶で、新しい何かが始まったようだ。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年9月7日にnote.comに掲載したものです。

 

 

 

 

 おはよう、ございます

 

 

 様子を探るように久しぶりに部屋に入ってみると、本当に久しぶりに自分一人のようだ。

 

 

 今日は藤沢さんもいないらしい。

 

 

 藤沢さんの自宅はわたしの自宅とはまったくの反対方向なので、事前に打ち合わせでもしない限り居合わせることはほとんどないだろう。

 

 

 

 機械の廃熱が気になるので、まずはそれを見て回ろうか。たまにセンサーが示す値が現状と違ったりすることがある。

 

 

 収納棚もわたしがやっていた頃よりむしろ細かく仕訳けられていて、藤沢さんの性格が見て取れる。

 

 

 そうか、こうしたほうがいいのか。

 

 

 生活のクセもこういう何気ないところに出ちゃうんだよなあ。

 

 

 

 監視カメラでモニタリングしているのが人であれば、むしろ後から来た男性、下手に若い女よりもよほど丁寧じゃないか、なんて言われそうだ。

 

 

 人工知能が発達した社会で良かった。

 

 

 そう思うと余計に何か負けた気がしてならない。

 

 

 

 特に問題は無さそうだし、しばらく様子を見てチェックリストで報告すれば、今日はもう帰宅してもよさそうだ。

 

 

 そう思ったところでハンドバッグの中の端末が振動している。

 

 

 なんだろう、藤沢さんだ。

 

 

 

 今日は社長の事務所にいます。申し訳ないのですが、そちらが済み次第来ていただいてもよろしいでしょうか、とある。

 

 

 あまりない藤沢さんからのお呼び出しに、いよいよ今度はわたしがいなくなる番だろうかと少し身構えてしまった。

 

 

 いやいや、それならもう少し社長からもそういう相談があるはず。そう気を保とうとするが、どうも落ち着かない。

 

 

 『わかりました、終わったら行きます。
今から一時間くらいで着けると思います。
なんだか少し怖いです。』

 

 

 こう付け加えざるを得ない。

 

 

 すると、
ああ、あの新しい話の件です、とすぐに返ってきた。

 

 

 

 良かった、あと一時間はビクビクしてドキドキしながら向かわなければいけない所だった。

 

 

 いよいよこの世界にも自分なんかが居ちゃいけない、そう突き放されるのかと愕然とする自分が一瞬頭をよぎったくらいには恐ろしくなっていた。

 

 

 

 よく考えるとそんな話なら、せめて通話はあるかもしれないが、わざわざ呼び出しをしなくても、やろうと思えばさっさとできるだろう。

 

 

 いくら最低給付保障制度があるとはいえ、翌日からまた人生が変わるわけだから、ある程度事前のコミュニケーションくらいはある。

 

 

 私物と言えばそうだな、ここのキッチンにおいてある自分のマグカップくらいだし。

 

 

 そういえば最近、井上さんの姿を見ていないな。

 

 

 そのマグカップを片づけて部屋を後にする。

 

 

 

 日差しが強いが、今日は雨は降らないようだ。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年8月31日にnote.comに掲載したものです。

 

 

 

 

「…お、久しぶりだね。」

 

 

 …ん、元気そうだな。
講義を終えて少し外の空気を吸おうと部屋を出ると、ユカの姿があった。

 

 

 シェルターのミーティングルームは、居住区域と地上階の街へと続く関係者しか通れない通路にある。

 

 

 実質、技術者のみが定住することを許されているこのシェルターへは、周囲に集落をつくり生活する人たちが収集した資源や資料を運び入れるときに訪れることが出来る、ある意味楽しみな場所となっている。

 

 

 それは、同時に各地からの食料を含む産品や衣料品などを手に入れる数少ない機会でもあるからだ。

 

 

 氷に覆われた世界というだけならまだいいが、膨大な劣化プラスチックの粉末が空気中を漂い続ける世界だから、外での生活は余計に困難を極める。

 

 

 人が外でのびのびと生活できる日はまた訪れるかわからない。

 

 

 先ほどの講義では、少しずつではあるが空気中の水蒸気が南極と北極にて氷と固化するとともに、プラスチックも取り込んで積もり続けているという話もあった。

 

 

 ただ、人間が再び地上での生活権を取り戻すには、まだまだ膨大な時間がかかるようだ。

 

 

 

 あの日、おれたちがシェルターから外へと帰る日の朝に、一緒に帰ると思っていた幼馴染のユカの姿はなかった。

 

 

 帰る前日の夜、確か集められた資料に目を通しているとユカが現れ、贈り物をもらったという話をしていたが、そんな話をした裏には複雑な事情があったらしい。

 

 

 ユカの歳はたぶん、おれのひとつ下の十七歳のはずだが、その腕には生まれたばかりの赤ん坊を抱いている。

 

 

 

 シェルターはかつての文明の力で、先人たちが後世に生きる子孫のために地中に造られた建造物だ。

 

 

 まだ仕組みははっきりしていないが、雲の晴れない外よりは明るい照明が設置されていて、時折下層にある機械が噴き出す蒸気の音が聞こえる。

 

 

 故障する前にその仕組みをはっきりさせないと皆そろって生き残ることを諦めなくてはならなくなるかもしれない。

 

 

 

 ユカの腕の中にある赤ん坊の目にはキラキラと天井の照明が映り込んでいて、んー、あー、と何やら楽しそうにお話をしているようにも聞こえる。

 

 

「まだいるかなあ?」

 

 

 ん、今講義終わったばかりだから、もう少ししたら出てくると思うよ。

 

 

 ユカの子供の父親は他でもなく、講義を担当している技術者の彼だ。

 

 

「そか、ありがとね。」

 

 

 それだけ言うと、ユカはおれが出てきたばかりのミーティングルームへと入って行った。

 

 

 

 あの元気そうな姿を見る限りでは、ここの生活は良いらしい。

 

 

 空気が汚染されている世界だから、土壌もプラスチックが積もるために、作物を育

てるのも大変な手間と労力がかかる。

 

 

 人間が進化する過程でいたはずの動物たちもとっくの昔に滅びてしまったがために、狩りをすることもできない。

 

 

 少なくともここでは、大豆をはじめとした作物や、鳥、魚などのタンパク源を生産できる。

 

 

 そして、アルミ金属加工が可能なので缶詰にできるのも大きい。

 

 

 

 おれが技術者になろうと思ったのは、どこかですれ違ってしまったユカのことがあったからだと思う。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年8月24日にnote.comに掲載したものです。