地獄旅行を黒サギが導き伏線回収はヤーレンズ〜うさぎストライプ「新しい朝」 | この辺りの見所の者

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2024/1/28

あきたミルハス小ホールB 15:00開演。



自分は上方落語が好きである。大阪に行くと寄席の繁昌亭や動楽亭に足を運んで上方落語を楽しんでいる。去年、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」を映画館で観た。青サギの嘴のポスターが印象的である。去年のM-1で準優勝したヤーレンズは、決勝進出前後に池袋の小屋で2回観た。


うさぎストライプの舞台は初見。去年ずんだクエストで観た、ずんだ姫子こと菊池佳南さんが出ているので行ってみる事にした。


上方落語の大ネタの一つに地獄八景亡者戯がある。短く刈り込んだバージョンとリレー落語でしかナマでは聴いた事が無い。本寸法だと1時間以上になるネタである。


ウキィぺディアから↓



表題の「新しい朝」 どうしてもラジオの新しい朝が来たの歌を思い浮かべてしまう。新しいと言うワードは、今では必ずしもポジティブなものでは無い。タモリが新しい戦前だと例えたように。


会場に入ると、黒スーツの関係者が観客を誘導している。あとで気付いたが、そこから芝居は始まっていたのだ。当日券で来た観客も多く満席。自由席だったので、かぶりつきの左端の席に座る。


舞台にスーツケースと六つのパイプ椅子。出演者は六人。黒スーツの人が舞台上の注意を促して、そこからストーリーテラーとして大阪弁で地獄八景亡者戯の筋と一節。そこから伏線が張られていく。地獄八景では三途の川を渡り地獄に行く描写がある。新しい朝で、三途の川の場面は何処なんだろうと考えた。若い夫婦が車に乗っているとヒッチハイクで羽田までと紙を掲げる女を冷やかしで何度もも往復する。女は黒サギ(推測)の仮面を被っている。


君たちはどう生きるかで登場する青サギは主人公を別の世界へ誘なう添乗員でもあった。黒サギの伏線は何だろうと調べたら、予兆というワード。

結果的に女をクルマに乗せ羽田空港まで連れて行く事になり、空港ラウンジで3人で食事して隣の席には葬式帰りの男女。これも伏線。


登場人物は、現在過去未来の時間軸が幾度となく揺れて歪んで行き来する展開が、羽田→ベトナム→トルコ→イタリアの旅行に挟まれる。ヒッチハイクの女が黒サギの仮面を被っていたのは、あの世行きの予兆。黒サギは旅行の運転手の男(開始前の黒スーツ男)も途中被る。また予兆だ。行きつく先とは。


舞台にある六つのパイプ椅子を場面ごとに並べ替えると空間が見事に変わる。役者さんたちの練りに練られた芝居は、観ていて楽であり台詞劇として自然でもある。


上方落語には「いきだおれ」と云うネタがある。江戸落語の「粗忽長屋」と筋はほぼ同じだ。登場人物の芳公は、自分が亡くなった事に気づいていない人物。芳公の亡骸を友達の松ちゃんから聞いて自ら引き取りに行く荒唐無稽な噺である。


おそらく、夫婦の旦那が芳公状態にいつの間にかなっていて旅行の途中に自問自答したりしている。夫婦とヒッチハイクの女以外は1人複数の役者。


「地獄八景亡者戯」は高座で聴くと地獄廻りであの世の名人達の寄席を覗いてみたりと楽しい場面がいろいろ出てくる。「新しい朝」もベトナムやトルコでの観光や地元グルメを楽しみ場面がある。妻がモテる旦那に嫉妬して、ピンクの服を着せると脅す場面は、いつも普段ピンクのパーカーを羽織っている自分はこの日に着てこなくて良かったと冷や汗をかいた。


あの世の世界旅行だけど、この世の現実もちょいちょい挟まれて、あの世とこの世の時間軸が行ったり来たり。いろいろな細かい伏線が張られて回収していき、誰かには引っかかる場面が必ずあるのは、ヤーレンズの漫才みたいに思えた。


旦那だけが、亡くなって通夜の場面が出てくる。何処までがこの世で、何処からがあの世になっていたのか、2枚しか無い航空券に妻とヒッチハイクの女に何故、旦那もいたのか。ベトナムとトルコで、妻と女が体調不良になった伏線とは。旦那だけが白サギの仮面を被っていたのは何故か?

何回か出てきたチュパチャプスの伏線とは。

頭をフル回転させながら観ていたけど、全てを拾えなかった。一度だけじゃ無理だ。何回も観たくなる。


旦那がヒッチハイクして、妻が運転帽をかぶりつき、後ろの席はヒッチハイクの女がいて車で何処に行く場面で劇は終わる。その先は…

「新しい朝」の情景は…


観客一人一人違うだろう。その先を思考する楽しみと悩ましさがあるのだろう。

「新しい朝」には落語のサゲはない。観る人それぞれに委ねられる。


螺旋を行き来している時間軸に頭がクラクラした。


新しい朝で創作落語が出来そうだなぁと思えた。誰か高座に掛けてくれないかな。