若手能京都公演パートTWO 参りましたと頭を下げたい藝 | この辺りの見所の者

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気ままなブログです。

若手能の残りは、舞囃子二番と能一番。
これは、心がニコニコした藝でした。
▽舞囃子「龍田 移神楽」
シテ/河村博重
笛/杉 市和
小鼓/吉阪一郎
大鼓/河村祐一郎
太鼓/井上敬介
地頭/古橋正邦

龍田の移神楽の小書は初見。能の神楽は、神楽という囃子が途中から呂中干という、序之舞や中之舞のフレーズに変わる(直りといいます。)のですが、移神楽は舞の最後まで神楽のフレーズで舞います。

囃子は笛の杉 市和師と太鼓の井上敬介師が素晴らしくて、位に合わせた吹き込みと打音だと敬服。地謡は、ふくよかな立体感がありましたが途中、詞章の間違いは目立ったのは残念。河村博重師は、やや濃厚な空間で観せてくれました。

▽舞囃子「歌占」
シテ/宇髙通成
笛/杉 市和
小鼓/鳥山直也
大鼓/渡部 論
地頭/豊嶋 晃嗣

宇髙通成師は古希だそうで。まったくそうは見えない。凄い歌占でした。地謡は豊嶋晃嗣師地頭で、宇髙竜成師と徳成師兄弟と山田伊純師。歌占のクセは地獄のクセ舞と言われますが、聴く方にとっても永遠と続くかのようで地獄です。

地謡は、多少は荒さがありましたが調子とテンポはダルくならずに息で謡。通成師のキレや歌占の位が舞台に出ていて、忘れられない歌占になりました。伊勢の度会の者の神仏習合的凄みが通成師の藝で表現。大御所感ではない、またまだ伸びていきそうな強さを感じます。能で観に行きたいなあ。歌占が終わったあとは自分も息がゼイゼイな気持ちになりました。強烈でしたね。

▽能〈善界   黒頭〉
シテ/田茂井 廣道
ツレ/松野 浩行
ワキ/小林 努
ワキツレ/有松 遼一/岡 充
アイ/茂山 正邦(9/18日より十四世茂山千五郎襲名)
笛/森田 保美
小鼓/林 大和
大鼓/石井 保彦
太鼓/加藤 洋輝
地頭/浦田 保親

善界の黒頭の小書は初見かな。白頭は何回か観たことあるかな。

田茂井廣道師は去年の〈兼平〉が良くて、この善界も期待していましたが、期待以上の演能だった。前場から鷹という面かな。額の皺が強烈な面。前場の身体の線と密度をやや抑えめにして、最初の謡も若干調子が上がり気味でしたが途中から修正。あとでツレが登場して前シテと問答。ツレの松野浩行師もツレの位を守り好演。黒頭の小書が付くので常の善界より位が重いんですが、前場は締まった重さ。余白の密度が濃いけどシャープ。

中入の来序から途中狂言来序でアイの茂山正邦師登場。アイとしての曲の位取がさすが。空間を微妙に淡くさせて、曲を単調な空間にしないようにしている。曲の中の空間も濃淡は必要で、茂山正邦としての最後の藝に接することが出来た嬉しさも感じました。

後場は囃子の一セイがサラッと始まり、車の作り物が運ばれてワキ座に置かれでワキとワキツレが幕出してワキは車の作り物へ。後シテの登場楽は、大ベシかな。

いやあ、重厚な大ベシ。後シテの幕出から橋掛りをジックリとハコビなんですが、空からやって来ている感じがして、ここが個人的に一番白眉。特急列車に乗っていて外側を見ると風景がスローモーションに見えたりしますが、あんな感じ。囃子の大ベシて後シテのハコビがそう見えたのかもしれない。

後シテの面は大ベシミかな?緑色の大ベシミで額にも前シテの鷹の面にあった皺があったんで、どうなんだろう?
後シテは前シテよりも身体の線と密度をやや大きくふくよかにしている。
後場の後シテとワキのやり取りも重厚な空間の中に余白の激しさが見えるようでした。空間が激しいんです。気の圧の激しさかな。

前場と後場も地謡が良くて、浦田保親師地頭で息の長い重心を抑えめな地謡。地頭の緩急のテンポにピッタリと付ける地謡。
ワキの小林師の比叡山の高僧としての位取も良かった。シテは最後は負けて地謡はテンポ上げてそのまま幕に入っていきますが、重厚とキレが比例して、終了したあとのスカッとした充実感。天狗として神仏との戦いという中世感を表現出来ていたと思います。附祝言は高砂キリ。

本当に気持ちいいーー!という能で終了後はウキウキしながら伊勢への帰路につけました。
田茂井廣道師の藝を東京の見所に見せてあげたいなあ。

舞囃子「歌占」と能〈善界 黒頭〉は素直に参りましたと頭を下げます。
こういうのがあるから観能はやめられない。