父が叙勲を受章した。
叙勲とは国家や公共事業に功労のあった人に勲等を授け、勲章を与えること。
消防士として長年勤め、署長まで登りつめた。
父は偉大だ。
長男として野口家に生まれた私はいつも父に消防士になれと言われて育った。
公務員の安定した生活が1番の幸せだと厳格な父は考えたのだろう。
そして、長男は跡取りになることが田舎では当たり前とされていた。
私はどうしても首を縦に振ることはできなかった。
消防士がどうとか他の職業がどうとかではなく、ただ単純に親の言いなりになることが嫌だった。
また、佐賀の田舎に一生とどまることも考えられなかった。
父の反対を押し切り、美容師の道を目指した私は社会人3年目に上京、家を出た。
「東京に行くというのならおいはお前になんも手助けはしてやらん!!」と言われていたが母を通じて何度も仕送りを送ってもらった。
私が上京して何年目かに父は勤めている消防署の署長になった。
照れ臭さがあったが私は父にお祝いの電話をかけた。
晩酌中だった父は真面目な声でこう言った。
「おいはやっと頂点に登りつめた。和弘も東京でやるとなら頂点ば目指せ。」
東京に出てきて12年が経つ。
私にも家族ができた。
実家は弟が継いだ。
昔よりはそれなりに仕事も増えた。
これまでの私は父への裏切りに対してどれだけのことをしてあげられただろう。
今回、父が叙勲を受けた。
本当にすごいことだ。
お祝いをと父の好きな刺身を用意した。
焼酎を、片手に父はこう語った。
「下っ端から地道に頑張ってここまで来た。叙勲を、受章することは本当にすごいこと。ただこれは家族や部下やたくさんの人たちに与えてもらったのと同じことだ。」
親父の背中はでかくてまだまだ遠い。
叙勲受章、本当におめでとう。