ガンを自然退縮させる薬(仕組み)-13 | 松野哲也の「がんは誰が治すのか」

松野哲也の「がんは誰が治すのか」

治癒のしくみと 脳の働き

 

 

 統合失調症(スキゾフレニア)は、人口の約1%が罹患するとされており、幻覚、妄想、無為、自閉、認知機能障害等 ( 私にもあてはまります)のさまざまな症状が認められるそうです。

 その原因については不明な点が多く、いまだに解明されていません。脳内では、A9 や A10神経から放出されたドーパミンを(神経)細胞内に取り込むドーパミントランスポータ ( dopamine transporter 下図参照 ) とよばれるタンパク質性構造体の量に変化が起きていることが予想されており、神経伝達物質のひとつであるドーパミンの反応が過剰になることにより、スキゾフレニアが発症するとしているドーパミン仮説(*a) が、もっとも信頼性が高いと考えられています。

 

 

 

 

 

 

 しかしながら、これまでのPET(*b)や SPECT (*c) を用いた研究では、脳内の線条体( 前回の図参照)という限られた場所のみを対象としており、スキゾフレニア患者のドーパミントランスポーターは、健常者と比較しても変化がみられないと報告されていました。

 

 近年、スエーデンで開発された[11(上小)C]PE2IというPETトレーサー(*d ) により、線条体だけではなく、脳の視床や黒質においてもドーパミントランスポーターの変化を測定することが可能になりました。

 

 

 独立行政法人放射線医学総合研究所分子イメージング研究センターの脳病態研究チームの荒川亮介博士研究員らは、日本医科大学、慶應義塾大学との共同研究により、上記トレーサーを使ったPET装置ををもちいて、「統合失調症患者の脳内では視床(脳内情報統合部位?)のドーパミントランスポーターが増加しており、さらにその量が統合失調症の重症度と関連する」ということを報告しました。

 

 

 上記PETトレーサーを用いて、統合失調症患者と健常対照者の視床を含むさまざまな脳内部位のドーパミンとラランスポーター量(正確にはアイソトープ結合量)を測定した結果下記の結果が得られました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* a  統合失調症の陽性症状(幻覚・妄想など)は大脳基底核や

   中脳辺縁系のドーパミン過剰によって生じると言う仮説。

 b   Positron emission tomography の略称。

       陽電子断層撮影。

 c   Single photon emission computed tomography 

       の略称。

   単一光子放射断層撮影。体内に投与した放射性同位体から

   放出されるガンマ線を検出し、その分布を断層画像にした

  もの。PETと同じく、生体のさまざまな機能を観察する   

      ことを目的にっ合われ、従来のCT装置では確認できなか

  った血流量や代謝機能の情報が得られるため、脳血管障害、

  心臓病、ガンの早期発見に有効とされる。

 d    炭素11で標識されたコカイン類似化合物。

  ドーパミン受容体に結合するものとしては、ラクロライド

  がもちいられる。

 

 d の場合、PETで撮影します。陽子が多く中性子が少ない不安定同位体の場合、弱い作用でβ崩壊がおきると、陽子が陽電子と中性子になる。この陽電子が周りの電子にぶつかって対消滅したときに放出される信号がキャッチされるのです。

 

 

 

 コカインやかって問題となったヒロポン(アンフェタミン誘導体のメタンアンフェタミン)はそれ自身がその薬効を示すわけではありません。これらドーパミン類似化合物は体内に入るとドーパミントランスポーターに結合します。通常、神経末端から放出されたドーパミンは接する細胞のドーパミン受容体に結合します。バラまかれて吸収されなかったたドーパミンはドーパミントランスポーターで回収されます。これらは再吸収されるべきドーパミンを脳の神経細胞外に残すのです。ですから、これら麻薬的化合物の作用は、ドーパミンによるものなのです。

 ドーパミンが脳内快楽物質といわれたのもそのせいでした。しかし、さまざまな動物(人体)実験がよく行われるようになった昨今、A10神経は、報酬系( reward system ) と名前を変えました。動物学習実験にはご褒美が不可欠ですので、以前は Hedonic nerve ともよばれていたのです。